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光の彼方の音  作者: magnolia
1章 -異質な世界-
8/30

8 目覚めと未知との遭遇



ゆるやかに上下する、何やら暖かいもの。それが頭近くにあった。

自分より体温が高い。

それにさっきからふんふんと鼻息が聞こえる。


(なんで、鼻息…私、ペットは飼ってないよ…)


そんなことをうだうだ考えていた。が瞬間、董子とうこはざぁっと血の気が引いて飛び起きようとした。しかし、身体がやたら重く腹筋のみでは起き上がれず、気持ちとは裏腹にかなり緩慢に上体を起こした。


そこで改めて自分の身体近くにある生き物をおそるおそる振り返り。


「…か、カンガルー??」


口からでたのはこの一言だった。


襲い掛かってくる様子もない。それでもゆっくりと身体を離し、凝視する。


こちらに頭を近づけつぶらな黒い瞳を向け、睫毛に縁取られた(まぶた)をぱちぱちさせた生き物。頭には二つ、三角形の耳がぴょこっとついている。胸元で短い足、いや手だろうか。それでふわふわ生えた胸毛をこしこしと触っている。しかしカンガルーと違って尻尾は長くない。むしろ兎のようにちんまりしたものがお尻についている。大きすぎる図体 ――軽く競馬場で見たサラブレッドくらいある―― ことを除けば、なかなか愛着の沸く姿。




当面の危険(捕食されるという可能性)もなさそうだと判断し、若干覚悟しながら辺りを見渡す。




そこには。


白い樹。薄紫の葉の潅木。セルリアンブルーの苔の風景がやはり広がっていた。


「あぁ、やっぱり夢オチは期待できなかったか…」


脳内では思う存分、現実逃避をしていた。目が覚めたら、ヤマを張り重点的に勉強した箇所が出るように祈りながら憲法論の勉強の続きをして。学校に行く。それに学食で来週からフェアをしている筈のメニューを友達と食べよう。そんな事を。



でも、自分は夢の中で2日、いや3日か。すごした挙句、更には夢を見れるほど器用ではない。

それに手をついた場所に触れる苔のしっとりとした感触。緑の匂い。

周囲に広がる雑多な生き物の気配。

かたわらのカンガルーもどき。リアリティがありすぎる。



もうがっくり手をついて落ち込みたかったが、改めてこの場所で自分に降りかかったことを思い出す。



(なんで、私無事なわけ…?)



疑問符が頭の中で踊る。はっとして立ち上がり、自分の身体をばたばたと手で触り、目でも確認する。今着ているものは麻のようにざっくりとした手触りの、少々大きすぎる服。形は病院の手術着に近い。長袖で、前で合わせて腰辺りにある紐で結び止めてある。ただ身頃も大きいが、丈も長い。膝下まである。



無論、それは着ていたカットソー、パーカー、ゆるっとしたズボンではない。

更に問題があった。



(ショ、ショーツ穿いてない…。)



その事実に慄く。

裾を握り締め、思い出したくないがそうも言っていられないと懸命に思い出そうとする。



(ぎりぎりの所だった…のは確か。っでも、あの男達は?ここ森の中とは思うけど。場所が違うよね??最後までされちゃったって事はない。痛くもないし、違和感もないし。でもでも、何でいなくなってんの?)



本人には、自覚がない。明らかな記憶の欠損にも不自然さを感じてはいない。


その欠けた記憶。



 

 男達を


 

 自分が


 

 ―――した事実。




その一部始終を眼にしたのに、それは彼女の頭から消えていた。 



(それに服着ているのは何で?連れ去ってきて更に楽しもうとか!?だったら、逃げなきゃ!ってどうやってさぁぁ!!ここがどこだかやっぱり分からないのに!)



唸る程うんうん考えていたら、さっきのカンガルーもどきが近くにいた。思わず飛びずさりそうになったが、そいつは「キュウ」と随分可愛らしい鳴き声を上げ、首を下ろし、自分の頬に顔を擦り付けてきた。



「お、おぉ。よしよし…?」



人に慣れた風情のカンガルーもどきの首元をさすってみる。

思ったよりも柔らかい毛。

気持ちいいのか瞼を伏せ手に擦り寄ってくる。


この森に来てから初めて自分に害意の無い態度で近くに寄ってくれる。

暖かい体温を感じながら知らず涙が零れた。

その存在が嬉しくて。



もう一度、その子の身体を見るとお腹辺りに腹帯のようなものが付いていた。両側には(あぶみ)だろう。帯からは頑丈そうな紐、手綱かもしれない。そんなものも付いている。



(この子、乗り物になれる動物なんだ…。あの男達が置いていったのかな。いや、でも、逃げ出すかも知れない私の傍には置いていかないだろうよ?)



それに。

自分が寝ていた場所。

そこには大きなコートと。

身体を起こした時滑り落ちた、湿らせた布。


散々に殴られた記憶はある。顔はひどいことになっているかとも思ったのに、その痛みもない。口周りをそろっと舐めても沁みることもない。


今の状況が釈然としないまま、カンガルーもどきちゃんと戯れていたら。

後ろからざっと潅木かんぼくの枝を掻き分ける音がした。




起きたくなかった彼女も、さすがに起きましょう。

あーさーでーすーよー!な勢いで。

寝られてちゃ話が進まないでないか!(ヒドイ作者)

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