第8話 アリスとピンヒール
祝100話!
2025年9月7日から開始したこの物語も、いよいよ100話まで達しました。
ここまでこれたのも皆様のおかげです。ありがとうございます。
アリスのラビリンス・ドリフトでは、43階層で救助した者達を連れ帰ることができなかった。そのため、フレイヤとマナと救助を求めた男性の3人には29階層に待機してもらい、43階層からアリス、メル、ジェシーの3人で要救助者たちを連れ帰ることとなった。
43階層で助けた探索者はDとEランク探索者で20階層までを活動していた大阪のパーティだった。転移の罠は滅多に現れないものだが、生還していないから知られていないという可能性もある。
大阪のパーティの紅一点の女性が、さっきから喋り続けている。
「体ボロボロやったのに助かったわ。ジェシーさんの作った部屋のシャワーもほんま気持ちよかったし。それよりなにより、ダンジョンを階層飛び越してくるとか、ヒーローやん。女の子やし、ヒロインやんな。ごめんごめん。ほんま、べーやんが助け求めた人たち、めっちゃすごすぎやわ。べーやんにお礼言わんと」
ベーやんというのは、助けを求めた男性のことだ。
「珠枝。ちょっと静かにせぇ。まだ、ダンジョン深いんやからな」
兄に嗜められて、おどけた表情の珠枝。
「すんません。さっきまで泣いとったから、その反動なんです」
兄が黙々と先頭を行きながら露払いをしているジェシーに謝る。ジェシーが先頭、メルが真ん中、アリスが最後尾だ。
「兄ちゃん、恥ずかしいやん」
「じゃあ、静かにしよか。さっきジェシーさん殴りはったモンスター。Aランク推奨やぞ」
アリスがちょこちょこ魔石を拾いながら警戒をしている。
「やっぱり俺が殿に行った方がええんちゃいますか?」
ウェイトレスっぽい衣装で武器を持たないアリスは不安に見えるのだろう。前衛で盾持ちの男性が申し出る。
「えーと、大丈夫。ちょっと腕試ししてみるね。パパ、そこのブラッドパイソンもらうね」
アリスは木の上から鎌首をもたげていたヘビ型モンスターのところに一瞬で移動すると、ピンヒールで頭を踏みつけた。木の幹に縫い止められるように蛇の頭がピンヒールに刺さっている。
「おー、こんな感じになるのね。ね? 大丈夫でしょ?」
単なる強さのデモンストレーションだけではなく、アリスという新たなアバターの能力を自分で確かめている俺1号だ。
木に縫い止めたヘビが消滅して、ポトリと魔石が地面に落ちる。木の上で、片足をバレリーナのように幹に食い込ませてるアリス。
しかし、そこにジェシーが物申す。
「大丈夫じゃない。下着が見えてるぞ。降りてきなさい」
スカートにハイヒールという姿で脚を振り上げているわけなので、スカートがずり上がってしまっている。すぐにはヒールが抜けないようで、ますます下着が露出してくる。
「兄ちゃん、目つぶり!」
言われて目を閉じる男性陣。
「みてない。なーんも見てない」
「そんなわけあるか! 鼻の下伸びとったで!」
そんな兄弟のやりとりを聞きながら、一向は着実に上の階層に登っていった。
途中の33階層にある洞窟エリアに差し掛かる。フレイヤが一足飛びで通過できないとダンジョンガイダンスが言っていたエリアだ。
「もう、外は深夜だな。よし、ここで休むとしよう」
洞窟といっても野球のドームくらいあるエリアでジェシーが休憩小屋を2棟建てる。
「こっちが男性、こっちが女性用だ。食事は持ってきたものがあるから、そこから食べてくれ」
純粋な女性が探索者の女性1人だけなのだが、そこはもちろん触れない。ジェシーは各棟に食べ物を配布する。
そして、夜を明かし、翌日の昼前には29階層にたどり着いたのだった。29層に着くと、再会したパーティは互いの無事を見て安堵した。フレイヤとマナは手持ち無沙汰だったようで、一緒にサンドドラゴンを狩っていたらしい。
その後、礼金を差し出そうとする彼らに対して、ギルドを通じて判断してもらうことにした。ジェシー達は、逆に転移の罠の場所について案内してもらうことを依頼した。
「面白いものが手に入ったら、ひよりが解析してくれるだろうからな」
というのが、ジェシーの言い分だった。そういうわけで、昼ごはんを食べた後は、罠があったという15階層に向けて皆で移動を始めた。
結果的には、何の痕跡もなかった。ジェシーのテリトリーでも、アリスのラビリンス・ドリフトの感知能力を以てしても何も得られなかった。しかし、アリスの階層の感知でいうと、罠が発動したところに43階層の空間は割と近いところにあるということが分かった。 ダンジョンが階層といわれているせいで、塔のようなイメージだが、もう少し入り組んだ形をしているらしい。そこが分かっただけでも、収穫だったのかもしれない。
その後、大阪パーティのメンバーとは結局ダンジョンの外まで付き合うことになった。一晩、同じ部屋で寝泊まりしたせいか、男性陣がジェシーになついている。
「兄貴の身のこなし、神懸かってます。ほんまリスペクト、尊敬、言葉にならんレベルで、尊敬します」
「俺も料理を始めたいと思います。きっとなんかヒントがあるんですよね!?」
そんな事を言う男性陣を、笑いながら見送るジェシー。
「ほんま、おおきに。兄ちゃん、アリスちゃんのお父さんにべったりで気色悪いけど、嫌わんといてね。あと、ダンジョン内を移動できる話は、誰にも言わんから安心して」
そんなことを言う探索者の妹。そして、解散した。
そして、その後は梅田ギルドの会議室を借りて、南とアリスの対面となった。ダンジョン内からダンジョンガイダンスを通じて南に連絡しているので、びっくりすることは無かった。しかし、アリスのダンジョン間、ダンジョン内を自由に転移できる力については頭を抱えていた。
「エバーヴェイルと言うか、ジェシーさん親子と言うか。常識をどこかに置き忘れてますよね。この情報が変に漏れたら大騒ぎになるので、きちんと発表した方がいいかもしれません。ちなみに、完全に自由に転移できるんですか?」
「えーと、多分、相性があって連れていける人が決まってるかな? んー、後は、どこでもというか、感知できるダンジョンだったらいう条件はあるかも。そして、MPは結構消費するかな。今のところはそれくらい。最近、このスキルに目覚めたから検証が必要なんですよ」
アリスの発言をメモした南さんは、ため息をつく。
「アリスさんが連れていける人物の検証と、飛べる範囲の検証ですか。MPを消費するということなので、MPが限度を決めているのかもしれませんね。でも、その検証って危なくないですか?」
アリスが腕を組む。
「大丈夫だと思うけど、パパと一緒に検証するから」
「え? あぁ、そうだな。どうせなら安全地帯を作るのを一緒にやれば良いんじゃないか? 検証もついでにできるぞ」
ジェシーの提案に南さんも一考の余地ありと考え込む。
結論として、安全に検証するように段階的な検証を考えることと、笹木に承認を受けることなどを決めた。まぁ、笹木に囲まれているわけなのだが、南の知るところではない。
そして、アリスの転移スキルの話は、ガームド局長と相談して、どう発表するか相談することになった。
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