第15話 アリスと空の彼方
自分会議です。
俺は俺1号、笹木小次郎だ。ガームドさんとの会議の内容が何度も頭をよぎる。
ガームドさんが依頼してきた内容については既にアリスで試してみた。
まずはアビスヴォーカの持つダンジョンシードを感知できるか?だが、結論として出来なかった。
感知範囲が広いので、遠くになる程、動いているのか止まっているのかがいまいちわからない。そして、明らかに動いているものは無かった。感知できていないのか、本当に動いていないのかも判断がつかない結果だった。
モヤモヤしたダンジョンのなりかけや残滓についてもマッピングするようにしたが、地道だなぁ。また場所が変われば収穫があるかと思い、アメリカにいる俺6号には連絡しておいた。何かあれば知らせがあるだろう。
次に、宇宙に見えるダンジョンだが、これは少し収穫があった。
その夜、ひよりと会議を開いた。自分会議をしたかったのだが、ひよりだけがクランベースに残っていたのだ。
フレイヤはマナとE&Sのパーティーに一緒に参加して不在だ。メルは奥飛騨のペンションに2泊3日のお泊まりだ。ジェシーとアリスはアメリカで安全地帯を作っている最中だ。
あ、忘れてた。俺は影子になり、『ぽんぽこ分裂術』を使い影子を1人増やす。そして、小次郎に戻る。こうして、俺と影子、ひよりの3人で工房エリアのテーブルを囲んだのだった。
「これで3人だが形になったな。じゃあ、はじめようか」
「影子が増えて、ますます数については制限無しになったね」
ひよりが笑う。しかし、少し元気がない。
「ちゃんと休んでるか?」
あまり休めていないとのことで、その場でメルに変身すると回復魔法をかけてやる。
「ありがと。これやると延々と調整作業ができるようになんだよね」
「ちゃんと休む方がいいの」
俺の心配をひよりは笑い飛ばす。
「僕もそう思う。ふふ。でも、ダンジョンガイダンスの行商人モードのバグ取りはひと段落したからね。今日はぐっすり寝る予定さ」
まもなくリリースだから大変だな。
「おらも手が足りないなら手伝いができるので、言ってね。おらの分身だから、魔道具の専門知識ないけど器用ですよ」
影子は罠の解除や鍵開けなんかもできる探索者だったので器用さには定評がある。そんな俺自身の間での交流を行ってから、本題に入る。俺は笹木の姿に戻る。影子が残念そうにする。
「遠い宇宙にあるダンジョンを発見したと思う。明確な場所の特定までは出来ていないが」
その言葉にひよりが驚く。
「けっこうあっさり見つかったんだね。あの話を聞いてから僕も試したかったんだけど時間がなくて。記録とかある? ダンジョンガイダンスを補助に使えばいいって話だったけど」
そう聞かれると思ってダンジョンガイダンスをモニターに接続しておいた。
「これがその場所だ。時間を何回か置いてやってみたんだけど、多分、月なんだよね…。これがここ数日のデータなんだ」
俺の言葉にひよりが端末を操作している。
「ガームドさんからの提供情報だと、そこまで特定できなかったんだよね。月から撒いたダンジョンシードが方位を探られないように飛来したと考えれば、辻褄があいそうだね」
影子がちょこんと手を挙げる。
「でも、おら、月にダンジョン人がいるなんて話を聞いたことがないんですけど」
おずおずと言った影子。しかし、その意見は尤もだ。
「僕も確証があるわけでもないさ。そして、月にダンジョン人が居るとは限らない。月を中継して遠くの母星がつながっているのかもしれないし、別の空間に潜んでいるのかもしれない。ダンジョンも別の空間にあるでしょ?」
ひよりが端末を操作すると、月からバラまいたダンジョンシードが成層圏から一斉に降り注ぐイメージを作り出す。
「月のどのへんだろうね。ちょっと一緒に測ってみよっか。せっかくだからアメリカのアリスにも協力してもらおうか。じゃあ、アリスへの連絡はするから、俺1号もアリスになっておいて」
言われた通り俺はアリスに変身する。ひよりが新たに芽生えたアバターの交信スキルを使って俺6号がやっているアリスに依頼したらしい。ちょうどホテルにいるとのことで、同じタイミングでダンジョンガイダンスに計測してもらいながら、場所を指さすことにした。
もちろん、指さしだと誤差が大きいため、ダンジョンガイダンスが壁に天体図を投射し、そのどこに当たるかを計測する形をとるらしい。
「いつのまにそんな機能をつけたの?」
アリスの姿で質問をすると、ひよりが1か月前と答える。どうやら、通信実験での通信強度の低下の原因を探るために、可視化技術が必要だったらしく、急遽実装したらしい。
「じゃあ、2人のアリス。地球の裏側から指さして。3分くらいお願い。時系列でのデータ補正も含めて解像度を上げていきたいから」
ひよりの言っていること良くわからないが、3分指さし続ければいいんだろう。やってみよう。そして、3分が経つ。
「うん、ありがとう。もういいよ」
俺6号にも礼を言ったひよりが端末を操作する。
「少し計算するから待ってね。ダンジョンガイダンスの機能でダンジョンの位置を特定するね」
すると、月の裏側に存在することが分かった。
「月の裏側にある大きなクレーターの1つを示しているね。深いクレーターで、中まで観測されたことがないよ。これは大発見なんじゃないかな」
俺はアリスの感覚を研ぎ澄まして、月のある方向を見つめる。月は小さすぎるので、そこまで位置を特定できるひよりがすごいという感想しか出てこない。ぐーっと目を細めて、工房エリアの天井を見透かすように眺める。すると、確かに月の手前よりも奥側にあるような感じがする。アリスの感覚は視覚ではないため、月の厚みみたいなものも感じられたんだろうか。
「月にダンジョン人の基地でもあるんですか? おら、行ってみたいです。潜入なら任せて」
影子が意気込みを語る。
「行ってみたいのは、僕もだよ。でも、月に行くのはお金がかかりすぎるし、危険だから認められないさ。実際に月の裏側に有人着陸したことは無いしね」
「それなら、アリスのラビリンス・ドリフトで飛べないんですか?」
影子の質問に、「アメリカとは距離が違いすぎるよねと」ひよりが肩をすくめる。でも、すぐに真顔になる。
「ん、でも、フレイヤの魔力供給が巧く行けばたどり着ける? それでも2万キロ? なんとか、魔力タンクを何らかの工夫で拡張して、アリスに供給出来れば到着するかもしれない」
ひよりが端末にラフな絵を描き始める。
「何か思いついたの?」
俺が訊ねるとひよりがクスリと笑う。
「ラビリンス・ドリフトで行けるかもしれない。フレイヤが魔力をため込んで、それを替えのバッテリーみたいにアリスに供給しつづけながら転移すれば、月のダンジョンまで飛ぶことができるかもしれない」
ひよりがフレイヤとアリスが一緒に飛んでいこうとする様子を棒人間で表している。MPタンクとしてフレイヤが付き添っている形だ。
「おら、記憶にないんだけど、フレイヤって魔力をため込めましたっけ?」
ひよりは、その質問に端末から写真を取り出す。いつかメルトとエナジードレインを組み合わせた合成魔法のシーンが映っていた。ダンジョンガイダンスが記録用に残している写真の1つだった。
「えー? これが魔力のため込み?」
俺も思わず声を上げる。
「正確には違うよ。これは、吸い取った魔力をメルトに込めてくれる現象なのさ。つまり、吸収した魔力を別の形に保存する糸口になるんじゃないかなと思ったんだよ」
ひよりはグルグルと円を描く。
「そううまくいくのかな?」
「そこは技の研究だよ。ここに乗り込むとは決まってないけど、乗り込める手段を作っておくのは大事なのさ」
ひよりの言う通りだ。俺は、アリスから笹木に戻る。
「えー、アリスでいいのに。可愛くて癒される」
影子がそんなことを言う。
「いやいや、俺もそう思うけども。早めにこの話をガームドさんに共有しておいた方がいいだろ? ガームドさんもきっと何か考えてくれるよ」
そして、俺はガームドさんに月の裏側にダンジョンがあることをアリスの能力で特定したと連絡したのだった。
月の裏になにがあるんでしょうね。




