表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第1章 魔女になった日
11/55

第11話 フレイヤと記憶

アバターのスキルは奥が深いんですよ。スキルの進化ってとても魅力的ですよね。

 配信翌日、今日は次の探索の準備としてダンジョンには潜っていない。シナリオを今日考え、明日のライブ配信のモンスターを決めるつもりだ。いろいろと準備しないといけないわけだが、昨日の配信の影響を知りたくてエゴサーチしてしまう。やはりというか、フレイヤさんはなかなか評判のようだ。その美貌に対する会話が半分。フレイムビットの扱いや、サイコキネシス、フェザーステップなど、スキルの話題が半分といったところか。配信チャンネルに対しても、恋人募集や愛人募集、パーティやクランへの勧誘DMがわんさと来ている。まずは、クランは一応メモしておこうか。

 もちろんアンチも多くて、顔面が合成だとか、映像自体が作り物じゃないか? みたいなものもある。 アンチも含めて人気だな。


「おっ、配信録画の再生数が10万を超えてるぞ」


 どうやら別のSNSなどにも転載されて再生回数が伸びているようだ。マナこと愛美ちゃんからも興奮したメッセージが来ている。次の配信は明日に控えているが…。


「次の配信は、どういったものをするかな」


 名古屋ダンジョンは20層以上あるダンジョンだ。20層以上というのは、8年前に出現してから20層が最大深度なためだ。無双するならば、20層まで行って、初めての21層に行くのもありだな。しかし、それをするには、荷物の準備だったり、モンスターの研究だったりも必要だ。フレイヤがいくら強いと言っても、魔法耐性が高いディガーモールドといったモンスターもいる。物理的な攻撃をするにはマナでは不足するだろう。

 んー。なんか、世紀の発見みたいな何かを見つけるとか。そんな都合よくいくわけはないな。


「よし、ちょっと調べてみるか」


 そこで、過去バズった探索動画などを検索してみる。

 最初に出てきたのは、ニューヨークのクイーンズにあるダンジョンで、35層にいた双頭のドラゴンの討伐映像だ。アメリカの最上位と呼ばれるランクSパーティ『バニッシュクロウ』が単独で挑んだものとなる。頑健な前衛が輝く盾でターゲットを引き受けながら、二人の剣士と弓使い、そしてヒーラーが戦っている。魔法使いがいないのに、スキルの使い方が巧みで、片方の頭を沈黙させると瞬く間に討伐を済ませてしまった。

 彼らのような正統派のパーティは、アメリカでは人気がある。これに匹敵するのは、お金に物を言わせて重火器で勝負をするミリオンガンズのパーティだ。


「んー。こういう路線もいいな。やはり白熱した戦いは見ものだ」


 日本にもガチ戦闘で魅せるクランは多くあるので、やはりランカーは一定のファンがついているのは確かだ。


 次は、お宝発見の動画で、トレジャーハント専門のチャンネルだった。隠密系のスキルを持つ日本人男性で忍者黒壁が、隠し部屋からハイヒールのスキル書を見つけたところだ。ハイヒールは世界でも数個しか見つかっておらず希少だ。ヒールを持つ探索者は少なくないが、ハイヒールまで成長した事例が無いといわれている。


「忍者黒壁…、宝箱ばかり狙ってるなー。こういうのも探索者っぽいと言えば探索者だな」


 動画のコメントから分かったが、ハイヒールのスキル書は50億円で落札されたらしい。その効果は部位欠損を治せるほどだという。ヒールは部位欠損までは治せないので、その効果の差が大きい。50億円かー。隠し部屋とか宝箱とか見つけて一攫千金はいいなぁ。しかし、黒壁のように隠密能力が高く綿密な調査が無ければ、こうは上手くいかないだろう。

 

 後バズっているというと…色気担当かなと思われる。


「ヴァルキュリアのファン感謝祭」


 ヴァルキュリアというのは、探索者の女性で作られた20代で構成された15人からなるアイドルユニットだ。アイドルが探索者になったとも言える集団で、戦う能力はへっぽこながらも、見た目と企画力でのし上がってきた集団だ。撮影の裏には、その3倍以上のスタッフがいるといわれている。ファン感謝祭は、そのヴァルキュリアと一緒に探索ができるというもので、低層階を多勢に無勢で攻め立てている映像だ。数の暴力が圧巻なのと、ヴァルキュリアたちの露出の高い防具が見た目にも華やかにしている。


「フレイヤも問題なく、この路線は行けそうだが…」


 周りを取り囲む男たちの熱気がすごい。これを直に感じるには並大抵の忍耐力ではないだろう。うん、お色気は最後の選択肢にしよう。



 こうなると、忍者黒壁のようにスキル書などの高価な品を集めるか、派手なモンスターとの戦闘をするというのがいいかもしれない。フレイヤのビジュアルは今のままでも問題ない。しかし、宝箱の探索とか低確率のドロップ品なんかは、狙っても出ないから高価なわけで、悩ましいところだ。



 悩みが尽きないので、いったん別の検証を行ってみる。俺は、小次郎の姿で、よれよれのTシャツにハーフパンツでPC前に座っている。ここでアバターを起動し、フレイヤに変身してみる。するとタンクトップにショートパンツ姿のフレイヤとなり、リュックを背負った状態となる。さきほどまで背負っていなかったリュックには、カウントアップの状態で入れたキッチンタイマーと、温めた直後のコンビニ弁当が入っている。それを入れたのは、2時間前、フレイヤの姿の時だ。そして、アバターを解除すると、フレイヤのアバターと共に服とリュックがどこかに消えるわけだ。そして、検証対象は、アバターを使っていない間、取り込まれたアイテムの時間はどうなっているのか?ということだ。

 俺はフレイヤの姿のままリュックを開け、中を確認する。


「驚いたわ。キッチンタイマーも時間が進んでいないわね。コンビニ弁当も温かいままだわ」


 これはアバターと一緒に消えたアイテムは時間を止めることができるということを示していた。まとめると、アバターは時間停止の効果のあるアイテム保管庫としての機能があるわけだ。保存が効かないアイテムを持ち出すときなんかは、小次郎の姿で保存し、フレイヤで移動、もしくはその反対で対応できる。似たものに、亜空間に物を保管するマジックバックというものがある。あれも非常に高価で、さらに市場に出回っていない。その上で時間停止の機能まではなかったはずだ。


「これはチートですわね」


 フフフとほほ笑む。

 検証は終わったので、名古屋ダンジョンでの攻めどころを考えるためにダンジョン情報のページを開けてみる。公開されている情報は、モンスターの種別や出現位置、地図などである。写真なんかも交えてある。これらはギルド側に集約された情報を基につくられており、情報提供の大半は有志の探索者だというのだから頭が下がる。

 何かいい効果が生まれるかと思い、ふとペルソナを起動してみる。そして、モンスターを見ていると、なんだかモンスターが目に留まる。何か思い出すようなそんな感じがして、名前を読んでみる。


「バサルゲイラ…、倒す前に胸の逆鱗を破壊することで、高確率でストーンスキンのスキル書が出るのよね…」


 え? なんか口走った。

 バサルゲイラは7層の火山地帯にいる固い皮膚を持ち熱い蒸気からなる熱波を吹き付けてくる大きなトカゲだ。スクロールすると、ライオンのようなたてがみをもった大型の蝙蝠の写真が出てくる。


「フューリーバット…、死にかけるとすぐに逃げるけど、逃げた巣には宝をためてるのよね」


 俺は口走るものを自らメモしていく。本当かどうかが不明だが、ペルソナがダンジョンにいるモンスターの裏情報らしきものを漏らし始めた。裏情報を少し検索にかけてみたが、それらしい情報は得られてない。スキルが作ったアバターのペルソナだ。もしかしたら、本当なのかもしれない。

 そうして、つぎつぎとメモ帳に情報をまとめていった。モンスターのレアドロップの高確率の出し方や、弱点の情報などが出てくる。マップ上の隠しエリアなどはわからないようだが、モンスターの記憶みたいなものが徐々に湧いてくる。


「わたくしの記憶…?」


 たとえるなら、既視感に近い。アバターの記憶というのは、俺の小説の設定かもしれず、なんだか不安にもなるが、試すだけなら問題ない。もし本当の情報ならば、今までにない討伐になるだろう。



 俺は、少々眉唾な情報だが7層にいるバサルゲイラを次のターゲットとすることに決めた。フレイムビットをうまく使うことで見えないように胸の逆鱗を破壊することはできるだろう。もし、フレイムビットで足りなければ、ほかにも手はある。

 では、ドラゴン亜種として初心者の登竜門とも言われているバサルゲイラを倒し、配信中にスキル書をゲットする。このシナリオは、なかなかいい。マナに連絡をして、準備を進めるとしよう。


お読みいただきありがとうございます。

ブックマークが増えてきました。うれしいことです。

感想や評価をいただけるとさらにうれしいです!よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ