第17話 E&Sと試作品
マナのお仕事です。
俺は俺1号。今は影子に変身している。今日は珍しく、フレイヤと影子、そしてマナと一緒に行動している。影子とE&Sの関係者との初顔合わせが目的でE&Sの本社に車で向かっているのだ。今後、マナと一緒に行動することも増えるので、その備えでもある。ちなみに、マナからは、影子ちゃんと呼ばれて可愛がられている。
ところで車の移動で変化したことがある。いま使っているのがタクシーではなく、エバーヴェイル専属の運転手が運転する黒いバンだというところだ。運転手は、辰巳さんの友人で、Bランクまで行った猛者だ。ナイフ使いだったようだが見た目はとても穏やかなおじさんだ。一山当てて探索者を引退してスローライフを送っていたが、孫の小遣い稼ぎのために何か仕事がないかというところで辰巳さんに行き当たったらしい。辰巳さん曰く、まじめで出来た人物だが、背後に立ってほしくない人物らしい。サングラスに黒いスーツを着て、窓まで真っ黒なバンを走らせていると、ちょっと怖い。辰巳さんの不真面目成分を抜いて、迫力を煮詰めた感じだ。若い女の子を送り迎えするには、ちょうどいいとも言える。
「影子ちゃん。E&Sさんは気さくな人たちばかりだから、安心してね」
マナは影子よりも少し年上で、エバーヴェイルの先輩ということもあり、影子の世話をしてくれる。
「そうね。E&Sの方との会議は、なんだかお祭りの打ち合わせみたいな雰囲気よ」
フレイヤも微笑む。アメリカから帰国した直後の会議から5回は会議をしている。発端はフレイヤの一言『他のメンバーもブランド化しても欲しい方は居ると思うわ』だった。その発言の後、マナとチーフデザイナーの風間が乗り気になり、さらにデザイナー数人を呼んで、書き溜めたラフなんかを持ってこさせる。そして、社長が途中からお茶汲みをしていたのだった。フレイヤは話に加わらず、社長が海外で買ってきたというワインをもらっていたのだった。
そして、E&Sのアトリエに通される。ずらっとデザイナーさんたちが並んでおり、フレイヤのブランド『Freya & Flame』を立ち上げた当初を思い出す。チーフデザイナーの風間さんがニコニコして立っている。しかし、デザイナーさんたち、また無理したんじゃないだろうかという疲れ具合だ。
「遠山影子っていいます。よろしくお願いします」
「新しくエバーヴェイルに加入された遠山さんですね。E&Sのチーフデザイナーをやっています風間です。今後ともよろしくお願いいたします」
風間さんに名刺をもらうが、こちらから渡すものはない。
「影子でいいですよ。クランじゃ、名前の方が多いので」
「分かりました。影子さんの職業はスカウト系とお聞きしたんですが」
「おら、忍者…くノ一です」
デザイナーさんたちがざわつく。
「くノ一…これは新しい題材ですね。あの、もしよければなんですが、断ってもらってもいいんですが、簡単にその動きを見せてもらってもいいですか?」
そんなことならと、少しデモンストレーションをしてみるか。服装もスカートじゃないし、問題ないな。ペルソナを起動して、動こうと思った矢先、体が宙を舞う。
「こんな感じに」
新体操の選手のような動きに近いだろうか。しかし、音が鳴らないように飛び跳ねるのはどういう理屈なんだろうか。アトリエの床とか大丈夫かと心配していたが、全く揺れる感じがしない。最後、風間さんの背後に立ち、終了する。デザイナーさんたちから拍手が起こる。
「おお、すごい。目で追えていないですが、動きが滑らかかつ静か。これは感動です。あれ、影子さんはどこに」
「後ろですよ?」
俺が耳元でそういうと風間さんが驚いてたたらを踏みそうになるので、肩を掴んで落ち着かせる。
「これは、いつの間に。本当にくノ一なんですね」
風間さんが手に持った手帳に何かを書きつけている。フレイヤの方を見ると思わず口からあの言葉が出る。
「姫! マナさん、おらの動き見てくれましたか!?」
「姫?」
そういえばマナの前でペルソナを起動したのは初めてかもしれない。影子の設定では、影子はフレイヤのことを姫と呼んでいるのだ。
「わたくしのあだ名みたいなものなので気にしないことよ。影子、良い動きだったわ」
フレイヤがさらっと受け流してくれる。
「えへへ。ありがとう」
あぁ、フレイヤって素敵だな…と、影子の気持ちが感じられる。
「影子ちゃん、ほんとにくノ一なんだね。あんな曲線的な動きできないわ、あたし。空中で軌道を変えられる原理が知りたい。フレイヤとアリスのはスキルだからあきらめてるんだけど…」
俺はマナへの答えを持っていないが、ペルソナはどうだろうか。
「飛んだ姿勢を変えて、重心や空気抵抗で軌道を変えてるんですよ? 今度、教えます」
「やった、ありがとう」
マナは嬉しそうだ。見せてよかったと思う。
「急なお願いを聞いていただいて、ありがとうございました。インスピレーションが沸いてきました。では、本日の本題に入りたいと思います」
そこからは、1つずつデザインの発表が始まった。3体分のマネキンに掛かった白い布が取り払われる。
「メルさんの聖女としての印象を取り入れたデザインを3点用意してみました」
そこにはメルがよく着るワンピースタイプの装備が2点、上着にハーフパンツの装備が1点ある。おー、これは可愛いな。
「メルちゃんに着せたい!」
マナがマネキンに近寄り、色々アングルを変えて眺める。
「このフリル、防刃ワイヤーですね。繊細なのに機能性重視。あ、ベルトに何か取り付けられますよね。もしかして、新しいガジェット?」
マナが早口だ。本当に好きなんだろう。
「分かりますか! これなんですけど、このベルトに取り付ける魔道具、オーブマシナリさんと共同開発してるガジェットを想定してるんですよ。魔力増幅とか防御力アップ、素早さアップなんかの簡易な魔法になりますが、戦闘補助の機能を持たせて後衛の生存能力を高めます」
そういえば、そんな話があったな。ひよりが作った補助系の魔法を防具とかに仕込む話。ダンジョンガイダンスの拡張機能内蔵に向けてかなり省スペース化が進んだから出来るようになったとか言っていた。
「では、次はマナさんの装備です」
マナの真横で次の布が取り払われる。マナだから剣士装備は革と金属の混成装備が多い。あまりに重いと回避に支障があるため、ワンポイントが金属部分となっており、胸飾りとして深い翠色の宝石があしらわれている。
「これって」
マナは装備近くで観察する。
「はい。ドロップ品の宝石をはめ込んでいます。もちろん、ガジェットをはめ込む事も可能です。ですが、宝石を選んでいるのは、ガジェットの装備に対して更に軽量だからです。元々が重い装備なので、なるべく軽くしたいんですよね」
「こんな加工ができるんですね。これ、前言っていた体力アップのアクセサリから採ったんですか?」
「はい、そうです。色合いが合うんですよね」
その後、ブーツやガントレットといった装備についても紹介がある。こちらはE&Sの契約工房が作ったらしい。
「素敵ね。このブーツとガントレットのメタル部分にも宝石が入ってるわ」
フレイヤが感想を伝えると風間さんが何度もお礼を言う。
「次は、アリスさんの仕事着です。戦えるウェイトレスがコンセプトです」
そのコンセプトが通じるのってアリスくらいなんだけど、いいのだろうか。
「あら、これはアリス好きそうね」
フレイヤが白と黒のウェイトレス服を選ぶ。
「まだあるんですよ。こちらがジェシーさんの服です!」
風間さんが紹介するところには、デザイナーのお姉さん達が多い。布が取り払われると、5つもマネキンが並んでいる。
「コンセプトは戦うシェフ…」
料理業界がどうなってしまうんだろうか…。
「実は、武器としても使える包丁の開発なんかも進めています」
風間さんが小声で彼女たちがジェシーのファンだということを教えてくれる。
「あの、ジェシー様にこれを渡してもらえますか? 試作品です」
マナにデザイナーさんの1人が紙袋を渡している。そして、俺の前にアシスタントの人たちが集まってくる。
「影子さん。こちらで採寸させていただけませんか。装備の検討に入りたいので」
「え? おら?」
風間さんが慌てて寄ってくる。
「エバーヴェイルの方々の装備はうちで作らせてもらいたいんです。お願いします。それに、きっと近いうちにブランド化の話が出る気がします。影子さんのくノ一、絶対人気がでます」
「おら、忍ばないといけないんですけど…」
しかし、抗うこともなく、アシスタントのお姉さまたちにあちこち測られてしまったのだった。
ブランド化に絡めて、装備が進化してきています。




