5 調律者
前半、この世界における能力者の解説チックです…。後半は場面動きますから!
調律者とは、コア大陸における、ある能力を宿す者を指す。
その能力は天賦のもの。
古い伝承では、既に無きコア大陸全土の統一国家ディル・ヴァラナシアの神祖も調律者であったとされている。その古の国家の首都周辺の場所が、現在のシーギ・ルドナ国にあたる。
そのためなのか他国に比べ、ここ、シーギ・ルドナ国での調律者の出生率は高い。
だが、理論だてて証明されたものでもなく、根拠の伝承も真偽は定かでない。
たとえ親が調律者であっても子は調律者でない場合が殆どなのだ。
偶発的にそれでいて決して潰えることなく、人の中から生まれる調律者という存在。
にも関わらず何故、その力を持って産まれて来るかの真相は分からぬまま今に至っている。
時代は遠きに過ぎ去り、真のことを知り得たであろう者達も永遠の眠りにつき土に還って久しい。残された書物も、多くは語らず。
史実に近いことを知る者がいるとするならば月守の塔に住まう『智の人』くらいか。
そもそも調律者は世界の森羅万象をその力、『音』を使い、導くことができる者。
力を持ちて、世界を感じ、悟り、受け入れ、よりよき方向へ導く者。
過去を垣間見、未来を感じ、遠き風景や音を聞き伝える。火や風、水や土、雷など自然にある力を己が声をもって希い、行使する者だ。
力を発現した者は、その時をもってしてシーギ・ルドナ国内にある音律堂・ジ
ャイダキアに入ることが各国においても義務づけられている。
確認は音律堂の者、つまり調律者が立会い、ある器具を用いれば容易いこと。
また調律者として能力の高い者ならば、相手の力を悟ることも可能だ。
音律堂は全ての調律者を受け入れ、その身柄を預かり教え導き、護るものとされる。
なぜならば、音律堂に蓄積され研究されてきた印や儀式による制御や増幅の術がなければ、大半の場合、微弱な力を上手く使用できないか、多大すぎる力を暴走させてしまう危険を伴うためだ。過去、時代の変遷の中では、その能力を暴走させたことで迫害され、もしくは虐殺の対象となったこともある。調律者は、『特別な者』ともいえるが、『異端である者』とも言えるからだ。
常に少数派であった調律者は、己の生きる場所を、己が身を、自らの手で護る必要があった。
さらに言えば、この力は多聞に漏れず、権力に利用されやすい。
ゆえに調律者を育成しつつも、その能力を国家間の争いに不当に利用されないため、また虐げられる可能性を孕んだ調律者の集合体を自衛するため、創り上げた組織から発展したのが音律堂。音律堂とその近隣の地域代表による評議会を基にできたのがシーギ・ルドナ国である。
よって国という体裁を採ってはいるがシーギ・ルドナはすすんで対外干渉を行うことを自ら禁じている。それでいながら自国、他国問わず、災害時等での支援は率先して行う。また逆に自国への武力介入や干渉には己が力をもって抗うことを是としている。調律者はここで自衛手段を得、自身の力が制御できるようになれば、他国へ赴くことももちろん、大陸各地に身を置き、力を行使し世界の調和を目指す。
閉じられた国。それでいて世界全てを感じ導く者が住まう場所。
他国とは一線を隔した存在。
それがシーギ・ルドナだ。
***
本来ならば寒冷な気候に属する土地柄のシーギ・ルドナ。
それを調律者である力を利用し寒さを緩め、さらには害ある者の侵入を探知し拒絶している。
自己の護りのために。
しかしその護りも近年においては効果がなぜか衰えつつある。
(その結果が、先ほどの集落な訳だが…。これ以上被害を広げられてはたまらない)
すでにハクの森が見えている。
3人組の男はおそらくいずこかの国家から金で雇われた傭兵だろう。
不安定な時代には『調律者』の略取・誘拐は多い。
その特殊能力からの悪用を考えて。
基本、調律者は政治の中枢に携わることを禁じられている。
それは暗黙の了解で今も国家間に残るもの。
しかしこの乱世では、その約すらなかったことにして裏の者を使い、実力行使に出る国も存在する。
無論、その誘拐の大半は竜騎兵らによって未然に防がれているが。それでも事態に間に合わず、罪なき集落が襲われる事も有り得るようになってきてしまった。
(しかし、シーギ・ルドナ内でもこんな北を狙い進入するとはな。目当てはおそらく幻の一族、クス=ワリ一族だろう…)
どうやって嗅ぎ付けたのかは知らんが、情報の出所も含め吐かせるべきだ。
まぁ、駒でしかないあの男達が委細を知っているとは思わないが。
あらためてラルパに足を入れ、速度を上げようとした時、アルヴィンに強烈な『音』が襲った。強力すぎるそれ。並大抵ではない力を持つ者が近くにいる証。
(先ほどの男達と鉢合わせたのか?!調律者が!)
痛烈な舌打ちを洩らしそうになりながら、急ぎハクの森へ駆け込む。
ラルパを操りながらでも力を使った者の場所はすぐ分かった。
制限されている今の自分の状態でも感じ取れる程『音』を使った気配が濃いからだ。
それを辿る。
しかし近づけば近づくほど漂う異様な臭気に顔を顰める。
そのたどり着いた場所。
思わず手で鼻を覆う。
力が振るわれたその場所に溢れているのは夥しい量の血。
そこから撒き散らされるのは鉄錆にも似た血の臭いだった。
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