4 彼と過去
北にラルパを急がせながら、先ほどの男、アルヴィンは思考を廻らせていた。
大小多様な国家がありつつも、均衡を保ちながらあり続けた――此処、コア大陸。
しかしながら今は動乱と天変地異の只中にあるといっていい。
穀倉地帯でもあるリューノース大平原の旱魃による大陸全土に及ぶ食料不足。
氷花の海で広がる凍結現象。
もともと内紛の絶えなかった西キールと東キールの紛争の激化と拡大。
大国モーシャリスでも大規模な地震が先だってあったばかりだ。
また南方でも海洋国家ルバドスが睨みを利かせているが、新興国家のリスワルド皇国の暴虐の限りを尽くしての侵略行為は、遠く離れた北方の自国シーギ・ルドナの街々で人の口に上るほどだ。
さらには暗殺や謀略に明け暮れる上流階級と飢餓と貧困からの暴徒の発生。頻発する犯罪。
あげればきりがない。
(シーギ・ルドナとて人事ではない…か。)
そう思いつつ、自分の手首にある銀の腕輪を見て皮肉気に嗤う。
(まぁ、だからこそ事態の打破に、俺のような輩も探索に当てるのだろうがな…。神官長も評議長も、そんな一族があることすら隠しておきながら、今更縋ろうなど…)
アルヴィンはいわゆる調律者だ。
だが手首にかかるそれは、その力への枷としてのもの。
印を結んで行えば力の行使はできるが、かなり制限されたものになる。
それは過去の罪への贖いとして彼の手首で今も鈍い輝きを放っていた。
罪は未来永劫消えることはない。
過去が変えられることもない。
そう訴えるかのように。
(忘れられるものか…レティア…)
一瞬、脳裏に浮かんだ姿。それは彼女に似合う零れるような笑顔ではなく―――。
しらず、アルヴィンは己が手を爪が食い込むほど握り締めていた。
彼とこの世界の情勢をちらりとお目見えさせて頂きました。
しかし、彼と彼女はいつ頃出会えるかな…(ォイ
登場人物の少ない小説で申し訳ないです…