第9話 ガームドと研究
101話です!
ガームドさんのフィールドワーク回です。
ガームド局長は、魔装開発局のトップだ。しかし、その組織自体は多くの部署に分かれ、多くのメンバーが各々の直属の上司と共に働いている。
その枠外に、局長直轄のチームがあり、彼らはガームドチルドレンと呼ばれていた。エリート揃いの魔装開発局の中でも抜きんでた存在として扱われていたが、その実はガームド局長のわがままや思い付きを実現するための組織で、華やかというよりは泥臭い仕事が多い。日本に来ているメンバーも例にもれず、ガームドチルドレンが中核となって動いていた。
そんなガームドチルドレンたちを引き連れて、ガームド局長は22階層にあるジェシーの安全地帯に来ていた。何をしに来ているかというと、ジェシーの安全地帯のスキルの解析だ。魔装開発局の開発方針には、有用なスキルの汎用化として魔道具の開発がある。ジェシーの安全地帯の原理が判明し、それを魔道具化できるのであれば、世界各国で独自にダンジョン内に安全地帯が出来るのだ。
二人の研究員が、安全地帯を覆う膜のような物を観察している。ジェシーのテリトリーが形作ったドーム状の何かだ。
「これって何なんでしょうね」
研究員がカメラを取り出してソレを撮影する。
「うーん」
「まずは魔力計で測ってみるか」
魔力計はその名の通り、空気中の魔力の多さを測るための器具だ。この計測器も魔装開発局が作り出したものだ。それで、ドームの内側と外側を測ってみると、中の方が魔力が低いことが分かる。
そこにガームド局長がやってくる。
「安全地帯内は魔力が極端に低いのか。仮説だと、中に高濃度の魔力があり、反撃もしくは魔力の障壁のようなものを構成するのかと思っていたが、逆なんだね」
ガームド局長は、ぶつぶつと何かをつぶやきながらドームを出たり入ったりする。
「局長、この膜自体には魔力があるようです。ただ…」
「どうした?」
別の計測器の結果をガームド局長に見せる。先ほどの手持ちの計測器ではなく、設置型の大き目の計測器を用いており、先端のプローブの中に潜り込ませている。
「この膜の部分は非常に安定していますね。まるで、ダンジョンの壁や地面みたいな魔力変動です」
そこまで聞いてガームド局長は何度か頷く。
「その仮説なら当てはまる。この安全地帯が、魔力的な空白地帯、つまり、ダンジョンの外のような環境で、その間にダンジョンの壁がある。そうすると、モンスターはそこをダンジョンの外だと思い込む。んー、いや、視認できているんだから、ダンジョンの壁とは違うと判断がつくだろうに、不思議だ」
そんな風に仮説建てしては反証を繰り返す。
「モンスターが希薄な魔力では生存しづらいというのは知られているが、入れないほどの影響はない。さもなければ、スタンピードは起こらなかった。そうではなく、その他の何かが入れないようにしている…。。モンスターの視覚については判明していないから、これが壁に見えるのかもしれないが…。んー、モンスター生態についての研究はあまり進んでいないのが悔やまれる」
そんな自問自答をしていると、ジェシーの宿の中から研究員の声がかかる。
「エバーヴェイル関連の情報共有をしたいと南さんから連絡です」
魔装開発局とエバーヴェイルは共同研究関係にあるため、ホットラインも完成している。ちなみに、ダンジョンガイダンスと既存の通信網との接続についても調整が進んでおり技術的には出来るようになっている。ダンジョンガイダンス側のインターフェースも完成している。あとは通話料の問題だが、ギルドとその国との交渉により補助金が出ることにより、通常の電話網に比べて少し高いくらいに抑えることができそうだ。
そんな試行中のダンジョン通話網を使っての通信となる。
「ガームドです。やぁ、ええ。え? 転移? ジェシーさんの娘。おー、おー、予想の上をきますね。ダンジョン内ではなく、ダンジョン間までも飛べるんですか。それは、すごい。なるほど、そのあたりは今後検証するわけですね」
研究員達も顔を見合わせる。
「もう知られているなら、探索者救助の立役者として早々に公表しましょう。表彰がいいかもしれませんね。
ただし、同一のダンジョン内に限り転移できること、そして単独での転移としますか。さらにギルド専属で活躍しているということで、ギルド側を相談窓口としますか。いえ、いいですよ。転移に関しては、近いうちに試作機もできそうですからね。一緒に進捗を発表すれば、さほどの騒ぎにはならないでしょう。え? もう騒ぎ立てるようなマスコミはいませんよ。全部仲良くしていますよ? あー、ネットね? そこも大丈夫ですよ。
あ、ギルド内には周知が必要ですね。そちらは、連絡しておきましょう」
ガームドは南との通信の後、目をギラギラさせる。小声で独り言を言う。手元の端末に何かを打ち込む。
「安全地帯の構築に、転移スキル。ダンジョンの根幹に作用するスキルが増えてきましたね。 エバーヴェイルのメンバーで、ダンジョンの強度曲線を大きく上回りそうですね」
ガームドの手元の端末に映るグラフは、ダンジョンの強度、ダンジョンを攻略するのに必要な戦力などを数値化したものだ。その線は緩やかに上がっている。そこに重なる線が、現在の人類の持つ予測戦力だ。ダンジョンガイダンスの機能拡張、安全地帯の設置、そこに、アリスの転移を加味すると、大きく人類の戦力が上向きになっている。この四半期の傾きで、10年分は進んだんじゃないかと思われる。
「これなら、人類の生存が脅かされる危険度が30%まで下がりますね。しかし、地域格差がひどい。やはり、力の平準化が必要です。もっと、魔道具の普及によって探索者の能力の底上げを図らないといけません。あー、楽しい…」
そのまま、ぶつぶつとつぶやくガームド局長。
「局長?」
研究員がじっと動かなくなったガームド局長に声をかける。
「すまない。考え事をしていた。まずは、こちらの調査を進めようか」
その日、得られたデータをまとめていったガームド局長たちは、何個かの仮説を立てる。その仮説に基づく試験を考えるが、試験を行うための技術が不足しているという結論にいたる。その結果、ひよりへの相談を持ち込むことになった。
ガームドからの認識だと、ひよりはオーブマシナリと協力しながらダンジョンガイダンスの2頭身の映像を重ね合わせることと魔法の行使の開発を行っている。それと同時に、転移に関する技術の調査として名古屋ダンジョンから出土したアイテムの解析を行っているという離れ業をしている。本当ならば2人いないと出来ないレベルの忙しさなのだが、ガームドからするとハヤト先生だからという信頼感から疑ってはいない。しかし、本当のところは、ひより2人体制で研究開発を進めているのだった。
今は、笹木がアリスを始めているので、ひよりは1人となっているが。
そして、安全地帯の再現実験の成果だが、ガームド局長がひよりと共にその3週間後に成功させたのだった。それはジェシーの安全地帯に比べて効果は低いが、弱いモンスターに向けて効果が見られるようになった。何かまだ見落としている要素があるのだろうということで、継続研究となったが、これでまたダンジョン攻略に対する必須技術が1つ出来たのだった。
突出した力を、技術として再現する。
そんな一幕でした。




