3 断章
今回は短めです
略奪され、燃え落ちた集落の前で佇む影があった。
その隣にはラルパと呼ばれる騎乗用の生き物が手綱を握られてふんふんと鼻面をひくつかせている。
影自体は人。
年の頃は20代後半から、30代の半ばあたりと思わせる男だった。
痩せている訳ではないが、上背があるためひょろりとした印象を受ける。
ただ身体つきを見るときちんと厚みがあり手足は長く、それでいて引き絞られたものだ。
腰の両側にあるのは双剣。
しかし武を使う者にしては荒んだ印象はなく、どこか人生に諦観したような雰囲気を漂わせている。目元を隠すほどにまで伸びた濃紺の前髪が表情に影を作り、面差しをはっきりとさせない。
「…護りに綻びが生じ出しているのは事実のようだな」
男はひとりごち、鬱陶しげに髪をかき上げ、手をあわせる。
前髪から覗く瞳が、髪と同じ濃紺から銀色の光を宿すものへと変化する。
口から紡がれるのは空気を揺らし、世界を動かす『音』だ。
「世界を成さしめる全ての音よ。その力もちて、過ぎ去りし時を顕現せしめんことをここに願う」
そう言ったあと、男の脳裏には断続的な画が浮かぶ。
それは、風景を俯瞰したようなもの。
過去の残滓。
或いはその欠片だ。
―集落に近寄る、3人の男。
―荒んだ印象の服装。傭兵崩れ
―略奪・暴行・殺人・放火
―火を放ったのは深更
―その足で、ラルパに乗り、立ち去る姿。北へ向かう残像
ふっと意識が現実に戻る。
合わせた手を解き、軽く頭を振る。
「北のハクの森に向かった、か。おそらくは調律者目当てだろうが…。」
眉を顰め、ラルパに跨る。
そしてその人物は、後を追うかのように北へ向かった。
***
存在すら忘れられた書物に綴られた、ある話があった。
もう、その物語を知る者もほぼなく、その書物自体も遠き過去。
誰も知らない事ならば、無かったもの。それでいて在ったはずのもの。
世界に闇犇き、混沌の帳降りしその時代。
小さき者、人と呼ばれし者。
迫り来る恐怖に身を投げ打ち、あまねく天地に祈りを捧げん。
祈り虚しく、大地割れ、風は逆巻き、母なる海はその姿を消したもう。
闇はより深く世界を砕きゆき、煉獄は広がるばかり。
小さき者が挑めどもその末にあるは、物言わぬ数多の亡骸。
なれど現われし光明あり。
捧げし祈りに導かれる者。
光より現れし者、金の瞳を宿す者。
大いなる力を秘めし者なり。
森羅万象の『音』を統べ、闇に挑み、そを打ち破らん。
その者、『音』をしてそを封印す。
これにより人々、その者を『音を統べる者』と言い交わさん。
再び世界に影が落ちる時
その者、世界に光を取り戻さん…
やっと、主人公以外の主要人物が出せました…。
でも名前も出てないですねorz
次回には彼のお名前も出せます!