第22話 海底ダンジョンとメッセンジャー
ダンジョン編も佳境です!
俺は俺2号。海底ダンジョンのドーム状の空間に入ったタイミングでメルだった俺は思わずジェシーとアリスに最上級の支援魔法を使ってしまう。
「オーラ::ベヒモス、エーテル::ヴァーミリオン」
ジェシーとアリスの物理、魔力共に数倍に跳ね上がる。なぜ、そんな事をしてしまったかというと、目の前に佇む山が放つ威圧が、切り裂くような物理的な圧力を持っていただからだった。そして、自分にも支援魔法をかける。
「これはこれは、このレベルのダンジョンボスは見たことが無いな」
それは像のようだった。ピクリとも動かなければ、そう思っていただろう。水面から直立した高さは100メートルは超えているじゃないだろうか。さらに横幅も同じくらいある。ダンジョン外で出会った巨大タコがメダカに思えるサイズの怪生物でタコの頭にガーゴイルがくっついたような姿をしている。思わず名状しがたいと言いたくなる。もしかして、これは地球の創作からできてきたモンスターなんじゃないだろうか…。
「空気が痛いわ」
アリスが顔をゆがめる。きっと俺もしかめっ面したメルなんだろう。
「いったい」
その時、頭に痛みが走り思わず声がでる。影子の分身が何人か膝をつく。俺はメルからフレイヤに姿を変える。一触即発ならば、ダンジョンの崩壊などを気にせずに強襲するのが得策だと思えた。
『いよいよ、人類はここに踏み入れることができるようになったんだね。それも、この姿を見るだけで正気を失いかねないというのに、よほど鍛えられていると見える』
それは言葉だった。脳内に突き刺さるような言葉が聞こえてくる。声は男でも女でもない。あくまで、言語としてだ。しかし、日本語ではない。フレイヤが分かる特殊な言語といえばダンジョン語だろう。ペルソナを起動してみる。
「ダンジョン語よね?」
『おお、言葉まで扱えるとは。そうか。外にモンスターを送ったのは君たちを連れてくるためだったんだな』
ガンガンと脳に響く。
「ちょっとボリュームを下げてもらえるかしら。耳元で雷が鳴っているような大きさよ」
『それは失礼した』
その声は幾分かマシになった音量で聞こえてくる。
「この声は、わたくしの目の前にいる巨大な方が発しているということでいいかしら?」
巨大なモンスターは身じろぎしないが、声はフランクに答えてくれる。
『ああ、そうだ。君たちの目の前に立っているのが私だ』
モンスターと言葉を交わしたという話は聞いたことが無い。あまりにも知性のある言動に困ってしまう。
「あなたは、モンスターかしら? それともダンジョン人?」
『私はモンスターと言えばモンスターだ。ダンジョン人というのは、たぶん私の創造主だろう。君が戸惑うのは当然だ。分かる範囲で説明をしてあげよう』
俺が説明が分かっているからだろう。いつの間にか、ジェシーとアリスがフレイヤに変身している。影子の分身たちは、膝を抱えて座っている。目がうつろだが、ダメージを受けている様子はない。
「では、あなたは何なの? わたくしは、こんな会話ができるモンスターとは逢ったことが無いのよ」
フレイヤが聞くと、笑っているのだろうか。湖面が波立つ。
『私も何者かという疑問についてはよく考えるよ。私の解釈となるが答えると、私はメッセンジャーだ。この地球という星に棲む生物に対し、この星を滅ぼすことになるかもしれない異星人たちの先ぶれということだろう』
「滅ぼすですって?」
俺は自分の小説を想起する。
「あなたが滅ぼすわけではないのね? ダンジョン人が滅ぼしにくるの?」
また、湖面が揺れる。
『可能性の話だ。こちらの世界には、海に眠る巨大な生物が地上に現れた時、世界が滅ぶという伝承があるらしい。私は、それに則って作られたモンスターの一種でしかない。だが、滅ぼすほどの力はないさ。きっと君たち全員で掛かってくれば倒せるだろう』
なんだか、俺のアバターみたいな話だな。これでは、地球の創作物をダンジョンが利用してモンスターを生み出しているという都市伝説が真実味を帯びてくる。
「ダンジョン人は必ず地上を、人類を滅ぼすの?」
そう聞くと、1分ほど沈黙が落ちる。
「聞いてはダメだったかしら?」
再度聞くと、返事がある。
『いいや。可能性の話を掘り下げよう。私の知る範囲ではあるが、ダンジョン人は、この星での共存を望む者と、この星の簒奪を望む者の2つの派閥に別れている。私は、その両者の協力の下、創られたモンスターだ。だから、どちらの思想にも迎合できるように設定されている。思考する能力も与えられていたため、そのあいまいさに対する考察を常に行っているのが現状だ』
恐ろしい見た目に対し、上司のあいまいな指示に苦しむ現場責任者みたいなモンスターだ。
『もし、簒奪を目的としたダンジョン人の先ぶれとなれば、この星は一気に掌握されるだろう。共存を目的としたダンジョン人とならば生きる道もあるだろう』
荒唐無稽な話にも聞こえてくるが、目の前の巨大な現場責任者を見てしまえば、信じざるを得ない。
「どちらが来るかは決まっているのかしら?」
『…私は知りえないことだ。私はメッセンジャーと門番でしかない』
門番? ダンジョン人が出てくる門があるんだろうか。
「門番? ダンジョン人が出てくる門があるのね?」
『おっと、この言葉だと話しすぎてしまう。言語による開示レベルの設定が悪いのだろう。答えてやろう。このダンジョンのある地域はこの星の中では魔力濃度が高い。偶然にも天を貫く回廊にしやすい形で魔力が渦巻いているんだ』
この地域って、バミューダトライアングル…。
「もとから、そういう地域だってことかしら?」
『あぁ、私が来る前から、何かしらの怪奇現象に苛まれていただろう。魔力濃度が高い地域を選び、回廊を作ることでダンジョン人がやってくることができる。今は、他の地域の魔力濃度が低すぎて回廊を作ることができない』
簒奪目的のダンジョン人とか勘弁してほしい。
「それは何時なの? まさか、もう来ているとかじゃないわよね」
湖面が揺れる。
『現在の魔力上昇のスピードだと、あと100年はかかるだろう。ただし…』
そこで言葉が途切れる。
「続けなさいよ」
フレイヤさんってばさすが強気。
『最近、新たな指示が加わり、ダンジョンの開放加速が始まる。そうなれば数年に短縮されるだろう。私も陰気なダンジョンに籠るだけではなく、地上に現れる日が近くなるというわけだ』
嬉しいのか哀しいのか分からないテンションだ。
「ダンジョンの開放加速なんて指示されてるのね。簒奪者側が乗り込もうとしてきているのかしら」
フレイヤのペルソナを使っていなければ、冷や汗をかいていたところだろう。
『そうだ。いや、そうだとも言える』
「どうして言い換えたの?」
そこから数分経つ。
『私の解釈では、簒奪者側の思惑に近い指示もあれば、共存側の思惑に近い指示もあるように思える。どちらかに偏っていない現状、簒奪者が乗り込もうとしている可能性は高いが、違う可能性も残っていると言える』
湖面が揺れる。
『君がこの星側の人間であれば慌てるべき時だろう』
「ええ、そうね。この話は人類で共有させてもらうわ。何か注意すべき点はあるかしら」
また数分の沈黙に入る。
『私の知るところでは、もし、この星の魔力の上昇…つまり魔石の使用などが完全に止まった場合、強制的なスタンピードが入る切っ掛けになりうることを教えておこう。あと、私は討伐しないで欲しい。私に課された指令は、きっと共存側のダンジョン人が送ったものだと思う。この星に住む者同士、仲良くしようじゃないか』
見た目は相当邪悪な存在なんだけど、理知的に話す感じは、本社の派閥争いに巻き込まれた現場監督みたいな存在だ。ガームドさんにどうするか相談するのがいいだろう。
「分かったわ。でも、このダンジョンのスタンピードは収まったということでいいかしら」
『そのことが、先ほど言った共存側の指令だ。きっと君たちをこのダンジョンに呼び出すための手段だったんではないかと私は考えたよ。スタンピードは見せかけだから、気にしなくてもいいよ。もう、外にはモンスターは出ていかない』
なるほどね。このダンジョンに手軽にこれる存在は俺たちくらいだろう。しかし、俺たちを呼んだことで何かに利用しようとしている可能性もぬぐい切れない。
「よかったわ。では、この場は引き上げようかしら。最後に質問。あなたをなんて呼べばいいかしら」
『メッセンジャーと呼んでくれ』
これが、俺とメッセンジャーとの初めての邂逅の話だ。
なんか出てきました。地上に現れると世界が滅びる的な、名状しがたい何かが・・・。




