第25話 エバーヴェイルと感謝状
騒動がひと段落です。
警察から消防、沿岸警備隊、海軍、そして、探索者。多くの者が結果的にスタンピードに立ち向かったおかげで、死者どころか怪我人が出なかったことに報道各社や個人のMu-tuberなども加わり、報道合戦が加熱していた。
未だ片付けが終わっていない沿岸部では日本のテレビ中継が入っていた。
立ち入り禁止となっているアルカトラズを背後にして、日本女性の特派員がカメラに向かって話始める。
「昨日、ここサンフランシスコで新たなダンジョンとスタンピードが同時に発生しました。今までに前例が無い状況です。さらに、そのスタンピードによって、サンフランシスコの市街地までモンスターが侵入して一般市民を襲うという事態になりました。しかし、そこに偶然居合わせた探索者達によって事態は早急に解決されました。
その立役者となるのが、日本に籍を置くクラン『エバーヴェイル』の皆さんでした。SNSを通じて提供していただいた映像を見てみましょう」
その映像は、逃げ遅れたマナとメルが小型モンスターを撃退しているところだ。その周囲をミニマナ型のダンジョンガイダンスが飛び交っている。撮影者は逃げながらだが、その攻撃やダンジョンガイダンスを捉えていた。
次は空のシーンだ。メルトショットによってヴァルチャーワイバーンが次々に落とされる様子だった。空には小さい人影が空を駆けるような軌道で移動してきた。フレイヤだというのが服装でわかる。
「これらは沿岸部にて撮影されたものです。エバーヴェイルちゃんねるにて有名なフレイヤさん、マナさん、メルさんがモンスターを撃退しているところです。
驚くべきところは、フレイヤさんが完全な空中移動による回避行動を行いつつ、ホーミングして敵を倒す遠距離攻撃となります。
また、マナさんの操るダンジョンガイダンスは、多くの小型のモンスターを引き付けることで、一般人が攻撃を受けるのを防いでくれました」
そして、彼女はゴールデンゲートブリッジの方を指差す。小さく写る位置だが、テレビカメラが望遠鏡にすることで状況が見えてくる。
「あちらに見えますゴールデンゲートブリッジは、現在閉鎖されています。なぜかと言いますと、階層ボス級と見られる大型の飛行モンスターがぶつかり、無惨にも道路が一部陥没し乗用車が落下する事態になりました。しかし、その落下する乗用車を空中で受け止めて橋まで戻すという離れ業をフレイヤさんが行いました」
そして、その光景が映る後続車のドラレコが放送される。一瞬巨大ワイバーンが映ると道路に落下、土煙と共に前方を走っていた車が急ブレーキをかけるも落下していく。映している後続車も危うく落下するところだった。
しかし、その数秒後には、嘘のように車両が宙に浮きながら、ゆっくりと路面に置かれる。そして、その傍には冬にしては薄着のフレイヤが降り立った。
「この事故により、後続車にて15台の接触事故、大型トレーラーの脱輪など発生しました。しかし、フレイヤさんの救助、そして、聖女と名高いメルさんによる必死の治療により奇跡的に怪我人1人として出ませんでした」
そして、インタビュー映像にトレーラーの運転手が現れ、吹き替えの音声で送られる。
「ブレーキが間に合わなくて完全に宙に浮いた形でいつ落ちるかわからない時に、あの天使は来てくれたんだ。こんなおっさんの手をしっかり握ってくれてよ。安心するように声をかけてくれてよ」
感極まったのか持っていた帽子をクシャッと握り、サングラスを取ると涙を拭う。
そして、若い女性に切り替わる。
「玉突きになっちゃってドアも歪んで出られなかったんだけど、フレイヤさんがドアを手でこじ開けて助けてくれたのよ。グチャってなっててびくともしないのにすごいパワーだったわ。
え? 怪我? もちろんしてたわ。頭も切ってたし、足なんて折れてたんじゃないかしら。でも、そのあと来た聖女の、そう、メルさん。メルさんが顔を真っ青にしながら回復してくれたわ。友達が探索者だからわかるんだけど、MP切れ寸前の様子だったわね。怪我はこの通り、全く平気よ。傷もないんだから、写真がなかったら誰も信じてくれないけどね」
そうして、その時の写真を見せてくれる。怪我はないが、ひどい出血が服を濡らしていた。映像はそこで終わり、再び特派員の映像に切り替わる。
「このように初動救助にて、まさにスーパーヒーローのような活躍をされたエバーヴェイルのメンバーの方たちのおかげで、犠牲者が出ることなく事態は収束しました」
そして、スタジオ側から質問が入る。
「はい。はい。テロリストからの犯行声明が出ています。米国ギルド側からは発表されているのは、アルカトラズ島に突然ダンジョンが発生し、スタンピードが起こったということです。
犯行声明との因果関係については調査中とのことです。島にいた観光客や職員が人質になっていたという話もありますが、怪我人もなく全員無事とのことでした。正体不明のネコの仮面を被った2人ないし3人の男性もしくは女性によるテロリスト制圧があったと言われていますが、詳細は調査中とのことです」
そこで一報が入ったようで、インカムを押さえる特派員の女性。
「え? はい。わかりました。先ほど、人質にされていた観光客の方とのコンタクトを取れたということです。先ほどネコといっていたお面は狐だそうです。英語を話す大柄な男性2人がテロリストを強襲し、倒してくれたとお話くださっています。残念ながらカメラやスマホなどはテロリストに破壊されたため残されていないそうです」
スタジオの方では、ジェシーさんではないかという話も出ているが、男性2人ということで予測の域を出ない。どちらにしろ、英雄的な行動に対して、賞賛の声が上がっていた。中には、テロリストの仲間割れじゃないかという話も出たが、少数だった。
こうして、同じような中継が何度も繰り返され、そのたびに、新たなエバーヴェイルのメンバーの映像が出てくる。Mu-Tuberは当事者として大々的に宣伝し、それぞれが新しい情報として自ら撮影したものや証言者として映像が溢れてくる。
「私は生還したアルカトラズのスタンピード」
「日本の美女剣士への感謝」
「怪獣退治といえば日本のクラン」
「空駆ける魔女と癒しの聖女」
「でかい蝙蝠を倒した勇敢な警察官たち」
「怪獣を殴り倒した少女たち」
「ゴールデンゲートブリッジの救助活動」
「探索者、ついに空へ進出」
「エバーヴェイルの美女とイケオジ」
そんな映像がネット上にあふれてくる。中でもゴールデンゲートブリッジで活躍したフレイヤとメルは、魔女【Sorceress】と聖女【Holy Maiden】という呼び名が浸透していった。市民をハンマー1つで守っていたマナにも戦鎚の乙女【Maiden of the Warhammer】という呼び名がついていた。
米国ギルドと米国政府からの発表としては、テロリストの安否なども含め詳細は開示しないとのことで情報が制限されている。しかし、ギルド内では、ダンジョンの人為的な出現とスタンピードの発生というセンセーショナルなニュースに激しく揺れていた。ギルド内の動揺は、情報を発信しないまでも、ギルド関連のマスコミにすれば分かりやすい情報だったようだ。その不安に対して米国ギルド側がとった対策としては、エバーヴェイルの活躍とそのエバーヴェイルの協力の下に行われる安全地帯計画に対する丁寧な説明となった。
有識者としてアクセルが呼ばれ、安全地帯の性能やダンジョン攻略に対する効果などを話している。ジェシーとアリスの名前は、アルカトラズでの活躍を伏せられているにも関わらず、米国内でも更に有名になっていった。
そして、今回のエバーヴェイルの活躍については、カリフォルニア州からは、『Golden Guardian Awards』という救助活動などで活躍した市民や一般人に向けて贈られる賞がいち早く決定した。新ダンジョンの整備などもあり州側は忙しく、授賞式などは内々に行われた。しかし、多くの報道陣からの要望もあり、映像提供などが行われることになった。
そんな中、ハリウッドからの映画化のオファーがかかったり、インタビューの申し入れなどエバーヴェイルへの連絡が多くなった。さすがに海外で動きづらく南チームに対応を振ったのだった。
それでも南は休まることはなかったが、エバーヴェイルの活躍が自分のことのようで終始笑顔だった。
報道先は夜のお茶の間です。日本側の反応はどうなんでしょうね。




