第12話 エバーヴェイルと持株会社
エバーヴェイルのお話です!
エバーヴェイルには業務連携の引き合いが増加している。大きなところでは、魔道具開発の提携、安全地帯の開発提携、運営業務のオファー、小さいところでは、雑誌の取材やテレビ出演、変わったところでは、一日署長みたいなものもある。
そんなオファーを今、南チームといわれる5人体制で捌いている。ちなみに、南が貰っているエバーヴェイルからのインセンティブから給与を支払っている。
優秀な人材を確保できていると言えるが、かなり状況は悪化していた。
「南さん、これ以上は人増やさないと厳しいです」
南もチームからの相談に対して、同意しかできない。いま、ギルド側の事務処理能力も使わせてもらいながら業務を回している状況なのだ。
「エバーヴェイルの出来ることが増えすぎですよね…。安全地帯も急に増えましたし」
安全地帯の開発については、9個のダンジョンに合わせて30個ほどの安全地帯を作り出した。それも、2週間足らずという短期間でだ。主にアリスの移動能力により開発効率が上がりすぎたのが原因だ。当初なら、1つのダンジョンにつき1週間を予定しており、たっぷり3か月はあるはずだったのだ。
そのため、ギルド側とは安全地帯の運営に向けて急ピッチで進めているが、安全地帯でホテル業をしたい企業、そこで商売をしたい企業、何なら賃貸業を行いたいと言っている企業が我先にと申請してきているのだ。その企業の動きを察知してか、税務署もダンジョン内の土地利用に関する税務処理について問い合わせが来ている。公的機関との交渉事に関してはギルドに大部分を任せられているが、もう何が何だかわからないくらい忙しい。
そこで、南と同じ年くらいのメガネの男性が手に持ったファイルを掲げる。
「早いと思いますが、例の企画を前倒しするのが良いと思います」
「そうですね…」
南が頬に手を当てる。
「こちら、年度内に完了させることはできますか?」
「え、厳しい気がしますけど…。エバーヴェイルを持株会社にするっていうのは、ギルドの持っているスキームがそのまま流用できますから1ヶ月もあれば可能です。大手クランは、よくやってますからね。
あと、買収先として、税理士事務所と瀬戸さんが唾をつけてるイベント企画会社、ここは規模も小さいので買収はできそうです。後は、買収先を探すことになりますし、業務提携でも2か月では厳しいかと思います」
南は考える。
「そうですよね。結局、収入がうなぎ上りになっていて、税金はいっぱい取られる形になりそうですけど仕方ありません。そもそも節税なんて無理だったんですよね、このクランには」
南の手元にある利益予想が、年度末に130億円に達することが分かっている。ダンジョンガイダンスの利益が入り始めるのが来年度となるはずで、それが入り始めると桁が1つ変わってくると思われる。
「業務規模に見合った体制にして雇用を生むくらいが関の山ですね。あとは自社ビルを建てるとか」
メガネの男性が肩をすくめる。
「あ、それはいいですね。エバーヴェイル所有のビルを買っちゃいますか」
南がポンと手を打つ。
「いいんですか? ハイランドスクエアのオフィスもありますけど」
「それなんですけど、あそこは居住エリアもあるので、あまり人を増やしたくないんですよね。このメンバーくらいならいいですけど、もっと増えるとおもいますから、いっそのことエバーヴェイルの自社ビルを建ててしまってもいいかなと」
チームメンバーが雑談にも見える会話の中で、方針が次々に決まっていく。南チームはこんな感じに運営が進んでいくのだった。
そして、その2日後には、南と笹木、フレイヤ、マナ、メル、ひより、ジェシーが集まっていた。アリスは、難しい会議はパスと言って、どこかに旅立ったということになっている。ドッペルゲンガーが4人しか出せないので仕方ないのだ。
「え? 会社になるの? クランなのに?」
「はい、そうです。笹木さんが会長、社長にフレイヤさん、COOつまり最高執行責任者にマナさん、技術部門の専務としてひよりさん。メルちゃん、ジェシーさん、アリスさんには、常務取締役としての役割はどうかと思っています。あ、私がCFOつまり最高財務責任者として経営や経理全般を見ようかと思っています。私の持っているチームもそこに入れようと思います」
それを聞いて、みんな目を丸くしている。
「えーと、会長ねー。いい響きだねー」
笹木は、深く考えないことにしたようだ。
「あの、COOって何ですか? 最高? 執行? なんか怖い役ですか?」
マナがガクガク震えながら質問をする。
「E&Sさんとか傘下の企業と仲良くするのが役目です。フレイヤさんと一緒に会社訪問したりして、仲良くして仕事がうまくいくように困ったことがあったら聞いてあげるとか、そんなフレンドリーなお仕事です」
「そうなんですね。フレイヤと一緒なら何とかなりそうな気がしてきました」
南は笑顔の裏で、かなり説明を省いて楽そうに言ったのを心の中で謝罪していた。しかし、マナならば出来そうだという期待もある。なんだかんだで、事務処理的なこととかもマナが一番覚えていると思われる。他のメンバーは、特化型というかかなり特殊な人たちという認識だ。
「わたくしは社長なのね」
「はい。エバーヴェイルはクランとしての体制も維持しますので、副代表のフレイヤさんが社長になるのが自然かと思います。笹木博士バージョンの笹木さんは歳ですからね。いろんなイベントなんかに参加するのは、フレイヤさんの方が良いかと思います」
南の言葉にフレイヤが腕を組んで考え込む。
「大丈夫じゃないか? 物腰も社長っぽいから大丈夫だろう」
「もう、ほんと軽いわね」
確かに見た目年齢的に20歳くらいのフレイヤだが、貫禄というかオーラみたいなものは感じられる。
「大丈夫です。基本的には、エバーヴェイルの方針、ダンジョン攻略をサポートしていくことを進めていけばいいんですよ。こまごましたことをやってもらうために、いろんな会社に参入してもらおうという話ですから。
本来なら各会社の財政状況なんかも考えないといけないんですが、エバーヴェイルは単独で純利益が莫大ですからね」
南の言葉にマナが質問をなげる。
「ちなみにいくらくらいなんですか?」
「現時点の純利益の年度予測が130億円です。メルちゃんの施術代が大きいのと配信や安全地帯の依頼料などが入ってます。そして、来年度からはダンジョンガイダンスの手数料が入り始めます。これは…今はいいですね」
眠そうにしていたメルだが、呼ばれたと思ってビクッとする。
「メルちゃん、すごいね」
「え? すごく食べる?」
的外れなメルの受け答えに南は苦笑しながらも、次の話題につなげる。
「そこで、今日の話題は自社ビルです。1から建てるのは何なので、貸出中、もしくは建設中の建物を買い取ろうかと考えています。あ、このオフィスはこのまま使っていても問題ありませんというか、ここに住んで居てもらう方がギルドとしては安心です」
そこからは、物件資料を何枚か見て皆が意見を言い始めた。
「おれは、でかいキッチンに食事ができるエリアがあるといいな。BBQ用の屋外スペースなんかもあると嬉しい」
ジェシーの条件に合うところもある。社員食堂があり、屋上テラスがある。
「メルは、そこで食べられたらいいの」
メルはお腹がすいたようだ。
「わたくしは、運動できるスペースやエステができるスペースが欲しいわ」
それは比較的簡単にできそうだと南が言う。
「あたしは、撮影スペースです!」
マナは配信を考えているようだ。スタジオとしてのスペースも内装工事で対応できるだろうと南が答える。
「僕が欲しいのは、新しい魔道具の展示スペースさ。よくあるでしょ? 新製品の発表会とかで使うの」
ひよりはオーブマシナリと開発しているダンジョンガイダンスの新型を展示してやろうと考えていた。
「みなさんの希望はわかりました。ところで、笹木さんはいかがですか?」
「え? 俺? そうだなぁ…。プライベートなスペースがあればそれでいいかな。外からも見えない部屋みたいな」
南は、それだけですか?と思いつつ、承知しましたと答えた。
こうして、エバーヴェイルは新たな形に進化しようとしていた。
エバーヴェイルが進化します!
笹木が会長です!




