第22話 アルカトラズとスタンピード
サンフランシスコ探訪です・・・。
俺は俺4号。主にメルを担当しており、エバーヴェイルの中では妹的な存在だ。うん、言っていてキモイとおもったが、見た目は相当な美少女なので許してほしい。最近は、パーティ戦を長らくやっていない。というのも、ひよりの手伝いでダンジョンガイダンスの開発などを手伝っていたのもあるが、あまり回復や支援が必要のないエバーヴェイルでは回復職は閑職だったりする。ちなみに、魔装開発局やオーブマシナリ、そして、展示会前のE&Sのデザイナーさんたちにリジェネを掛けてあげると嬉々として働きだす。休まず働くとか、労基とかに目をつけられるので、ほどほどにと南さんには言われている。でも、休むか休まないかは本人次第なので、南さんもメルのことを叱るわけではない。
そして、今回、南さんと一緒に観光を楽しむことが俺のミッションだ。特に、南さんが行きたがっていたレストランや観光名所なんかを引っ張りまわすのが役割だ。しかし、エバーヴェイルちゃんねるの撮影も行うことになっており、そちらも並行して進めている。
まずは、マナがオープニング用の動画が欲しいといって、お決まりの「エバーヴェイルちゃんねるにようこそ!」をゴールデン・ゲート・ブリッジの前で行う。マナがいつものMCをやり、今回の旅の説明をする。ちなみに周りにもMu-TubeやPicPacの撮影をしていそうな人も多くいるし、観光客も多いので俺たちは恥ずかしくはない。しかし、南さんは周りをキョロキョロとして落ち着かない感じだ。
「みなさん、すごいですね。こんなに人がいたら緊張します」
「え? 南さんの方がよっぽど偉い人たちの前で緊張する仕事してますよ?」
マナの突っ込みは妥当だろう。ガームド局長とかギルドの支部長たちを前に堂々と仕事をしている。
「でも、みなさん、知り合いですし、お仕事だから」
南さんは、そこまで言ってはっとする。
「配信もお仕事でしたね。ごめんなさい」
南さんが謝ってくる。真面目だ~。
配信ではあるが、今回は女子旅だ。
「メルもこのお店いきたいの。人気のスイーツが売ってるの」
「メルちゃんも行きたいって言ってるし、いきましょー。ね? 南さん」
食べ物関係は俺。
「あ、あと、こっちのお店、コスメとブランドが安いんですよ。あとでいきましょ!」
女子力系はマナ。
「わたくしも行きたいわ」
フレイヤは後押し。南さんも俺たちの魂胆を見抜いているのか苦笑しながらも楽しんでくれている。そんなわけで、撮影しつつも、ほとんど観光のノリでサンフランシスコを楽しむ。何軒も回ると3時間ほど経ち、カフェで休憩しようかという話になった。
ちなみに今いる場所は、サンフランシスコの北側にある海辺でダンジョンがある場所にも近い。冬なので海辺は冷えるが、フレイヤは相変わらずの薄着だ。
そんな時、自分たちも含めて周囲のスマホが鳴り始める。昔のゲームでモンスターにエンカウント、つまり出くわした時に鳴るメロディが一斉になっているのだ。それは、スタンピードやダンジョン災害が近くで起こった際に周囲に教える警告音に採用されている。
最近聞いていないのだが、アメリカの人たちはよく訓練されているのか、近くの避難場所にむけて歩きだしている。日本や他の国からの観光客は、近くにモンスターが見えないこともあり、動こうとしない。
ちなみに、かつて脱獄不可能な監獄として知られたアルカトラズ島の方角に煙が上がっていた。南さんのスマホには更に詳しい情報が来ているようで、状況を教えてくれる。
「アルカトラズ島にダンジョンが出現して、スタンピードも同時に発生しているらしいです。こんなこと聞いたことがありません。え、まさか。そんなことできるなんて」
南さんが青ざめる。
「アビスヴォーカが声明を出しました。ダンジョンの代弁者としてアルカトラズ島を新たなダンジョンにして、居合わせた観光客や従業員を生贄にするそうです。でも、人類にダンジョンを作り出す技術はないはずです。ギルドもまだ解明していない技術を持っているなんて…」
遠くに見えるアルカトラズ島から爆発音がする。そこに、サイレンを鳴らした警察車両がやってきて避難誘導が始まる。
「南さん、わたくしは観光客の方たちを助けたいわ」
フレイヤがポツリと話す。ここはメルの出番だろう。
「メルもなの。メルの回復魔法が役に立つの」
そういうとマナも後に続く。
「私も助けにいきたいです」
南さんは頷く。
「すぐに近辺にいる探索者に支援依頼が届きます。ただし、アルカトラズ島への侵入は許可が下りないと思います。対テロ、対人のプロが招集されると思いますが、時間がかかるかもしれません。高ランクの探索者がアルカトラズを観光中ならばいいんですけど」
「すでにアルカトラズ島にいるならば仕方ないのよね」
フレイヤが何かを思いついたようだ。俺もその内容に気づく。スタンピードを起こしているダンジョンがあり、そこに偶然居合わせた対テロ、対人のプロが暴れるのならばいいのだろう。
フレイヤがダンジョンガイダンスを取り出して、どこかに連絡を取る。南さんは、見ないふりをしてくれているようだ。そして、アルカトラズを見ると、空に大きな鳥のようなものが多数飛び出した。
「あれは、翼竜?」
メルは割と目がいいので見える。あれは、ヴァルチャーワイバーンだ。死肉をついばむので、直接食べようとはしてこないが、探索者を殺してから食べようとするので大した違いはない。翼を広げると4メートルに至る巨体で、子牛くらいなら空に連れ去るだろう。
「ヴァルチャーワイバーンなの。早く倒さないと一般人がいっぱい食べられるの」
俺がそういうとフレイヤが
「フレイムマジック」
フレイヤの周囲に陽炎のような魔力が渦巻く。空にいる間に倒してしまおうと準備を始める。
「あたしはオトリかな。あ、予備で持ってきたダンジョンガイダンス5機で挑発すれば、時間を稼げるかも」
マナがいいアイデアを出してくれる。
「メルもマナおねーちゃんと一緒に各個撃破するの」
「わたくしは行くわね。最近身に着けた技をお見せするわ」
ひらひらとスカートをなびかせて、空を駆けていくフレイヤ。南さんを避難所に連れていく。
全員が避難したわけではなく、野次馬が周辺に残っている。フレイヤが飛び立つのも誰かのスマホに撮られただろうし、今放っているメルトショットがヴァルチャーワイバーンを撃ちぬいているところなんかも撮られているだろう。
しかし、大型のモンスター以外も出てきているのが見える。大型の蝙蝠のようだが、デスバットか、ブラッドバットだろうか。呑気にスマホを構えている観光客に襲い掛かろうとするので、杖で倒す。マナも剣を使うのは危ないということで、ハンマーを持っている。当たれば、どちらも危ないのだが。
「えい!」
別に気を抜いているわけじゃないが、掛け声が可愛くなってしまうのは仕様だ。弾け飛んでカフェの壁にべちゃりと湿った音を鳴らしながら消滅していく。
「あそこにいる蝙蝠を引き離して!」
マナ型のダンジョンガイダンス編隊が、小型モンスターを引き連れて観光客から引き離す行動を取っている。そして、ダンジョンガイダンスに引き寄せられたモンスターをマナがハンマーの一振りで消滅させていく。ここでようやく観光客が逃げ出す。
彼らを庇おうとして警察も加わって銃などで対処しようとするが、それは厳しいと思う。奴らは早い上にしぶとい。少々の弾だとダメージが足りないのだ。ただ、音で注意をひいてしまっており、警察に向かおうとするモンスターがいる。それをマナがダンジョンガイダンスの挑発が巧く使って引きはがしていく。
援護にきた探索者たちが何人か加わる。俺は、彼らに支援魔法を飛ばすと、みなぎる力に驚いているようだ。良い動きをしてくれる。
しかし、フレイヤの攻撃範囲から外れて回り込んできたヴァルチャーワイバーンが地上に降り立つ。高さは5メートルにくらいだろうか。探索者たちに肉薄する。
「グラディア・コア、オーラ::ベヒモス。ブレアド!」
俺は最上級の支援魔法を自分にかけ、彼らの前に立つ。ブレアドはカウンター技で、とにかく殴るスキルだ。素早い殴りが敵を寄せ付けない聖域に見えるだろうが、物理なのだ。
カウンターで顔や腕に傷を負ったヴァルチャーワイバーンだが、さすがに耐久が高い。
「今のうちに攻撃を!」
日本語で言ってしまったが、彼らも攻撃に加わってくれる。その1分後にはヴァルチャーワイバーンを倒すことができた。
アルカトラズ島で再度爆発が起こる。黒煙が何を意味するのかは明確ではないが、ドーム状の何かがアルカトラズを覆っていくのが分かった。
何か始まってしまいました。




