第23話 アリス親子とアルカトラズ
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俺は俺5号で、ジェシーをやっている。ダンジョンガイダンス越しにフレイヤからのヘルプ要請が入った。ジェシーにヘルプが入るのは2回目だな。前回は名古屋ダンジョンで笹木本人、俺1号の時にだったが。今回はアルカトラズ島にて先日のテロリストの仲間がダンジョンを作ってスタンピードを発生させたらしい。
ダンジョンっていうと俺というか笹木が高和港で釣り上げた蓋みたいな金属片だろうか。いや、あれは蓋だとすると相応の大きさなのか、もっと大きいのか分からない。
「パパ、なんだったの?」
俺1号の演じるアリスは、娘っぷりが板についている。思わず、大きな娘が居て、アクセルという婿がいるような錯覚に陥る。
「フレイヤからのヘルプ要請だ。アルカトラズに飛ぶぞ」
アクセルに事情を話すと、一緒に行きたいと言い出したが、アリスが身内しか飛べないスキルなのと言って謝る。アクセルは、謝罪は不要といって、そのまま上階層に走り出した。水着のままだが、良いのだろうか?
「さすがに着替えるか」
俺が言うとそうだねと答えるアリス。しかし、時間はあまりないということで、黒づくめの装備に仮面を着ける。ただし、仮面はお互いがわかるように狐だったりする。
アリスはフィリピンで使った装備らしく、何故か網タイツだったりする。それだけで狐面が無くても分かるというものだが…。
「さて、飛ぶか」
アリスが、ちょっと探しづらいなぁと言いながら、目標を見つけたらしい。そして、俺とアリスは手をつなぎ、インビジブルを先に使う。これで、飛んだ瞬間に見つかる可能性が低くなる。
出たところはアルカトラズダンジョンの中だった。スタンピード中のためか、多くのモンスターが動く気配がしている。幸い近くにモンスターが居ない。モンスターの通り道から外れたようだ。
「浅い層に出られたわ。あっちが出口ね。ダンジョンの外は分かりにくいけど…中央の大きな建物の高い位置にあるわ」
俺のテリトリーはダンジョンを超えた部分からは見えていないので、アリスの能力が役に立つ。どうやら、中央の監獄にダンジョンが作られたようだ。観光客の状況が心配だ。
「スタンピード中におれの力がどれだけ使えるかがわからないが、安全地帯を作って要塞を構築するか」
ギルドの情報として、スタンピード中はダンジョンの階層間の障壁のようなものが無くなり、下の階層から外に向かってモンスターが狂ったように飛び出すというのだ。安全地帯の原理はすべてわかっていないが、どれくらい効果があるかは不明だ。
「試すだけ試しましょう。パパの安全地帯、期待してるわ」
アリスの言葉に早速だが、安全地帯を作るべく場所を選定する。
「ここだな」
ちょうど小型の飛行モンスターが列をなして飛んで行っている。そこに割り込むようにして、安全地帯を構築する。さらに、要塞を作り上げる。見るからに軍事施設のようで厚い壁が立ち上がる。安全地帯の薄い膜のようなものが、小型のモンスターを阻んでくれるが、それらは怯むことなくそこに突っ込み続けてくる。
「おいおい。なんだこいつらは。ダメージ受けても怯みもしない」
「正気じゃないわね」
落ち着いて話す時間は無いが、何らかの対策が必要だ。よし、ここはペルソナにもお願いするかな。ジェシーなら、何かいいアイデアを出してくれる気がする。
「よし、ひよりを呼ぼう。正確には、俺3号だ。ドッペルゲンガーを一度消して、こっちで呼べば戦力が1人増えるぞ」
「いいアイデアねパパ。遠隔でも消せるけど、いきなり消えると良くないわ。ダンジョンガイダンスで連絡がつくならそれがいいわ」
早速連絡してみると、夜の10時で1人でゆっくりしているところだったらしい。さっそく解除してもらうと、ドッペルゲンガーの俺3号を呼び寄せてもらう。アリスが俺1号で良かった。
「スタンピードをこの要塞で押しとどめればいいんだな? 人の目もないし、ここはフレイヤか。まぁ、見られるのも良くないし、狐面を着けるか」
そこで俺3号が珍しくフレイヤに変身する。
ちょうど人数分買っておいてよかった。しかし、フレイヤの服装に狐面だから、あまりごまかせている気はしない。
「フレイヤにスタンピードを抑えてもらっている間に、おれとアリスでテロリストの方を何とかしようと思う」
フレイヤになっている俺3号が考える。
「いっそのこと、ジェシー2人で攻めたらどう? 屋内戦闘ならジェシーでしょう。アリスだと、広い空間が必要な足技が多いし」
確かにそうだな。アリスになっている俺1号が、さっそくだがジェシーになる。こうしてジェシーが2人になり、テロリストの天敵が2倍に増えたわけだ。
「よろしくな、相棒」
俺1号のジェシーがそう告げてくる。長いので、ジェシー1と呼ぶか。そうすると、おれはジェシー5だな。
「ジェシー1。よろしくな」
「そういう呼び名か。じゃあ、ジェシー5、全員救出するぞ」
2人でこぶしを合わせて気合を入れる。
「では、わたくしは、ダンジョン内のお掃除といくわね。フレイムマジック」
そこからはフレイヤの魔法による爆音がとどろき始める。要塞といっても火器は作っていなかったのだが、立派な砲台ができたものだ。ニコニコしながら、滑らかな肢体を揺らしつつ、えげつない炎をまき散らしている。防衛タイプのゲームでいきなりラスボスを配置したような状況だ。
「何かあったら身を隠してくれ。俺2号のフレイヤはサンフランシスコ側でモンスター退治をしているからな」
フレイヤは分かっているわと言いながら、大型のオオカミのようなモンスターの群れ全体を炎に巻き込んだ。
そして、ジェシー隊は、ダンジョンの外へとインビジブルを維持した状態で向かった。外にでると、そこはアリスが観たように中央監獄の中だった。しかし、監獄のあるエリアではなく、一角の小部屋で天井に大きな穴が開き、空が見えている。この脱出不可能と言われた監獄も、空から脱出するモンスターを止めることはできなかったようだ。フレイヤのおかげで、スタンピードが止まっている形になっているが、これまでの時間で外に出たものはフレイヤ達が対処しているところだろう。
俺はテリトリーを使う。アルカトラズ内にテロリストがいる場合、気づかれるのは得策じゃない。そのため、探知だけにとどめる。すると、観光地化されたアルカトラズ内の監獄に多くの人々が押し込まれていることが分かる。そして、それを監視するように数人が配置されている。銃をもっていることから、一般の兵士かもしれない。いや、それこそカムフラージュかもしれないと気を引き締める。
「建物の中に人が多数いるな」
俺がそういうとジェシー1も頷く。
「ひとまず目視して状況を確認するぞ」
そして狐面の黒づくめ2人で、音もたてずに人質がいると思われる場所へと踏み込んでいった。中央監獄の中は意外と静かだった。どうやら、スタンピードが屋外に飛び出したおかげで監獄内にモンスターが入ってきていないようだ。観光客たちは怯えて静まり返っている。
その中で拡声器を通した声が聞こえる。
『お前たちはギルドによるダンジョンの侵攻による犠牲者だ! 恨むならギルドを恨み、自分の命が新たな地球の主に捧げられることを喜びとするんだな!』
この集団のリーダーだろうか。新たな地球の主?なんのことだろう。ちなみに、テリトリーを使うことでアルカトラズにいる人の配置が分かる。監視側に立っているのが10人いる。外には居ない。モンスターが徘徊しているからだろう。
「監視塔に2人いる。しかし、気配が妙だ。こちらは、探索者かもしれないな」
ジェシー1が監視塔の方を観て教えてくれる。確かに気配が微妙に分かりにくい。隠密というわけではないが、モンスターに気取られないように気配を消しているような感じだ。
『よし、装置を仕掛けろ』
彼らは装置を運び込んでくる。ペルソナに任せてみるか。何か分かるかもしれない。
「んー。調べる必要があるが、毒物の可能性が高いな。奴らがダンジョンを維持することを考えると建物を吹き飛ばすのは悪手だ。その上で、観光客を殺す装置となると毒ガスか? しかし…」
その装置の設置が完了する前が得策だ。
「考えている時間は無さそうだ。今すぐ制圧するか」
お互いに頷くと、俺たちは両サイドから攻め始める。そして、静かに1人ずつ昏倒していった。死角に入ったテロリストを順に首を絞めたり脳震盪を起こさせたりして床に沈めていく。しかし、見えない何かに襲われ倒れていく様を見てしまった観光客が声をあげてしまう。
『何かいるぞ!』
反撃されたり逃げられると困るということで、手加減なしに倒していく。首謀者が何かを投げると外でそれが爆発した。大きな衝撃は来ない。
制圧は完了したが、その爆発物のせいなのか、監視塔にいた2人が動き出したのだった。合図だったのだろうか。しかし、なんだ? この魔力は。
「外が変だ」
それはヴァルチャーワイバーンが数倍に大きくなったものだ。監視塔にいた2人の仕業だろうか。それに2人の人影が見える。そして、それは飛び立とうとしているのだ。
「おいおい、モンスターに乗っているのか? 冗談みたいなやつだな」
ジェシー1がそんなことを言うが、お前がそれを言うか?とも思う。
俺は念のためにテリトリーを使い安全地帯を作る。
そして、制圧したテロリストを拘束していると、監獄の中からうめき声が聞こえ始める。全員ではなく、その中の10人くらいだ。そのうち、口から泡を吹き始める。
「彼らは先に何かを飲まされていたんです! そのテロリストたちが俺たちの保険だと言ってました」
テリトリーを使って人体の内部を観察してみる。こんなこともできるんだなと感心したができた。何か大きなカプセルみたいなものが割れているようだ。状況的に毒だろう。
その10人は苦しみながらのたうち回る。
「透明化してメルで回復だ。見られなければ問題ないだろう」
ジェシー1がそういうとインビジブルを使う。そして、苦しむ観光客に向けて回復を施していく。しかし、そこでハプニングが起こる。のたうち回っている観光客の少年が、透明化したメルにぶつかったようだ。なんとか声を出さずに済んだが、抱きつかれるような形になっているようだ。俺はその少年をメルから引きはがす。
「おつかれさま、みんな毒が解消されたようだ」
俺が声をかけると、ジェシー1が姿を現す。すばやくメルの姿からジェシーの姿へと戻ったようだ。
「あぁ、問題なさそうだ」
しかし、その光景に、さっきの少年が怪訝な表情をしている。
「どうした。まだ体調がわるいのか?」
ジェシー1に訊かれると怪訝な表情は変わらない。
「さっき女の子に抱きついたような柔らかな感触があったんだけど…おじさん?」
手を閉じたり開いたりしながらそんなことを言う。
「かわいそうに、毒に侵されて幻覚をみたんだな」
「え? でも、いいにおいもして…」
少年は納得いかない感じだ。面倒な少年だと思っていると、外から轟音が聞こえてくる。地震だろうか。俺はテリトリーを広げて周囲を感知する。
すると、ゴールデンゲートブリッジが崩壊しようとしているのが分かった。
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