第3話 笹木と黒歴史再び
フラムとの対話の続きです。
俺は俺1号。引き続きフラムとしてフレイヤと何やら謎めいた会話をしている。
「あぁ、そうだった。いまのフレイヤはアバター発現直後、ムー教授が亡くなる前の設定なのね」
また、ムー教授だ。いったい誰なんだ。
「笹木にも教えてあげるわ。ムー教授は、調和派の幹部でラビリンスシステムの第一人者よ。笹木。あなたの使うユニークスキルのアバターはムー教授が設計したんだから感謝しなさいよ」
俺の小説にそんな人いなかった気がするんだが…。
「当たり前よ。あなたの小説は、ムー教授がスキル設計に使ったただの素材なんだから。ムー教授は実在の人物よ。あなたたちがダンジョン人とよぶ人たちの1人ね」
ひよりが口を挟む。
「僕もアバターだから、僕の生みの親でもあるんだね。そのムー教授は」
俺3号もペルソナを起動したんだろうか。
「そうよ。あなたは隼人ひよりね。仲良くしてね。それにしても、中に人がいるのってなんだか変な気分ね。よく耐えられるわ、あなたたち」
そういって、ひよりとフレイヤを見渡すが、今変な気分なの!? どんな気分なんだろう。俺は慣れてるから感じないが。
「笹木、あなたも感じていると思うけど、なんだか覗き見られているような、くすぐったい気分よ」
言ってもアバターだしなぁ。あまり考えたことはなかった。これは、性差のせいか?
「まぁいいわ。あなたは、稀代のスキルメーカーのムー教授が作ったスキル『アバター』を持っているんだから、メンタルも相当強そうね」
褒められてるのか、図太いと言われているのか…。しかし、フレイヤでペルソナを使った時も驚いたが、フラムは更に饒舌だし情報が多い。
「あたしはイレギュラーよ。フレイヤよりもより多くの情報を持たされた、元はと言えばあなたの小説の登場人物。くやしいことに脇役のね。失礼しちゃう。視点が違えば、あたしだって主人公になれそうなのに」
主人公向きの強気さを感じる。
「あと、ここまで介入するのはダンジョン人側の法に違反するの。ムー教授がご自分が亡くなったら更新するようにシステムを書き換えていたのよ」
システムってなんだっけ。
「システムは、あなたが見ているステータス画面などを管理している機能よ。もちろん、ダンジョンなんかも管理しているわ。あなたは会ったようね。バミューダトライアングルのダンジョンのモンスター。あれは、システムからの指示を創造主と言っていたようね」
どうやら、フラムは俺の記憶も見えている様だ。ようやく、くすぐったいという気分が分かってきた。
「ほらね。くすぐったいでしょ。ところで、深淵派は、あなたの世界を滅ぼしても手に入れようとしているわ。もう知っているようだから詳しく言うと、深淵派がガームドさんのいう強硬派ね。そして、調和派が穏健派よ」
そこでフレイヤが口を開く。
「フラム。調和派の他の方はどうしたのかしら? 全員殺された?」
フレイヤは少し悲しげだ。
「そんな野蛮な世界ではないと言いたいけど、力のある人たちは拘束されたらしいわ。無事なのかは不明。ムー教授の死因は病死となっているわ」
本格的にきな臭い。海底ダンジョンの『メッセンジャー』、ガームドさんのユニークスキルの話、セリーヌさんとの会話、そして、フラムの発言。そして、俺の小説の話。すべてが、俺にダンジョン人のところに向かえと言っているようだ。
「察しがいいじゃない。そういうこと。あなた、ダンジョン人の世界にきて、深淵派をなんとかしなさい。あなたの力はそれが可能なように設計されてるわ」
ひよりがペンを置く。
「ラビリンス・ドリフトを使ってダンジョン人の世界に行けるんだね」
「そうよ。ラビリンス・ドリフトを使えば、あなただけが到達できる」
俺だけでなんとかできるのか?
「あなた、分かって聞いてるわよね」
フラムが呆れたとため息をつく。
「行った先でアバターを使えば、いくらでも増えるじゃない」
そんな、ゴキブリみたいな言い方されても…。
そこで、フレイヤが質問をする。
「笹木が深淵派を倒しに行くというのは分かったんだけど、調和派が勝てば地球は安全なのかしら?」
「調和派は現地の生命体との平和を望んでいるわ。内政干渉はしないし、もし、こちらに拠点を築くにしても、いくつかのダンジョンと不毛な大地なんかの買取交渉くらいが関の山だわ」
なぜ、そこまで譲歩できるんだ。深淵派は倒してしまえの方になっているんだろう?
「調和派は、ダンジョンによる他世界への進出を最初に言い出した学派よ。魔力資源が減りつつある世界の対策として並行世界からの資源確保を言い出したの。地球は、その最初の場所よ」
「最初なんだね。平和的に資源を採りに行こうとしたら、思いのほか血の気の多い連中が戦争始めようとしているから反対しているって感じかな?」
ひよりに言われて気づく。最初の計画を調和派が立てたなら、それをちゃんとこなせばいいんじゃないか?
「そういうことね。調和派の計画は100年以上に及ぶ長期計画で、魔力が満ちた地球から魔力を送る施設を月に作る予定だった。でもね。魔力の枯渇が著しく早くなったのよ。そのため、計画の前倒しについて世論が動いた。だから、深淵派の動きは、世論に後押しされての動きだったのよ」
フラムの言う状況ならば、深淵派を倒したところで、早く地球に来れるようにして、地球から魔力を奪っていく図式が見えてしまうんだが。
「深淵派がいなければ猶予ができるわ。何かいいアイデアができれば、世論も動くわ」
そういえば、学派とか、世論とか言ってるけど、ダンジョン人って、どういう世界なんだ?
「ダンジョン人は、魔道技術連邦という巨大な組織の一員です。様々な魔道結社の集合体よ。その中に、思想として深淵派、調和派、その他の小派閥が存在するの」
うん、分からん。そんなに大きな世界じゃないんだろうか。なんだか、ゲームっぽい。
「そんなことはないわ。人口は30億人ほどおり、地球よりも少し小さい惑星に居住しているから」
変わった社会だな。ひよりがメモから顔を上げる。
「僕は行ってみたいね。魔道具師としては、本場は気になるわけさ。でも、そんなに気楽な話ではないね。早く魔力を送る方法が分からなければ、こっちのダンジョンをスタンピードさせて、魔力を送れるような環境にしてしまうってことか。魔力の急上昇って体に悪いのかな?」
「わたくしも気になったわ。魔力によって障害がでたりするのかしら」
フレイヤも気になったようだ。
「人類は大丈夫ね。ステータス画面の恩恵で多少の防御になっているから。でも、そのほかの微生物や動物までは対応していない。それらは、世代交代を繰り返しながら、魔力に慣れないと、絶滅する。作物も家畜もとれない地球に人類は生きて行けるかしら?」
メルが聞いたら発狂しそうな内容だな。
「無理ね」
フレイヤが腕組をして考え出す。
「スタンピードが起こるまでの猶予はどれくらいかしら」
「アバターを使い始めて何か月たってる?」
9月から使い始めて、今で3月。半年くらいか。
「半年か。じゃあ、猶予は長くて半年ってところね。どうする? 笹木」
これはやるしかないだろう。深淵派の強硬策を止めながら、ダンジョン人たちの魔力不足を解消する方法を考える。よし、この流れだな。
「あなたならそう言うと思ったわ。ムー教授の見立て通りね。エッチなハーレム好きだけど、頼りにしてるわ」
え? 内容しってる?
「ムー教授が知っている範囲だけね。ムー教授は読み込んでいたわ。ダンジョンから拾い上げた貴重なデータだからと言って、仲間内で公開していたわ」
仲間内で公開処刑? え、え、え、やめて、やめてくれ。俺のライフは0よ…。
フレイヤもひよりも表情に出ていないということはペルソナを起動継続しているんだろう。そして、中の俺たちは今、黒歴史を異世界というか他の惑星の見知らぬ人たちに回し読みをされるという状況に耐えているのだろう。
生きろ、俺。いや、俺たち。
みなさんの予想は当たりましたかね。
笹木の小説は、遠い世界でダンジョン人に読まれていたようです。




