28 二度目の発現
お待たせしました!
アルヴィンの視点でお送りします。
夜の空気が朝日とともに拭われようとする頃、アルヴィンの瞼がふっ、と開いた。
自分の腕にある少女を見る。
目を覚ました様子はない。
が、昨夜のように魘されていることもなく、それに胸を撫で下ろす。
固くなった自分の身体を動かそうとして、服を掴んでいた彼女の手が離れていることに気がついた。
ゆっくりと、毛布ごと横たえてやる。
(よく眠っているが……しばらく様子を見たほうがよさそうだ。)
身体を伸ばせば、辺り一面、視界がきかなくなるほどに靄が覆っているのを知る。
湿り気を帯びた空気が、この場所をより一層静謐なものにしていた。
刹那、何かが脳裏を掠めたが、それは捉える前に思考の中で霧散した。
訝しく思ったものの、喉の渇きが耐えがたかったので湯冷ましを飲もうと、トウコの側を離れたそのときだった。
ゆらり、と空気が撓む。
干渉してくるのは、『音』。
(――誰だ?)
周囲に人の気配は感じられない。
指向性のわからない力に途惑いながらも、剣に手を添え身構える。
その異変は、すぐそばにあった。
淡き燐光を放ちながら佇む姿。
寝かせていたはずのトウコが、上体を起こしている。
だがそれは自力で起きているようには見えず、何かに上から吊り上げられているかのように見えた。
異様な光景に息を呑む。
そして、閉じられていたトウコの瞼がゆっくりと開く。
黄金の光をこぼす瞳は、何も捉えてはおらず、虚空を仰いだままだ。
「―――トウ、コ」
喉が張り付いてしまったかのように、掠れた声が漏れる。
自失しそうになった時、言葉は降ってきた。
(遠話か!?)
驚きとともに途惑う。
人の気配は今も感じられない。
くわえて今の自分の力では、遠話は行えない。
(――トウコを介して行っているのか…?)
警戒した態勢のまま、なす術もなく、それに聞き入る。
性別も、年齢も定かではない。幾多の者が同じ台詞を同時に吐いているように聞こえた。
『――招かれざる者。』
『ここは侵さざるべき場所。それが律。長きに亘り、それが理。』
『理に干渉する者は、須らく排除の対象。』
『―――だが理を破りし者。そは待ち望みし者。』
『同にして異。大いなる力。』
『来たり。来たり。待ち厭む者よ。』
トウコの右手がふ、と前方を指し示す。
音が反響する。まるで洞窟の中に滴る水滴のように、静かに、断続的に。
それと合図に、引き潮のように靄は去り、先が見えた。
獣道のようなものが、露わになった木立を縫って奥に続いている。
『いま、扉は開かれた。』
『抑えられし力持つ者。彼の者と共に来よ。』
「まてっ―――!」
一方的なやり取りは、初めと同じく唐突に止んだ。
アルヴィンが、自分が柄を握った手が強張っていることを自覚したのは、いくらか時を置いてからだった。ようよう、意識を向けて全身から力を抜く。
そして、トウコを見るが。
彼女は今あったことが夢幻だったかのように、横たわり、静かな寝顔を晒していた。
短くてすみません;
区切りがいいので、ここで一話としましたっ!!
次話もなるべく早くUPしますね。
読んでいただいて、ありがとうございます。