第24話 フレイヤとゴールデンゲートブリッジ
フレイヤのターンです。
俺は俺2号、フレイヤぁぁぁあ。あぶな。死角からの特攻はヤバい。いま、ヴァルチャーワイバーンの群れと空中戦をしているところだ。地上の防衛をマナとメルに任せて、フェザーステップで空に駆け上がってから、何分か戦っている。
防御魔法であるフレイムヴェイルで体を守りつつ高機動で動きつづける。奴らにフレイムバーストを投げつけるがフレイムバーストは弾速が早くないので気取られて避けられる。メルトショットをサイコキネシスで誘導することで、ヴァルチャーワイバーンにぶつけることができるが、同時に何十も操るのは厳しい。そこで、先ほどから弱ったふりをしながら、空中を駆け巡っている。
奴らは動きの鈍くなった俺をついばもうとして集まってくる。俺は、それらの大部分が攻撃範囲に収まったところで、空中を蹴って急降下しながらフレイムノヴァを放つ。フレイムノヴァは広範囲型の殲滅魔法で、それがヴァルチャーワイバーンを一瞬で炎に巻き込む。炎と煙が目の前に膨れ上がり視界が無くなる。
「流石に熱いわね」
急降下しながら放ったものの、チリチリとした熱が伝わってくる。そして、真下に瀕死のヴァルチャーワイバーンがぼとぼとと落ちてくる。
「ひゃっ」
その中の一匹がこちらに向かってこようとして目の前で消滅する。そして、一匹が範囲から外れたようで、俺から逃げ出そうとしている。モンスターも強くなると逃げることが増える。変な言い回しに聞こえるかと思うが、強いモンスターほど逃げるだけの知能を持つようになるみたいだ。そこで、メルトショットを放ち、1km先くらいのヴァルチャーワイバーンの頭を撃ちぬいた。
ようやく終わりが見えたと思ったその時、アルカトラズの方から爆発音が聞こえた。その直後、見慣れたドームが展開していく。ジェシーの安全地帯だと思われる。そして、アルカトラズから巨大ワイバーンが飛び立つのが見えた。
「あれは何かしら、階層ボス? ダンジョンボス?」
何にしろ倒すしかない。あんなものが世に放たれた日には被害がどれくらい出るか計り知れない。それは、ゴールデンゲートブリッジ方面へと飛び始める。外洋に逃げようとしているのだろう。
「そうは行かないわ」
俺はメルトショットを5発つくり同時に発射する。すると、巨大ワイバーンはこちらに気づいたようで回避する様子もなく、口を開き何かを発射した。危険察知が働く。俺は、フェザーステップで何かを回避した。俺の放ったメルトショットが何かにぶつかってはじけ飛んでしまった。
「ブレス? 風系の魔法みたいね」
今度は10発に増やして四方からぶつけようとしてみる。10発ならば操作できるな。やってみるものだなと思っていると、巨大ワイバーンは速度を上げて逃げようとする。
勘が良さそうなのでインビジブルと隠密を使って追従する。しかし、フェザーステップだけでは速度が足りない。俺は思い付きで自分にサイコキネシスを使ってみる。すると速度が上がっていった。メルトショットで慣れたからだろうか、自分を動かすことも十分に可能となった。
スピードを上げた結果、ゴールデンゲートブリッジを抜けたあたりで巨大ワイバーンの背後に回ることができる。視認できる距離につくと、なんと人間が1人巨大ワイバーンの背に乗っていたのだ。ひとまず止めることが最優先だろう。俺は巨大ワイバーンに至近距離でメルトショットを10発ぶつけた。巨大ワイバーンは、羽をぼろぼろにされ体中に傷を負い落ちていく。
このままなら海に落ちていくだろうとおもったが、背に乗っていた人物がこちらに向かって何か叫んだ。声からして男のようだ。巨大ワイバーンは転進し、目の前に迫っていたゴールデンゲートブリッジに向かってブレスを吐きつつ、橋げたに落ちていった。そして、道路部分に激しく接触し、そいつは消滅したように見えた。
そして、途中で巨大ワイバーンから落下した男はそのまま海に落下していく。サイコキネシスで捕えようとした瞬間、男を中心に煙が吹き出してきて、男を捕まえることができなくなった。煙が落ち着くのを待つかと思ったが、それどころではない。なんと、ゴールデンゲートブリッジの一部の橋げたが崩れ、走っていた車がそれに巻き込まれようとしていたのだ。そして、ねぐらにしていたのであろう海鳥の群れが飛び立ち、一層あたりが騒がしくなった。
「救助優先ね」
まっさきに救助に向かった先は、落ちていった乗用車だ。一台が不幸なことに道路に空いた亀裂に飲み込まれるように落ちていったのだ。俺は、サイコキネシスでそれを捕まえて、崩壊していない道路部分に車をゆっくりと運ぶ。中の人がパニックになっている感じだが、ここならば落ち着くまで時間が稼げるだろう。
そして、崩れた道路部分に落ちかけているトレーラーに向かう。運転席が中空にせり出している状況で、運転手が逃げ出せない状況のようだ。俺は、そこに駆けつけ、中から運転手を引っ張り出した。幸いケガはしておらず、手を引いてレビテートを使ってゆっくりと引き上げ、安全そうな場所まで連れて行って降ろす。
いかつい髭のおじさんだったが、呆然としながらも感謝を述べてきた。サングラスと帽子をとって礼儀正しい。
しかし、まだ救助が残っているため、横転している車から人を助け出す。その際、面倒だからと窓ガラスを素手で割ったり、ひしゃげたドアを外したりもした。中の人が引きつっていたが、よほど怖い思いをしたんだろう。
ひとしきり救助が進むと、けが人が多数いることがわかる。どうするか、メルに来てもらう? ここでメルになる?
するとなんとメルがこちらにやってきた。どうやら自分に支援魔法をかけて強化したレビテートで飛んできたようだ。
「フレイヤ! 助けに来たの。回復は任せるの」
メルが回復を始める。俺は取り残された人がいないかどうかを確認するために、亀裂の反対側にも向かう。そちらでも何人か助けた後、メルのところに戻る。
「フレイヤ、MPが切れそうなの。まだ回復が必要な人がいるの」
メルが辛そうにしている。そういえば、俺もMPが…結構残っている。
そういえば、エナジードレインって吸うことができるんだから、与えることはできないだろうか? ペルソナに任せてみるかと久々に起動する。
「エナジードレインのモードでエナジーフィードを使えば、逆に与えることができるわよ」
つまり、メルのMPを回復できるということだ。さっそく試してみる。すると、メルが生き返る。
「行けるの! どんどん回復するの! 支援もいくの!」
そして、支援魔法も掛け始める。途端に足が悪そうにしていたお爺さんが走って避難を開始する。
「若返りまでは不要よ?」
「分かってるの。MP回復ありがとうなの。フレイヤがいれば、MPの心配がないの」
そうはいってもMPも有限だ。ただ、MPを吸収して与えることができれば、他の人たちのMPタンクとして活躍することも可能というわけだ。
その時、ジェシーから連絡が入る。
『スタンピードが収まったぞ。ダンジョン内のフレイヤがほとんど退治してくれた』
そこで、俺3号を呼び寄せてダンジョン内の防衛を任せていたことを知る。そして、アルカトラズにいた観光客やアルカトラズの職員たちは全員無事と分かる。そして、テロリストも10名捕らえたということだ。
ジェシーとアリスの感知によると周囲20キロメートルにはモンスターが居ないとのことだ。すべて倒しきったのだろう。先ほど巨大ワイバーンから落ちた男を取り逃がしたのは悔やまれるが、スタンピードを抑えきったことは賞賛されることだろう。
そして、俺とメルは人助けに成功し、ぼろぼろになったゴールデンゲートブリッジの上でハイタッチをしたのだった。
テロリストに投げられましたが、救助ができました。




