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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第6章 くノ一になった日

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第11話 ジェシーと分身保険

さて、ジェシーはどうなるのか。

 俺の視界が暗転した後、俺は別の場所に立っている。場所は、キメラから30メートルは離れた柱の陰だ。キメラの足元で影子が石化し消滅する姿が一瞬見えた。どうやら影子の分身保険が発動したらしい。


「パパ!?」


 俺の背後にアリスが現れる。俺を追って飛んできたようだ。


「ああ。ちょっと油断した。石化攻撃だろうか」


 自分の体を見るが、特に傷を負っていることもない。分身保険が肩代わりをしてくれたんだろうか。メカニズムが全く分からないが便利なのは分かる。


「油断したって顔してないわよ? まさか、分身保険をわざと試したんじゃないでしょうね? もう」


 アリスが疑ってくるが、そんなことはない。半分くらいは本気でやられた。半分くらいは、ドッペルゲンガーなんだから試してみようかとか、そんな考えもあった。

 油断したのには違いないが、分身保険の検証が出来たのは大きい。俺1号に常に分身保険をつけておけば、何かと安心だ。


「分身保険が有用なことは確認できた。ぜひアリスも影子の分身保険を使ってみなさい」


 そして、次なる作戦を考えてもらうべく、ジェシーのペルソナを起動する。


「あいつはライオンの方が鈍い。蛇の方が反応速度がある上、特殊能力が豊富だ。だから、ライオンを先に倒す。上からアリス、俺が顎からだ。両方から挟んで首を取る」


 そういうことで、アリスも分身保険をつくって、リベンジマッチに向かう。俺はデカブツ向けに用意していたマグロ包丁を手にする。

 影子たちが蛇に向かって攻撃を仕掛けてくれている。消耗戦に近いが、何人かやられつつも、蛇の注意を引いてくれている。


「やはりライオンは勘は良いが、動きは鈍いな」


 インビジブルと隠密を見破る能力は鋭いが、ライオンはこちらの動きに追従はできていない。少しフェイントを掛けると広範囲型の炎で迎撃しようとするのが関の山だ。俺はさっと顎の下に滑り込み、マグロ包丁を突き上げる。アリスはここぞとばかりに長い足をライオンの脳天に叩きこむ。おかげでマグロ包丁が食い込み、ライオンの動きが止まる。

 そこからの横に振り降ろすような包丁捌きにより、ライオンの首の下半分をぱっくりと切ることができた。振り返りざまに飛び上がり、ライオンの首にマグロ包丁を振り降ろすとライオンの首が切り離される。


 これで終わりかと思った矢先、蛇の方が主導権を握ったのか、尻尾を首にして飛び跳ねて距離を取る動きを見せる。


「気持ち悪い~。なんで尻尾が頭やってるのよ」


 アリスが文句を言う。すでにライオンの頭は消滅してしまったので、ライオンの首の断面が見えたまま対峙する構図となっている。


「しぶといな。さすがダンジョンボス」


 俺の言葉にアリスも同意する。


「さっきより手ごわいかもしれないぞ。警戒している上に蛇は動きが早い。仕方ない、アバターを切り替えて安全に行くか」

「近接縛り終わり?」

「気づかれていたか。大物と戦う機会はあまりないからな。ただし、蛇の石化攻撃は危険だ。ここは、遠距離から一方的に倒すのがいいだろう」


 アリスは笑う。


「じゃあ、ここはフレイヤたちでいく?」


 その言葉の後、そこにフレイヤが2人佇む。そして、2人の呼吸が整った後、俺たちはフレイヤがゴールデンゲートブリッジ周辺でワイバーンを倒しまくったメルトショットを数十発とキメラへと放つのだった。

 それを陰から見ている影子の分身がコメントしている。フレイヤの耳の良さがあり、それがすべて聞こえてくる。


「最初っから遠距離から倒せばよかったのに。痛い目見るのはいつも下っ端よ」

「おらには替えがいるもの…」

「クローンの宿命よね」

「倒せたら、ダンジョンって消滅するの?」


 なんか気楽そうな気配がするが、警戒は怠っていない。器用なものだ。

 

 そして、メルトショットに抗うように抵抗して、いろんなものを放っていたキメラだが、こちらには攻撃が一切届くことなく倒しきってしまう。その過程で、体毛を焼かれ、体のあちこちを焦がしながら弱っていく様は、悲壮感が漂う。

 そして、ダンジョンボスは消滅していった。


『ダンジョンボスを単独で倒しました。判定により、ユニークスキルを獲得できます』


 ステータス画面を開いていないのに、目の前に表示が現れる。そして、単独という文字が記載されている。こんなに人数がいるのに単独ということは、俺たちが笹木だということはダンジョン側は理解しているということになる。そして、忍者黒壁が言っていた、少人数ほどユニークスキルが獲得しやすいという話も真実だったようだ。


『既にユニークスキルを所持していますので機能を追加します』

『アバターに交信を追加しました』


 交信? なんだろうか。通信みたいなもの?


『ダンジョンが崩壊します。まもなく、ダンジョン外へ放出されます。ご注意ください』


 一方的なアナウンスが出てきて、まもなくがどれくらいの時間か分からないまま、あたふたしていたら、俺たちはグランドキャニオンの谷底に出現していた。俺が変身したフレイヤと、俺5号が変身したフレイヤと2人、そして、分身保険の影子たちが多数出てくる。


「もう夕方ね」


 階層が少ないと言えど、結構しっかりと攻略したから外は暗くなりかけている。



『これ何だろ? 聞こえる?』


 すると、ひよりの声が聞こえる。どうやって答えるんだろうと考えてみると、


『もう声きこえてる。話したいと思うときこえるんじゃないかな。僕も驚いたよ。もしかして、ダンジョン踏破した?』


 そこからはひよりの質問に答える形になった。つまり、これはアバター間のリアルタイム通信ができる便利機能なんだろう。

 全員の声が聞こえないのはなぜだ?


『僕は起きてたけど、フレイヤとメルは寝てるさ』


 そんな他愛の無い話が始まる。しかし、スマホでも代用できそうな機能だな。遠距離と無料で通話できるのはいい。スマホが無くても連絡できるという利点もある。しかし、ダンジョン踏破のご褒美としては、弱いような気もする。いや、贅沢は言うまい。アバター自身が既に破格のスキルなのだから。


 傍にいる影子が、手に大きな魔石を持ってやってくる。


「これ、ダンジョンボスの魔石。おっきいよ。おら初めて見たかも。あと、あっちの影子がみつけた物」


 巨大な魔石の他に、どこかで見たタンブラーみたいな物がある。


「これは、高和港で拾ったものに似ているようね」


 俺が受け取って観察する。俺1号から送られてきた写真に似ている。


「ひよりに渡すとよろこぶんじゃないかしら」

『一応もらう。ガームドさんと解析するのにサンプルが多い方がいいからさ。あと、ダンジョンガイダンスのデータも貰っとくね。こっちで勝手にデータ吸い上げておくから何もしなくてもいいよ』


 ひよりとはまだつながっていたらしい。交信の切り替えは、ペルソナの切り替えに近いかもしれない。心で思ってONとOFFを切り替える形だ、無作為に連絡するのではなく、個別に話しかけることができると便利だと思い、目の前にいるアリスに交信で話しかける。


『聞こえるわ。目の前にいるのに不思議ね』


 これは内緒話をするにも良いかもしれない。何かを言い訳するときとかに口裏を合わせたりできる。なかなか良いスキルのように思えてきた。


『夜になってきたわね。どうやって帰るのがいいかしら?』


 ダンジョンが消えたので簡単にラビリンス・ドリフトを使ってラスベガスダンジョンに戻ることができないのだ。


『フレイヤのまま、空を飛んで帰るのはどうかしら?』


 こうして、2人の魔女がスカートをなびかせて、荒涼とした大地の空を駆けていくのだった。


ジェシーとアリスの親子は、何かと成果をあげていきますね。

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― 新着の感想 ―
ユニークスキルって1人一個が上限なんだね。 んでそれ以降はバージョンアップされてく、と……。機能強化とかデメリット緩和とかそういうのかな?
ダンジョン「単独とはいったい…」
グランドキャニオンからラスベガス間の距離が分かりづらいので 具体的に距離(直線距離なら約300kmとか)を記載した方がいいかと思います。
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