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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第6章 くノ一になった日

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第24話 笹木と使命

6章ももうすぐ終わります。

 俺はフレイヤとして、グランドマスターのセリーヌさんとガームドさんに海底ダンジョンの話をする。それは、時間にしては20分ほどだっただろう。2人とも質問を挟むことなく、静かに聞いてくれた。


「話は以上よ」


 セリーヌさんは顔を伏せている。


「ガー…あなたの予測と一致したわね」


 ガームドさんが、長く息を吐く。


「ああ、フレイヤさん、ありがとう。この話によって私の予測の裏付けになったよ。何を言っているか分からないよね。ああ、ちゃんと説明しよう」



 ガームドさんはコーヒーを一口飲むと、話し始めた。


「まず、この話はエバーヴェイルの中だけ、つまり、クランメンバーだけに限って欲しい内容です」


 そこからはガームドさんの予測の話が始まった。


「私の持つユニークスキル『時の囁き』で、何万通りの質問をしてみました。その中でおぼろげに見えてきたのが、さっきフレイヤさんが『メッセンジャー』から聞いたというダンジョン人側の動きの話です。もっと早く見せてもいいとは思っていたんですが、エバーヴェイルの笹木さんにはノイズになるかもしれないと思い、伏せていたものになります」


 ガームドさんは、いくつか整理した資料を見せてくれた。

 そこには、ダンジョン人が地球にダンジョンを作り出したところから図解されていた。そして、その背景にあたるダンジョン人の世界に関する情報までもが概略とは言え描かれていたのだ。


「ダンジョン人の世界は並行宇宙にあります。地球人類がいかに発達しようとも、純粋な科学の延長線上では到底たどり着けない領域に存在します」

「そんなに遠いの?」


 メルが純粋な疑問をぶつける。


「遠いですね。しかし、物理的な距離ではなく、次元を超えた遠さになります。そうですね。まるで鏡の中に入るような、近くて見えるようなところにあるにもかかわらず行けない。そんな場所です」

「鏡…。不思議の国のアリスみたいなお話なの」


 メルの言葉にガームドさんが何度も頷く。


「ええ、そうなんですよね。アリスさんの能力は、まさにその世界の壁を飛び越える能力に近いものと考えています。そんな近くて遠い世界にダンジョン人たちは棲んでいます。そして、動機は不明ですが、彼らは地球への進出を目指しています。そして、彼らには派閥が存在し、その進出方針に違いがあります。地球の簒奪を目論む派閥は強硬派。共存を望む派閥を穏健派と私は呼んでいます」


 そこでセリーヌさんが声を出す。


「そう、その派閥の話こそ、フレイヤさんが『メッセンジャー』から聞き取った内容と合致するのです。おかげで、ガーのユニークスキルから細かな情報をまとめて作り出した、そんな帰納的推論に基づく話に対して、ようやく別の言質が得られたわけです」


 ガームドさん、地道なことをしていたんだろう。以前のガームドさんの話では、さんざんダメスキルだと自分で言っていたのをフル活用しているじゃないか。


「ぜんぜん、ダメスキルじゃないわね。むしろ、有用な情報を出してくれるわ」


 ガームドさんは苦笑する。


「あー。以前、笹木さんに話した時のことですね。いやはや、確かに役に立ちます。ただ、この情報をつかむために、数万回の質問を角度を変えて行ったと思います。苦行でしたよ。途中から質問をするためのアルゴリズムなんかを開発したりしたおかげで、少しマシにはなりましたが」


 そして、ガームドさんはモニターに別の映像を映し出す。以前みせてくれた世界地図で、ダンジョン分布とダンジョン落下予測位置と魔力濃度の分布が描かれている。


「ここからの話も『メッセンジャー』が語った内容に合致しています。ダンジョン人は地球の魔力濃度を上げようとしています。それが、住みやすい環境だからか、ダンジョン人の世界と行き来するために必要な行為なのか、はたまたその両方なのかは不明です。そして、その魔力を生み出す手段がダンジョンです。ダンジョンを送り込んできた際には、ダンジョン人側も多くの魔力を使って送り込んだんでしょう。我々が、多大なコストを駆けて宇宙にロケットを打ち上げるように。彼らは、ダンジョンを送り出し、長い時間をかけて地球の魔力を上げていく。この話が合致しています」


 ガームドさんが画面を操作すると、魔力濃度が著しく赤くなった部分がある。赤い部分は、サンフランシスコだ。


「これは、エバーヴェイルの方々に対処いただいたアルカトラズのスタンピード際の魔力分布をギルドが打ち上げた観測衛星が捉えたものです。スタンピードが起こった地域は、一定量の魔力が残存し、長く魔力濃度が高い状況が維持されます」


 この場にいるメンバー全員がかかわっているため、お互いに顔を見合わせる。アビスヴォーカは、そうすると魔力濃度を上げるためにスタンピードを起こした?

 同じ疑問をジェシーが口にする。


「ええ、アビスヴォーカの狙いがスタンピードであった可能性は高いです。ダンジョンが、SFでよく出てくるような火星のテラフォーミングの装置とすれば、酸素を多く吐き出して、惑星を変えていかねばなりません。ただ、火星とちがい地球には、原生動物、人間や動物、植物などが存在します。それを生かしたまま環境を変化させるには長い時間が必要です。その長い時間を待ってでも地球に来たいのが穏健派、原生動物のことなどお構いなしに急峻な魔力上昇を行おうとしているのが強硬派だと考えています」


 そこで、メルが手を挙げる。


「ごめんなさいなの。トイレいってもいいの?」

「あ、これは気が付かず申し訳ない。すこし休憩しましょう」


 ガームドさんとセリーヌさんも少し息をつく。メルは部屋に戻ってきたときに、どこで買ったのか、お菓子を両手いっぱいに抱えていた。


「それどうしたの? 買い物行くなら一緒にいったのに」


 アリスの言葉にメルが首を横に振る。


「ギルドのお姉さんたちがいっぱいくれたの。お腹すいてるんじゃないかって」


 メルが嬉しそうに答える。メルのことをよく知っているみたいだ。ガームドさんも皆のコーヒーのお替わりを持ってきて、会議の続きを始めた。


「我々ギルドは、スタンピードを抑える目的も含め、ダンジョンを攻略することで、魔石を産出してきました。その結果、魔石由来の機器が使われ、地球の魔力濃度が上昇します。しかし、急なエネルギー市場の変化が紛争に発展しないように、ギルド側の買取価格などを調整しており、魔力上昇は緩やかなものでした」


 ガームドさんは魔力の総量についてのグラフを見せてくれる。この手の情報はダンジョン研究などのニュースで何度か見たことがあるが、魔力の体への影響とか発がん性の話だとか、かなりいろんな分野で騒がれてはいる。しかし、その恩恵で身体能力があがる探索者の実例が多すぎて、封殺されているというのが現状だ。

 ガームドさんが、そこに上昇率の変化を加えていく。100年後といわれた魔力上昇の予測のラインを5年後くらいの位置に持ってくる。


「今後、『メッセンジャー』の言う指令によりダンジョンの数が増え、それを人類側が抑えきれずにスタンピードが乱発すれば、魔力上昇は今よりも急激に高くなるでしょう。それがこのグラフのような状況かと思われます。『メッセンジャー』の話がどれほど正確かはわかりませんが、この目安についてもおおよそ予測と合っていました。しかし、今回の指令の変化については、私のスキルでも追い切れていない情報でした。つまり、ダンジョン人側で急激な政変などが起こった可能性が高いということです」


 セリーヌさんがマイクをONにする。


「私もそう思うわ。穏健派が失脚しかけているのだと思う。強硬派が地球への訪問、いえ、侵略を早めていると考えるのが一番ね」


 沈黙が落ちる。


「ちょっといいか。穏健派がまだ失脚していないという理由はあるのかい?」


 ジェシーが手をあげて質問をする。


「笑わないでくださいね」


 セリーヌさんが穏やかに微笑む。


「エバーヴェイルさんたちが、このタイミングで現れたことがその理由と考えています。例えば、笹木さんに何らかの力が与えられたのは、穏健派の企てなんじゃないかと考えています」


 えー、なんかバレてる?? まさか、アバターが知られてる? 汗ばんできた。


「セリーヌ、いきなりは止めよう。みなさん、驚いてる」

「あら、でも、みなさんそんなに驚いてないわよ。あなたも、笹木さんが有能な人を異世界から召喚しているんじゃないかって言ってたじゃない」

「いやいや、あれは飲んだ時の軽口で、本当にやめよう」


 アバターの詳細はバレていないようだ。召喚については、ある意味渡りに船かもしれない。俺は、交信を使って、俺1号に連絡を取る。すると、了承の返事が返ってくる。


「よろしいかしら」


 俺は手を挙げる。


「どうぞ、フレイヤさん」


 ガームドさんがハンカチで額をぬぐいながら答えてくれる。


「笹木は異世界から召喚はできないわ。でも、召喚することはできるわ。マナ以外は、笹木の召喚に応じて集まった能力者なのよ」

「ほらほら、半分あたったじゃない」


 嘘は相手の信じたい部分をそのまま流用するのがいいってなんかの本で読んだことがある。そう、嘘はついていない。アバターの詳細を説明していないだけだ。


「すみません。無理に聞き出したみたいで。では、やはり笹木さんが起点なんですね。なるほど、なるほど」


 ガームドさんは、しきりと頷いた後、俺たちの顔を見渡して話始める。


「さきほどのセリーヌが穏健派が失脚していない理由を説明していましたが、あれは私も同感なんです。その理由は、エバーヴェイルの方々の能力が、ダンジョン人の世界に乗り込んで何かを為すための能力がそろっていると考えているからです」

「よくわからないの。もう少し簡単に話してほしいの」


 メルはリンゴジュースを飲みながら訊ねる。メルは、無邪気な質問がしやすいので助かる。


「まわりくどかったですね。政変で消えつつある穏健派が、エバーヴェイルの方々に助けを求めているんじゃないかというのが私の予想です。ダンジョン人が、地球人にステータスというシステムを与えている中、そのシステムを介して助けを求めているんじゃないかと思うんです」


 ガームドさんは飲み干してしまったコーヒーカップを飲もうとして空なことに気づく。


「数年で、ダンジョン人に対抗しうる力を手に入れるよりも、ダンジョン人側の政変を何とかする方が簡単かもしれません。あ、これは、まったく根拠がないですが、侵略される火種を消した方が、侵略後の大火を消すよりも簡単じゃないかと思っています」


 その後、ガームドさんから、この仮説の根拠の説明や、月の裏のダンジョンが並行宇宙との出入り口になっているんじゃないか説など色々と話を聞いた。そのうち、ピザを注文してうやむやのうちにパーティみたいになっていった。セリーヌさんも忙しいらしく、そのタイミングでは退席していた。


「このピザおいしいの」


 メルはいつもながらいっぱい食べる。


「ペパロニがいいな。レシピが気になる」


 ジェシーはレシピを考え始める。アリスは給仕してくれている。



 そんな中、俺はガームドさんが用意してくれたワインを飲みつつ考える。ダンジョン人が助けを求めている構図が、笹木の小説と一致していることに気づく。やはり、笹木には使命があるようだ。そんなことをこの日、俺たちは考え始めたのだった。


ダンジョン人の考察が進みます。

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― 新着の感想 ―
始まりが根掛かり(?)だった事を考えるとだいぶスケールがデカめになってきたな…… いやまぁ、異界の政争だとか地球文明の未来についてなんだし当然なんだけど。
 ここまでの情報でぼんやり感じたのは、  セリーヌかガームドのどっちか又はそいつらのパーティーの誰かが笹木の黒歴史本をダンジョンで拾ってる。それかパーティーに笹木の母がいてそこから伝わった。  んでガ…
セリーヌさんもしくはガームドさんに笹木の能力をバラして協力者側に引き込んでおいた方が後々いい結果になりそうな気がするな いっそ両方を引き込んでた方が動きもスムーズになりそう
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