第5話 影子と分裂
影子の検証がはじまります。
俺は俺1号、今は遠山影子としてクランベースにいる。現在、日本にはひより役の俺3号の2人だけなのだが、そのひよりも行商人モードのダンジョンガイダンスのリリースに向けて魔装開発局に入り浸っている。チーム南は、名古屋ギルドにいるため、クランベースは俺一人というわけだ。
ひよりについて触れると、魔装開発局と3つのパートに分かれて開発協力をしている。それぞれを紹介すると…。
1つ目は、ミニフレイヤやミニひよりといったオーブマシナリとの共同開発となる映像と簡易的な魔法の拡張機能開発だ。こちらは既にリリース済みで、今はアセット市場の整備など新たな市場構築に重点が移ってきている。
2つ目は、行商人モードのダンジョンガイダンスだ。こちらは、設置型のダンジョンガイダンスでの試験が完了し、小型化に向けて苦慮していたが、年末に実現し、何とかダンジョンガイダンスに押し込められたらしい。1つ目の開発内容が流用できたとひよりは言っていた。
3つ目は、人間の転送機の開発だ。2つ目の行商人モードと基本的には同じ技術になる。ただし、人間を送るということになるので、ひよりの持つ技術が必要になる。アリスの転移スキルの話を目立たなくするために発表したが、この開発は後、半年はかかるんじゃないかと言われている。それでも、半年で目途が立つというのは、すごいことだ。ネット調査の半分は懐疑的だったりする。ちなみにダンジョン内でしか使えない技術ということになっている。もちろん、倫理的な理由で、そのように発表が為されている。実際は、どうなんだろうね。
少し脱線したが、ひよりは着実にダンジョン攻略の効率を上げていっている。ガームドさんが言っていたが、来年にはダンジョンの生産性が10倍になるだろうと言っていた。さすがに10倍はどうかと思うが、技術革新っていうのはそんなものかもしれない。今も魔装開発局に雇われた会社の人たちがダンジョンでダンジョンガイダンスの試験なんかを行っているらしい。数百人体制というから、すごいものだ。
それに対し、俺はもっとこじんまりした実験をクランベースの工房でしていた。
「ぽんぽこ分裂術!」
影子の落ち着いた感じの声でも、このネーミングだと可愛らしく聞こえてくる。忍者装束の影子が目の前に1人立っている。
「ドッペルゲンガーみたいなかんじ?」
そう聞くと、もう1人の影子は悩む。忍者装束を脱ぎ始めると、中から鎖帷子というか網タイツみたいな服が見える。おい、その下なんにも着てないのかよ!って、俺もか?
そう思い、服の中を覗いていると…。
「おら、特に姿は変わってないかも」
気になってステータスを眺めてみる。
MPは減っていない。ん? 減っていない? いや、なんかおかしい。
HPとか2000超えてなかったっけ?
◇遠山影子
レベル100
HP:1005/1005
MP:620/620
スキル:遠山流忍術
こんこん変身術
ぽんぽこ分裂術
わんわん探知術
ストーンスキン
レビテート
エイジファントム
回復強化
防御強化
体術
変装
隠密
危険察知
インビジブル
これはペルソナに聞くのがいいかもしれないと思い、ペルソナを起動する。
「ぽんぽこ分裂術は、2倍に増えるけどHPとMPが半分になるんです」
え? その制約はきついな。どんどん弱くなるってことか。
「HPとMPが半分になるんだけど、攻撃力とか素早さなんかは変わりませんよ」
そうなんだな。
「あと、HPがある限り、分裂できます。分身を分身させることができるんですよ」
えーと、つまり…
「分身1体から1000体くらいまで増えますよ。正確には1024? でも、HPが1なので、わずかな攻撃を受けると消えます」
えーと、1000体・・・?
「そうなんです。おら、すごいでしょ?」
目の前の影子が胸を張る。いや、服は着なさい。ところで、分身の意識は、素で影子のペルソナなんだろうか。
「ペルソナというか、分身体の意識というか、影子ですね」
はっきりしないが、なんか、アバターとかドッペルゲンガーに比べて相当増えるが、弱くなるので倒されやすいという事がわかる。そして、影子側の意識だということだ。
「あと、この分身、身代わりになれるんですよ?」
どういうことだ?
「例えば~、本体のおらが死にそうな傷を負うと、分身と体を入れ替えます」
分身が代わりに死ぬ?
「分身は消えるだけですよ。変わり身の術的な? くノ一は、しぶといんです」
えーと、死にかけても、分身をどこかに匿っておけば、死にかけても助かるってことかな。
「そうです! ね? おら、すごいでしょ?」
すごいんだが、アピールもすごい。
「危険な地に行くときは、分身しておくと安心!」
それは心強いんだが、影子を解除してしまうと分身が消えるんじゃないかと思った。そこで、一度小次郎に戻ってみる。
「え? 消えないんかい!」
目の前で服をはだけている分身が消えずに残っている。
「消えないのは、どういうことだ?」
俺が訊くと、影子の分身が答えてくれる。
「忍術だから?」
小首をかしげる影子。
「んー、理由になってないけど、事実として分身は消えないってことか。あれ? ちなみに分身はアバターとかドッペルゲンガーつかえる?」
「おら、それは使えないかも。でも、たぶんだけど、笹木が死にかけたら、私が身代わりになれると思うよ」
若い女の子に身代わりで死ぬって言われているようで心がざわざわするが、保険としてはかなり有用なのは分かった。
「自分で消えることもできるのか?」
「もちろん」
そういうと目の前の影子の分身は消えた。レベル100で出たメルもそうだが、影子も相当な性能のスキルを持っているようだ。最初に影子を選んでいたならば、影子の分身を出しつつ、フレイヤのアバターでレベル上げをするなんて戦法も可能だったのだろう。
俺は手元のメモに検証結果を記し、次の実験に移る。
「よーし、これは1000人を試してみるしかないな」
そして、再び影子になって分身を試してみる。なんかワクワクする。
「ぽんぽこ分裂術!」
思い描くと、周辺にぽこぽこと影子の分身が現れ、その分身がさらに分裂し、影子で部屋が埋まっていく。2倍、4倍、8倍、16倍と倍々に増えていくので、途中から工房エリアが埋まるほどになる。
「きっつい。分身すとーっぷ」
周辺が影子だらけになって、影子たちに押しつぶされそうになる。影子がいっぱいだ。スレンダーだけど、柔らかな感触に包まれる。もちろん、俺もその1人なんだが。
「ちょっと実験ね」
そう言って、目の前で抱き合う形になった分身の影子の背中を強めにたたく。すると、大したダメージが入りそうにない打撃なのに、分身は消えてしまった。
「これはどう?」
隣の影子を触ってみる。撫でるのは大丈夫。ちょっと掴んでみる。え、どこをつかんだかって? 肩だよ。肩。
「ちょっと力いれるね」
肩に指が食い込むかなというところくらいで分身は消える。
「HP1って結構もろいな」
その後、ちょっとどれくらいがダメージ1なのかを測るために、ちょっと実験をつづける。すると分かったのは、普通のマッサージくらいでは大丈夫だけど、痛い系のマッサージでは危ういレベルだった。
ちなみに計算上、分身で128人くらいで、一般人の平均といわれているHP15くらいになる。一般人として過ごす分には、結構な人数を分身として動かすことができるということが分かった。
「すごいわ、影子の忍術」
そういうと「「でしょ?」」と声が重なって返ってきたのだった。シンクロしすぎて、声がでかい。
これ、ドッペルゲンガーで影子の分裂使うと単純に6000人くらいになれるわけか。地方の大きめの町くらい?
なんか笑いが込み上げてきた。俺だけの町とか、ウケる。パン屋のおじさんも、美容院のお姉さんも、小学校の先生も全員俺。
「なんかツボに入った。でも、さすがに無い無い」
俺は1人、影子の真ん中でケラケラと笑う。周りの影子が怪訝な表情を浮かべているのがシュールだった。
まだ続きます!




