第10話 新ダンジョンとダンジョンボス
新ダンジョンの攻略です。
俺は俺6号。いつもは、アリス担当をしているが、今はジェシーの姿でグランドキャニオンに出現した未知のダンジョンにいる。目の前には、いつもはジェシーをしている俺5号がアリスの姿でいる。ラビリンス・ドリフトを使った俺についてくるために、アリスになって飛んできたのだ。
簡単に言えば、いつもの担当が入れ替わっている状況だ。
「どうする? ダンジョン攻略しちゃう? どう?」
アリスが訊いてくる。なんだかテンションが高い。
「どうした? そんなにはしゃいで」
「どうしたもなにも、久々の女の子だよ? ジェシーも渋くていいけど、偶には可愛い子になりたいじゃない」
そういうことか。中身は俺なんだもんな。
「このダンジョンちょっと変だよね。様子見なんて言わずに、攻略してみる? ここなら攻略しても誰からも怒られないよ?」
もちろん、そのことは承知で来たし、魅力的な提案だった。そこからは、どのように攻略を進めるか相談する。そして、このままアリスとジェシーを交代して進めてみるかという話になる。アリスになっている俺5号は楽しそうだ。よほど女の子になったことが楽しいらしい。
ちなみにダンジョン攻略を勝手にしても怒られないのは何故か?に触れる。現在、アメリカだけの問題ではないが、都市部にあるダンジョンが飽和状態となっている。ダンジョン攻略に必要な探索者の数に対するアメリカ在住の探索者の数は、均衡を保っている。そんな状況で、人里離れた位置にダンジョンが発見されたら、即攻略対象となり軍隊が派遣されることになる。探索者を入れずに、高火力で多大なお金をかけてつぶしてしまうのだ。そうしないと、狭くない領土にモンスターが溢れる事態になりかねないからだ。
つまり、俺たちは勝手にダンジョン攻略しようとしているが、後で怒られないよということだ。その辺はガームドさんとも話をしたことがあるので、少なくとも日本とアメリカについては裏付けも取れている。
目の前でアリスがピンヒールの具合を確かめ、体のあちらこちらを触れて確認している。いつも担当しているジェシーとは、かなり違うだろう。
「パパ、よろしくね」
俺はジェシーになったことで、いつもよりも視点が高い。
「しかし、未知の空間を2人で攻略するのは危険だな。新しいアバターにも活躍してもらうかな」
こういった場所を探索しつつ進むには、とても良いキャラがいる。それは影子だ。俺1号が検証している情報からすると、影子の分身は数が稼げるし倒されてもダメージにならない。ジェシーでダンジョンを進んでいくことも十分可能だが、人手があるのは助かる。
俺は影子に一瞬だけ変わると『ぽんぽこ分裂術』を使って、16人の影子の分身を作り再びジェシーに戻る。
「影子になって作った分身がアバターを切り替えても消えないのは本当だな」
影子の分身が周囲に散らばっていく。暗いがくノ一なら大丈夫なのだろう。
もちろん、ジェシーも夜目が訊く上に、テリトリーを使えば暗い周辺も鮮明に分かる。アルカトラズでも使ったが、俯瞰的に場所を特定できるし、明かりに頼ることは無い。自分自身につけているトーチは維持したまま、俺は次の階層へと進んでいく。
次の階層に行くと、やはり空間はそんなに広くない。周辺に影子が散り、点在するモンスターをかたっぱしに屠っている。殺し方が背後からの暗殺なんだよな。さすがくノ一。
「狭いな。でも、なんだか徐々に広くなっている感じがする」
わずかだが空間が広くなっているような気もするが、目に見えた速度ではない。
「パパ、あっちに階層ボスがいるわね」
アリスが指を指す方向に確かに居る。エリアが狭いため、階層ボスとすぐに遭遇するわけだ。
「多勢に無勢コースでいきましょうか。あ、一応記録をって、もうしてるのね」
一応ダンジョンガイダンスを持ってきて記録を撮っている。何か分かったらひよりに分析を任せる予定だ。
そこからは一方的だった。安全地帯を作り街灯を作り、そこを起点にして階層ボスを攻略していく。影子が周囲を掃除してくれる中、俺が注意を引きながら突っ込み、アリスが背後をとって一撃を加える。低層階では、何なら影子が先に階層ボスを数の暴力で倒していった。
次第に階層ボスが強くなってくると、分身が1人2人やられることもある。しかし、それでもジェシーとアリスのコンビならば階層ボスは倒すことができた。巨大なモンスターになってくるとジェシーの関節技よりも、アリスの打撃の方が効果的だったりもする。
その後、階層を10個超えたあたりで小休止をした。いつもの安全地帯を作り休憩場所とする今までモンスターを倒す中、影子の分身も持ってきた食料なんかを美味しそうに食べている。さすがに10人も同じ顔がいると変な感じだ。
彼女たちはモンスターのドロップなどもちゃんと集めてくれており、マジックバッグに集約している。
「ねーね。次のボスには時間差攻撃を試してみない? 区別がつかなくてモンスターも戸惑いそうだし」
「いいかもいいかも。おらたちの真価は数だよね」
影子たちは和気あいあいといった様子だ。
椅子に座って目を細めているアリスに声をかける。あの感じは、ラビリンス・ドリフトの感知を使っているところだろう。目を細めることに意味はないんだが、生理的に目を細めてしまうのが人間の宿命だろう。
「アリス、この先は何がみえる?」
「えーと、1つだけ階層が見えるわ。1つだけ…、つまり最下層ってことね」
アリスの言葉に影子たちがざわつく。
このダンジョンは出来立てということもあるせいか小さい。これは、笹木の称号にあるダンジョンスレイヤーの第2弾になってしまうかもしれない。
周囲にも情報が伝わると、皆の表情が変わる。
「じゃあ、いくか。最初は寝てる間の冗談みたいなダンジョンボス討伐だったからな。しっかりとボスを倒して実績作りとするか。あと、忍者黒壁が言っていたユニークスキルが得られるのか確認だな」
アリスも頷く。
「もし、物理が効きそうにない場合は、俺がフレイヤになって戦うことにする。アリスはその時は、牽制役だ」
「わかったわ。パパ」
そういうわけで、俺たちは最下層と思しき階層へと歩みを進めた。
階層に入ると、途端に空気を重く感じる。ダンジョンボスってこんな感じなんだろうか。空気というのは正確ではないな。魔力の濃度が高いといった方がわかりやすいだろう。
「アリス、どうだ?」
「あー、なんか、わかったわ。ダンジョンボスが作られるとラビリンス・ドリフトで星みたいに輝いて感知できるのね。すごーく輝いてるわ、ダンジョンボス」
モヤモヤしている状態のダンジョンは、ダンジョンボスが形成されるまえの状態というわけか。なんとなく、ダンジョン生成の真相に近い話が見えてきたように思う。
「これは強そうだな。アルカトラズの方式で要塞を建ててからの、フレイヤ砲台でやってみるか」
俺がそういうとアリスも同意する。
「そうね。影子たちが気を引いている間に、物理攻撃が効きそうなら一撃入れに行くわ。もし、効かなさそうだったら、メルになって支援魔法を飛ばすわ」
そして、ダンジョンボスを観察できる位置まで着たところで、俺は安全地帯を作り出す。安全地帯には巨大な要塞がせりあがってくる。
「動き出したわ」
「あぁ、こちらでも感知した。影子たちが足止めに入った」
ダンジョンボスはキメラと呼ばれるモンスターかと思われる。ライオンの頭、ヤギの胴体、蛇の尾を持っており、巨大な体躯は高さ5メートルはあるだろうか。神殿のような場所に佇んでおり、こちらには気づいているようだ。しっかりとこちらを睨みつけてくる。
「どんな力を持っているかわからないから、油断しないようにいくか」
ダンジョンボスについては、ほとんど情報が無い。何しろ、ダンジョンボスを攻略することはダンジョンの根絶を意味している。そのため、資源として活用しているダンジョンはダンジョンボスまでの到達を許していない。
「おらたちが、まずは様子見にいくよー」
影子たちが数人ずつに別れて左右から詰めていく。影子たちは100レベルのステータスは持っているが、HPが低い。そのため、ダンジョンボスの攻撃を食らえば一撃で消えるんじゃないかと思う。しかし、回避も高いし、少しは善戦するんじゃないかと思っていた。
ダンジョンボスから煙幕が噴出される。
「煙幕! 一時退避!」
俺は要塞の上からテリトリーでダンジョンボスの動きを捉える。しかし、その速さに驚く。影子たちを文字通り煙に巻いて安全地帯に向かって突撃してきたのだ。安全地帯はモンスターを通さない。そのカラクリは、モンスターが嫌う魔力濃度の低い空間を高い防御力を持つ障壁が覆っているからだ。ただ、それもダンジョンボスに通用するかは不明だが、衝撃と共に障壁にダンジョンボスが追突したのが分かる。一応効果はあるようだ。
しかし、安心したのも束の間、俺が立っているところに何かが飛んでくる。
「くっ」
俺が飛び退くとそこに何かが降り注ぎ要塞の壁に小さな穴ができる。まるで散弾銃が打ち込まれたかのような跡だ。穴を観察すると、小さな石ころがめり込んでいる。ジェシーの安全地帯の障壁は、ダンジョンの階層間にある魔力の壁に特性が似ている。そのため、魔力を帯びているものは通り抜けられないが、魔力のない物体は通り抜けるのだ。つまり、奴は何の変哲もない石ころを投げつけたと言える。
そんな観察をしている間にも、ダンジョンボスの尻尾が石礫を飛ばしてくる。蛇の頭が地面に頭を突っ込んで、次の石礫を仕込み、また吐き出すのを繰り返す。
「厄介だな。アリス、尻尾の蛇を先に倒すぞ」
「わかったわ、パパ」
そんなやり取りをして、俺はインビジブルと隠密を使い、キメラの背後に回ろうとした。しかし、奴は気づいている。素早く俺の方へとライオンの頭を向けると広範囲に拡大する炎を噴いた。俺は、素早く前転してよける。燃える液体を伴うようで、炎は延焼していく。一瞬足場がなくなる。
「あぶない!」
アリスの声がした。尻尾の蛇の目が光る。
「なんだ」
俺は次第に身動きが取れなくなっていき目の前が暗くなった。
ジェシ~~~~~!
日曜洋画劇場だと、ここでCMに入りそうです。




