第27話 影子と転送機
6章最終話となります。
金沢ダンジョンの深層。そこに忍者屋敷のような和風建築が建っている。ジェシーのスキルで作った安全地帯の1つだ。その中庭に、影子とフレイヤが立っている。フレイヤはいつもの薄着ではなく、黒いドレスを身に着けており、手には黒い扇子を持っている。いつもよりも化粧が濃く、アイシャドーとチークが入っている。そして表情は険しく、影子に向かって黒い扇子を突き付ける。
「何をしているの? ひざまずきなさい。影子」
影子は土俵みたいな円形の舞台の上に乗り、フレイヤに土下座を始める。そして、さめざめと泣き始める。
「姫。おらにお慈悲を。次は失敗しません。お約束します」
「無駄なことよ。あなたは何度も失敗を繰り返したわ。忍びに慈悲など無いのは重々承知よね。責任を取って、さっさとお逝きなさい。ポチッ」
そして、フレイヤは目の前にある装置のスイッチを押した。押す音を口で表現するのが、コミカルだ。
「姫ぇぇぇえ。殺生な、お慈悲をお慈…」
影子が鼻水を垂らしながら顔を上げる。その後、言葉の途中で影子がその場から消滅する。後には、静まり返った建物が残される。
「あなたを1人にはしない。影子。わたくしも後で逝くわ。地獄で待っていてね」
フレイヤはフッと息を吐く。そして、台座に背を向けるとクスクスと笑い出す。その時、ひよりの声がした。
「転送機実験187回目、成功っと。フレイヤ、成功だよー。出現位置ピッタリ。おつかれさま」
フレイヤが操作した機械にひよりとのビデオ通話で先ほどからつなぎっぱなしである。その通話先のひよりは金沢ダンジョンの1階層目の草原エリアにいる。ちなみにひよりは未だに探索者の研修を受けていないため、開発行為に限り護衛ありでダンジョンに入ることができるという特例を以てダンジョンに入り込んでいる。ひよりとして探索するつもりがないので、それで十分だとも言っている。
ところで、この実験のために金沢ダンジョンを2日間閉鎖している。金沢ギルドの職員も立ち入り禁止となっており、この実験の経過などは外部に漏れることは無い。
「よかったわ。ようやく調整完了ね」
フレイヤは安堵して近くにある椅子に座る。この試験を始めて半日以上たっていたのだ。体力的にというよりは待ち時間が長くて、うんざりしていたのだ。
「うん、飽きたからって待ち時間に化粧まで変えて寸劇を挟むのはどうかと思うけどね。でも、おかげでようやく終わったよ。ありがとう。それにしても、フレイヤは悪役メイクも行けるね。悪の女幹部って感じさ」
その言葉にフレイヤが苦笑する。
「姫。今回は大丈夫でした。見ました? おらの迫真の演技」
影子がひよりの横から顔を出す。先ほどの転送機にのっていた影子の分身だ。フレイヤの傍にも別の影子の分身が集まってくる。影子の分身たちも良い演技だったと互いに認め合う。
「やっぱり人体実験には影子の分身だよね。おかげで、裸になったり、上空に現れたりしたけど、何とかなったもんね」
言葉だけ聞くとマッドサイエンティストなひよりだが、影子の分身のおかげで転送機の試験ができるのはその通りだ。影子が分身のスキルを持っていることをガームド局長と情報共有したことで、その分身を使った人体による転送実験なども許可が下りた。人体に影響が高い魔道具の安全性実験については、かなりハードルが高いのだが、そこをかいくぐった形になる。
「ひどいです。おらもさすがに裸になったら傷つきます。お嫁にいけません」
「その時は、わたくしがもらってあげるわ」
フレイヤの言葉に「やったー」と飛び上がる影子。先ほどの寸劇とは打って変わって軽い様子だ。
今回、転送機の微調整では200人ほどの影子分身により、人体に対する転送機の出力調整が可能となった。服が脱げたのは、最初の2,3回だけだった。アイテムとして判別して、服が整頓されて、影子と一緒に吐き出されたのだ。真っ裸の影子が靴や服の上に立っていた。その記録映像はすでに消去済みだ。
そして、ダメージなどが発生しないかという確認をするために、一般人レベルにHPを下げた多重分身後の影子を投入したりすることで、転送中にダメージを負わないこともちゃんと確認した。その後、何度も実験が行われ、下層からの1階層への転送、また、その逆が可能なことも証明した。そして、最後に出現位置の調整だった。
ちなみに、一度の転送に輸送対象の保護に魔力を多く使うため、魔石1つを消費している。魔石は、探索者としては安い10万円ほどの魔石となる。設備の運用人員などを考えると、1回でその3倍くらいの費用を取ることも考えられているが、今のところは議論段階だ。
影子の分身は多数控えており、そのうちの1人がひよりに声をかける。
「それにしても、よくこんなに早く仕上げましたね」
その言葉にひよりもまんざらではない様子。
「えへへ、僕もすごいと思ってるさ。でも、独力ってわけじゃなくてね。ガームドさんが手元にある技術をすべて晒してくれたからさ。必要な魔道具開発もすごいスピードで進んだよ。おかげで、ダンジョンガイダンスのアップデートも重なって大変だったけどね。その点は、影子のおかげでいろいろ助かったよ」
「えっへん。おらは役に立ちます」
影子が胸を張る。そこでフレイヤが何かを思い出したようだ。
「ところで質問よ。この調整って毎回するのかしら? さすがに時間がいくらあっても足りないわよ」
「大丈夫だよ。今回取れたデータと人間じゃなくて、人間に模した魔道人形を使って調整作業は自動化できるから」
「え? 魔道具人形?」
影子が眉をひそめる。
「うん。人間の魔力なんかを模したり、内臓の動きなんかを模した脆弱な回路を搭載していてね。それを使えば、転送機の調整が何往復かするだけで出来るようになるのさ」
「もしかして、おらが体を張らなくてもよかったんじゃ…」
恐る恐る影子が訊ねるが、否定してほしそうなニュアンスが籠っている。
「そんなことは無いよ! 魔道人形の方が相当高いんだから!」
できないわけじゃなくて、費用面らしく、影子が両手を地面についた。
「人形よりも安い命…。ところでいくらなんですか? その魔道人形って」
ひよりがその質問に指を1つ立てる。
「100万円?」
「1億円さ」
「なら、おらが体張る方がいいかも。1億円分の仕事ができるくノ一って優秀」
影子が妙な納得をしたのでこの話は終わる。
その後、ひよりはガームド局長に実験成功の連絡をした。ガームド局長は、ひよりからの連絡をずっと待ってようで間髪入れずに電話を取る。
「実験は完了したよ。各地のダンジョンへの設置に向けて手順なんかを確立すれば、運用フェーズに入れるよ」
「ハヤト先生、ありがとうございます! これで、深層攻略も進みます。しかし、転送機の生産がネックですね。どうしても、まだ部分的にハヤト先生のお力が必要です」
ガームド局長の声が弾む。
「そうだね。ひとまず、月10台の生産を目指すとするよ。その間に、開発の効率化について考えてもらえるとたすかる」
「ええ、そこはお任せください! 魔道開発局の技術力を発揮させてもらいますよ」
そして、3月には日本を起点としてギルドが優先順位をつけた主要なダンジョンでの転送機の実証実験という名の実用化が始まることになったのだった。
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