第13話 フレイヤとドロップ確変
昨夜、1章を書き終えました!
スキル書というものは、ダンジョンが生まれた当初からあり、多くの無謀な探索者が使ってみた結果、スキルがどんどん補完され、ギルドのデータベースが埋まっていった。
スキル書で覚える方法は簡単で、スキル書を開いた状態でスキル書の使用を宣言する。言語は何でもよく、国による違いは無い。ただし、ステータス画面を開いていれば、スキル名と使用の可否の選択肢が出てくる。そのため、スキル書の名前の確認はできる。
「確かにストーンスキンです」
手に持ったスキル書をステータス画面で確認したマナは、額に汗している。視聴者のコメントで、ストーンスキンの参考価格が400万円という情報を持たらされたからだ。
「大丈夫よ、次の戦闘でも役に立つのよ。遠慮は不要だわ」
「はい、では、いきます」
マナがステータス画面に指を這わると、マナの周囲に青い光が漂う。スキルを覚えた時のエフェクトだ。
コメント欄が活気づく。ストーンスキンは、一定時間、防御力が引き上げられるもので、すべての戦闘において役に立つ。では、2回戦といきますか。
俺は、マナと共にバサルゲイラの討伐に向かう。溶岩エリアは大きな岩が点在しており、それぞれを縄張りとしているバサルゲイラがいる。そのため、少し移動すれば、1体ずつと対戦ができるのだ。火力がないと倒せないのと、熱い皮膚のため、武器の損耗が激しいため、どのバサルゲイラも放置されているのが現状だ。
「さぁ、いきますわよ」
ストーンスキンを初使用したマナと2体目のバサルゲイラに向かう。さきほどよりも危なげなく…という演出で、火力をあげて逆鱗を破壊しつつ、ファイアストームで倒す。
マナの経験のためにも、詠唱中に切り結ぶといった役回りはやってもらっている。詠唱時間が必要な感じはないので、まだ演出の範囲というわけだ。
そして、それはまた出た。
¥30,000 ◆ろくろ:また出やがった!!! うそだろ。スキル書、2連続とか聞いたことないし、渋ちんのバサルゲイラだぞ???? フレイヤちゃん、運よすぎ
¥50,000 ◆:ショータロ王:強運すぎる。マナちゃんも確実に強くなってるし、クランの勧誘争いが勃発するな。ところで、ショータロおにーちゃんって呼んでもらってもいいですか?
接続数があがってきたのか、スパチャの金額が上がってきているように見える。スキル書をマナが拾いながら、それに応える。
「ショータロおにーちゃん、スパチャありがとう」
コメント欄がざわめく。
¥50,000 ◆:ショータロ王:マナちゃーん、ありがとう。フレイヤちゃんも、呼んでくれてもいいんだよ?
「ショータロおにーちゃん、感謝するわ。わたくしたちの運が良いようね」
その言葉に、コメントが多いようで、ダンジョンガイダンス側でスパチャしか表示しない状況のようだ。それでもいくつかは流れて行ってしまう。
そこから3体目、4体目を狩ると、3体目は出なかったが4体目にまたスキル書が落ちる。
その時点でマナのMPが心もとなくなったので、今日の配信を終えることにした。
「応援感謝するわ。目的のバサルゲイラ討伐は無事成功したので、今日はこれでお暇するわ。チャンネル登録がまだの方は絶対に登録しなさいよ? 」
──視聴者数:69,010/スパチャ総額:¥938,500
安全地帯で配信を終了すると、緊張が解けたのかマナが地面に座り込む。スキル書を2冊ゲットし、レベルも確認してみるとマナは25から28へ上がり、小次郎はレベル21まであがっていた。
◇笹木小次郎
レベル21
HP:45/45
MP:260/260
称号:ダンジョンスレイヤー
ユニークスキル: アバター▼
アバタースロット1(フレイヤ・リネア・ヴィンテル)
スキルに変化は見られない。俺がスキル書を使うとどうなるんだろうか。アバターで使うよりも小次郎を強くした方がいい気がするので、まずは小次郎か。
「マナ。わたくしもスキル書を使うけどいいわよね? じっくり見たいから家に持ち帰るけど。そして、残りの1冊は買取所に売っちゃいましょうか」
「もちろん! あたしが使ってフレイヤが使わない理由がないですよ!」
帰りはゆっくりと引き上げると、途中の階層で探索者に会う。基本的には、ダンジョン内で探索者同士は不干渉だが、通路にあたるところで挨拶くらいはする。
「フレイヤちゃん、見てたよ! 応援してるぜ!」
「こ、こんにちは! 本物に会えたー」
配信者相手ならば、挨拶の垣根も低くなるというものだ。探索者同士は競合となるため、ぎすぎすするといったことも多いらしいが、フレイヤとマナの配信は好意的にとらえられているのだろう。
ダンジョンの買取所まで戻ると、朝よりもギルド内の人数が増えている。配信者がいるとこういう状況がよく起こるとは聞いたが、これはさすがに迷惑になるんじゃないだろうか。
「御用がお済の方は、直ちに移動してくださーい」
受付嬢が退場をアナウンスしているが、動いていない。
「フレイヤちゃん、きた。うつくしすぎる」
「マナちゃん、かわいい」
「尊い…」
多くの人が配信を見ていたようで、声がかかる。一人一人にこたえるのも無理なので、手を振って買取カウンターに向かう。買取担当の受付嬢は、出されたスキル書に目を丸くする。
「スキル書…、何から出たんですか?」
マナが買取対応をしてくれる。俺は周囲のファンたちに手を振ってニコニコしているだけだ。
「バサルゲイラです」
「ギルドのデータベースに登録しておきます。討伐の映像などはありますか?」
「配信しているので、そちらを参照してください」
今回の戦果は、ストーンスキンのスキル書1冊とバサルゲイラの魔石4つだ。このサイズになると、1つ10万円ほどになる。
「買取価格は、520万円となります」
予想よりも少し高い。
「!? ストーンスキンは400万円じゃないんですか?」
マナの質問に受付嬢が内訳を話してくれる。どうやら、最近、新たなダンジョン討伐にむけてスキル書の需要が高まっているらしく、高騰しているらしい。
「スキル書は、オークションにかけることも可能ですが、いかがしますか?」
ギルドの買取には、ギルド設定の買取価格と10%の手数料が上乗せされるが、ギルド指定のオークションによる販売の2つに分けられる。
「フレイヤ、どうしましょう」
「買取でお願いしたいわ。揃えたいものもあるので、早めにお金が必要よ」
そう、このお金があれば、ダンジョンガイダンスを一括じゃなくても買取が見えてくる。そして、現金がここまで大きくなると、ギルド口座への入金を勧められる。マナと折半なわけで、260万円ずつが振り込まれることになった。
こうして、俺はフレイヤの眉唾な情報が確定情報だということを確認した。ダンジョン人という設定が生かされているのだろうか。なぞが深まるばかりだが、活用することに異議はない。今度は、フューリーバットの宝物を回収しにいくのも良いだろう。すべての情報を配信する必要はないな。
「じゃあ、今晩もお祝いにいきましょう」
さすがに溶岩地帯で汗だくになったせいか、服が塩を吹いている。
「その前に、すっきりしたいわね」
ギルドの更衣室にはシャワールームも併設されているので、汗を流して向かうことにした。昼には遅く、夕食には早い時間だが、開いている店は名古屋だけあって多い。
シャワールームは更衣スペースと逆で簡単な仕切りはあるものの、カーテンなどがない。更衣スペースは高価な装備などもあるため個室化しているのとは逆に、シャワーは裸だし関係ないといった仕様らしい。
脱ぐものが少ない俺はマナよりも先にシャワールームにやってきた。何人か先約がいるが、俺の裸体をじろじろとながめてくる女性が多い。探索者は体を使う仕事なだけあって、ジムのインストラクターや運動選手みたいなスリムな体型の女性が多い。俺も負けずに相手を観察しているわけだが、眼福だ。湧き上がる欲望みたいなものは無いが、心が満たされる。あー、女になって女風呂というのを体験しているわけだ。これは、経験として記憶にとどめておこう。
そして、シャワーを浴びていると、マナから声を掛けられる。マナの裸体を見るのはちょっと気が引けるので、髪を濡らしながら軽く返事をする。ペルソナを起動すれば、髪をあらう所作も慣れたものに変わる。
「フレイヤ、このシャンプーつかってみませんか。リタっていうメーカーのシャンプーなんですけど、髪に優しくていいんですよ」
「ありがとう、備え付けのシャンプーだと、ちょっとごわごわ感があったのよね」
マナのシャンプーを借りるときに全裸のマナを見てしまう。ペルソナのおかげで劣情は生まれないが、俺が小次郎だというのは墓まで持っていくべきだな。
その時、近づいてくる気配がした。
「あら、須藤さんじゃない。最近はスライム掃除。ふふ」
なんだか棘のある感じのロングヘアの女性がやってくる。豊満な感じがフレイヤと被っているが、エッチなおねえさんという雰囲気だ。マナの目が泳いでいる。苦手な人なのかもしれない。
「どなたかしら?」
2人の間にさりげなく割り込んで俺が返事を返す。相手は腰に手を当てて体を惜しげもなく晒すが、フレイヤの方が魅力度は勝ったな。
「え、永見レイナよ。以前、愛美とはパーティを組んでたんだけど…あなたは?」
もしかして、もめてたパーティか。マナを追い出したのはこいつか?
「わたくしは、フレイヤ・リネア・ヴィンテル。マナとは新しくパーティを組んでおりますの。お見知りおきを」
「あー、そう…、この子って、パーティクラッシャーみたいなところがあるから気をつけなさいよ」
アドバイスに見せかけた悪口かー。いいおっぱいしておきながら、女の世界怖い。
「心配無用よ。とても仲良くしていますもの」
マナが固まっているので、そろそろ追い払いたい。
「わたくしたち戦闘で疲れているの。お話はまたの機会によろしくて?」
そう言うと永見レイナは去っていった。
「ありがとうございます」
マナが俺の背中に抱きついてくる。おっぱいがいっぱい感じられるわけだが、反応するモノが無くて助かった。
「いいのよ。なんだか嫌な感じだったし、追い払ってよかったかしら」
小さく「はい」と返事をしたマナだった。せっかくのお祝いムードだったのに嫌な横やりが入ってしまった。今日は、どこで食事をしようか。
「名古屋で食事はやめて家の近くでどこかに行かない?」
前行ったバルもいいだろう。おいしかったし、サービスもついたし。
そんなわけで俺とマナは、タクシーに荷物を積んで名古屋ダンジョンを後にした。
いかがだったでしょうか。
ドロップの前知識って、なかなかのチートですよね。