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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第6章 くノ一になった日

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第12話 笹木と霞

新たなキャラ? 

 俺は俺1号。いまは影子のスキル検証に邁進しているわけで、影子担当というべきポジションだが、今は笹木小次郎の姿だ。

 影子のスキルについて有益な情報をアメリカ遠征中の俺5号と俺6号がくれた。なんと交信というアバター間で通信するスキルまで加わったのだ。


 そのジェシーとアリスだが、ダンジョン攻略中に影子による分身の身代わりの効果を確認したというのだ。即死攻撃を受けたジェシーが生き残り、影子の分身が身代わりとなったということだ。こればかりは、俺自身が試すにはリスクが高すぎたため、代わりに確認してくれた2人には本当に感謝している。


 ちなみに、ジェシーとアリスは、ラスベガスを拠点に2週間の任務期間は変えず、なんと当初予定の2倍のダンジョンに安全地帯を構築するという依頼をこなしている。アビスヴォーカがどのように行ったかはいまだ不明だが、人為的にスタンピードが発生させられる場合、都会にあるダンジョンは危険なのだ。一般には、アルカトラズの閉鎖エリアに偶然発生したダンジョンを、アビスヴォーカが利用しただけじゃないか?と言われている。多分に国からの情報操作が加わっており真実ではない。

 そして、ジェシーとアリスには他の国からも安全地帯のオファーが来ており、優先度と設置ルートについてはギルド側が計画することになった。


 話を戻すと、影子の分身保険、つまり、俺が死にかけた時に身代わりになってくれる分身を作ることは重要だなと感じている。そして、アイデアを1つ思いついたので試そうとしているところだ。

 そして、既に俺の目の前は影子の分身が座っている。俺が影子のアバターになっている間に作った影子の分身だ。クランベースに新設した応接室に2人で対面している。その影子が、さめざめと泣き始める。彼女の目の前には、札束が積んである。


「もう、私たちお別れなのね。こんなお金で動く女だと思ったの!? でも、貰っておくわ。短い付き合いだったわね」

「そんなつもりじゃ…」


 ハンカチで涙を拭う。


「この間も楽しく遊園地に行ったのに…、どうして? あんなにはしゃいでたじゃない」

「そうだな、楽しかったな」


 デートじゃないし、修学旅行だ。


「私とこの部屋で熱い夜を過ごしたのは忘れたの?」

「分裂しすぎて、おしくらまんじゅう状態だったな」


 分身がどれくらい作れるか検証してぎゅうぎゅう詰めになったことを言っているんだな。影子の分身が『おら』を使ってないから寸劇中だ。多分、これは別れ話を切り出された彼女とかいうシチュエーションだろう。


「わかったから。寸劇はおしまい。話が始まらない」

「はいはい。でも、手切れ金みたいに現金を渡されると、別れ話ぽくない? おらの演技よかったでしょう? ドキドキした?」

「あぁ、ドキドキしたよ。影子はきつめの感じだけど、泣かれると来るものがあるな。そもそも、女の子に泣かれるのは慣れてないし。そもそも、彼女いなかったし…」

「ごめんなさい。我が身にもダメージが返ってきたわ。本題に戻しましょうか」

 

 お互いしんみりしたので仕切り直す。


「お前には任務を与える」


 影子の『ぽんぽこ分裂術』でつくった分身は、俺が不慮の事故などで死にそうになっても、どこかで分身が存在している限り、俺の身代わりになってくれるのだ。このどこかでというのが味噌だ。より安全を考えれば、誰にも危害が加えられない場所で安全に過ごしてもらっておくことが、俺の生命に対する保険となる。

 つまり、俺の身代わりになってもらうために身を隠してもらうのが1番だと考えている。


「おら、感心したよ。念には念を入れて、誰にも情報を渡さずにおらを1人送り出して身を隠せなんて」

「そうだろうそうだろう。スパイもの映画とかたくさん見てきたからな。顔も変えて身分も変えて潜伏。男のロマンだろ?」

「おら、女なんだけど、素は同じ笹木だから分かるわ」


 影子は理解してくれたらしい。


「でも、そこまで警戒する理由があったの?」

「無いわけじゃない。この前、名古屋ギルドのロビーで2年間盗聴しつづけた新聞男が捕まったんだ。そして、そういうスパイみたいなのが、そいつだけとは限らない。そこにきて先日の件で、エバーヴェイルはアビスヴォーカに目をつけられているかもしれない。ギルドも大きな組織だから、どこで俺の話が漏れるとも限らないからなぁ」


 俺の話に影子も同意する。しかし、影子が不安そうな顔をする。


「それなら、他のギルドメンバーも危険じゃないの? 例えば、マナとか大丈夫?」

「その話なら、必ずフレイヤかメルと一緒に行動するように伝えた。目の届く範囲ならば大丈夫だと思う」

「それなら大丈夫かな。んー、おらみたいな身代わりになれるようなスキルか魔道具があればいいんだけど」


 確かに死にかけてもダメージを肩代わりしてくれたりするアイテムがあれば貴重だ。ひよりに相談してみるか。ひよりならアイデアの1つ2つあるだろう。

 その話を聞くと影子は安心したようで、アイテムができたらダンジョン攻略がさらに安全になるねと言ってくれた。


「じゃあ、おらは、笹木小次郎の保険分身として、勝手にどこかに潜伏して元気に生活するね。なんだか楽しくなってきた」


 影子のテンションが目に見えて上がり、頬が紅潮している。


「何しようかな、普通に会社員とかになる? それとも学校に通っちゃおうか。意外な場所がいいよね。海外に行っちゃう? でも、危ないところはだめだよね。それなら、いいとこあるかも」


 いろいろとアイデアが湧いてくるようだ。


「まぁ、じっくりと考えてくれ。あと、当面の資金だけで大丈夫か? 身分証とかスマホとか…、住むところとかは? マジックバッグなんかも持って行ってくれよ」

「マジックバッグは欲しいかも。あとは、こちらで何とかするわ。身分証とかそのあたりは、くノ一の領分だから。あ、でも1つお願いがあるわ。コードネームが欲しい」

「コードネームか。確かに影子の分身って呼ぶと、分身の数多すぎて区別できないから必要だよな。んー」


 いくつか案を出して影子と話し合う。


「草」

「却下。コードネームっていうより、スパイの隠語みたいなものでしょ?」

 だめか。

「影子2号」

「却下、味気ないし、番号管理は笹木で十分」


 はいはい。


「影美、影代、影奈」

「ねぇ、影から離れない?」


 仕方ないな…。


かすみ

「あ、いいかも。なんだか、実体が掴めない感じがいい」


 影子の評判がいい。


「じゃあ、かすみでいくか?」

「うん!」


 気に入ったみたいだ。そういうことで、霞には末永く、これから俺の分身保険として過ごしてほしい。

 ちなみに、分身保険について嫌じゃないかと訊いたが、その辺は割り切っているし、笹木が死ななければ問題ないと答えてくれた。くノ一だからなのか、分身だからなのかは分からないが、自分自身じゃなければ相当な忠誠心をもった存在ということだ。


「じゃあ、頼んだ。何もなければどこかで再会しよう」


 俺は微笑む霞と握手をする。そして彼女はその場で消える。目の前に置いておいた札束もいつのまにか消えており、そこから居なくなった。これから彼女は一体どんな生活を送っていくんだろうか。影子の分身には情報の伝達能力もあったから追いかけることは可能そうだ。しかし、知らない方が安全なこともあるため、当面放置を決め込んで霞の潜伏に任せてみよう。



いいえ、笹木です。

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― 新着の感想 ―
霞自身が不慮の事故で亡くなる可能性もゼロではないんですよね。 まぁ、命を狙われていることに比べれば可能性としては低いですけども。 ただ、分身体も含めて全員が死ななければ佐々木氏自身は死なないことを考え…
何かあって霞が消えた時の対策も考えると、霞自体2人居た方が安全な気がするけどどうなんだろ……? 霞が消えた時は、それってわかるんだっけ?
裏社会を牛耳る笹木一家になりそうね
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