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光の彼方の音  作者: magnolia
2章 -邂逅-
24/30

24 割り振られた責務

「あ、ここかな?」


目に入ったのは、周囲の家とは距離をおいて佇む家だった。

木立が近くにあり、壁に陰影をつけている。



「うん。ここが村長むらおささまのおうち。」



うぅむ、アルに話すネタも手に入ったしと、村長さん宅まで来てしまった。

今更だが、話が終わるまでどこかで待っておくほうが無難だったか。

しかしそれも時間の無駄な気がしないでもない。




幾分ためらったがかまちを上がり、ドアのノッカーをコンコンと鳴らしてみる。

待つこと暫し。



「…ぃはいはいはい、ちょっと待ってねぇ」



声が足音とともに近づいてくる。

そしてドアから覗いたのは和やかな顔つきの老婦人だった。



「お待たせ、…あら、どなた?」



「突然、すみません。こちらに調律者の方がいらっしゃいませんでしたか?」



「ああ、はぃはい。まぁま、あなたがカーン様のお連れさんね! お迎えに来たの?でもごめんなさいねぇ。カーン様ならうちの旦那に連れて行かれちゃったわ。多分、守護石しゅごせきのところよ。」



「しゅ、しゅごせき?ですか?」



聞き慣れない単語にどもりながら返せば、困ったような笑顔があった。



「ええと、そうね。村の入り口にあるんだけど…あら!ミリアも一緒なのね。ならミリアが知ってるわ。案内してあげて?」



いつの間にか自分の後ろにいたミリアにそうなの?と聞けば首肯があった。



「じゃ、ちょっとそちらに行ってみます。」




会釈をして、背を向ける。

徒労になったのは残念だった。

ま、自分達も村をうろちょろしているから文句は言えないか。



(しっかし、守護石しゅごせきときたよ。――結界みたいなもんかしら。いやそんな仰々しいものでなくておまじないの一種かもしれないけど…)



なんとなく脳裏には、台座に乗った水晶玉が浮かんでいた。

貧相な想像力に我ながらがっかりだ。

ミリアに聞いてもよかったが、見れば分かるものをわざわざ聞くこともないかと思い、やめておいた。




 

 

 ***







そこはすぐ分かった。

できた人だかりを、身長を活かして、ひょいと覗けばアルの姿がある。

何か儀式の最中…というわけではないようなので遠慮せず、声を出せばすぐ気付いてもらえた。



「トウコ? どうした。」



「ちょっとお話を聞けたんです。アルヴィンさんにも伝えようと思って。」



「そうか――俺はさして収穫はなくてな。すぐに済んだんだ。それに少し頼まれ事をした。トウコは戻っていていいぞ。」



「あぁ、や、よかったら見ていてもいいですか?調律者のお仕事がどんなのか見たいので。」



「―そうか?」




二人でこくこく首を振る。私の後ろに隠れながらではあるが、ミリアも目が輝いてる。

調律者の人が来るの珍しいって言ってたし、今からアルヴィンさんがすることも、村の人達からすると久方ぶりか、ミリアのように小さい子は見たこともないのかもしれない。



「―――わかった。ただ、ミリアは離れておいてくれるか?…そうだな、あの辺りまで。」



そう指差した場所は、かなり遠い。小さいミリアではこちらの様子はほとんど見えないだろう。

ミリア本人も自分だけ遠ざけられたことに、今にも泣きそうだ。



「ど、どうしてぇ?」



「っすまない。守護石の調律をするとき、小さい子は音に酔ってしまうことがあるから。」



「?? すごい大きな音が出るとか?」



「いや、そういうことじゃないんだが…ま、聞けば分かる。」




ちらりと寄せられた視線から、ミリアの説得をバトンタッチされてしまった。

やーれやれ。

俯いてしまった顔をのぞきこむ。




「ミリア、残念だけど具合悪くしたら大変だから、あっちで待ってて?私が近くで見て、後でどんな感じか絶対教えるから。」



「…………」



「駄目かな…?きっとセルマさんもトゥイミも心配しちゃう。私もミリアが具合悪くしたら辛いよ。」



「……わかった…おねえちゃん、ぜったいね?」



「ん、約束する。」



とてとてとその場から去るミリアに軽く手をふり、アルに振り向く。





「んで、いかがでしたでしょうか?アルヴィン殿?」



「――助かった。泣かれるかと。」



「ははっ、ま、ミリアが聞き分けのよい子ですから。お役に立てて光栄です。」



「ああ。じゃあ、とりかかろう。トウコも自分の体調に異変があったら言ってくれ。大丈夫とは思うが。」



「はい。えーと、守護石の調律、でしたね。具体的にどんなことするんです?」



「そうだな…まず守護石がこれだ。大体、村や街、人の定住する場所に置かれる。」




アルが見せてくれた。

お地蔵様が安置されていそうな…ゴホン。そんな感じのほこらだ。

中はもちろんお地蔵様ではなく、守護石とやらが安置されている。それは乳白色でぼんやりと燐光をまとった1mくらいの大きさのものだ。確かに「ありがたや~」と拝みたくなるな、うん。




「綺麗ですねぇ。」



「これでも随分調律されていないからくすんでいるぞ。本来ならばもう少し澄んでいるはずだ。守護石は定期的に調律しないとならないから。」



そうなのか。



「ちなみに守護石って何のためにあるんですか?」



「人々から災厄や病魔を払うためだ。全て、ではないが。人が多く住む場は調律しないままだと、音は狂う。それによって災害や不具合が出てくる。これを調整するわけだな。」



「えっ、すごい!」



お呪いレベルではなかった。

うぅむ、効果が確実にある御守みたいなもんか。

しかも地域全体に及ぶとな。

効果は時間とともに薄れるものなのかもしれないが、再度調律すればいいようだし、充電池のように便利だわ。





「世界を成す音を調律し、導く者が調律者というのは話したな。世界の音は音素おんそと呼び、ブーミ・アーグ・カーシャ・ヴァーユ・ジャーラ。これを五大音素という。司るものはそれぞれ様々だが、これらが互いに波紋を及ぼし、その生滅盛衰によって天地万物を変化、循環させる。その均衡を保つのが、調律ということだ。」



祠に視線を向ける。



「守護石の場合は、災厄や病魔を払うという目的から、ブーミによる『安定』と、カーシャによる『空間』を特に引き出す――と、まぁそういったことだが…見た方が早いな。」




流れるような解説に目を回していれば、仕方ないなという顔をしたアルがいた。

お手数かけます。

さすがにベースも知らない神話みたいなのと、能力体系を理解しろっちゅーのはキツイ。

距離を取るように言われ、数歩下がってアルの背中を見守る。




アルは祠の正面で居住まいを正し、目を閉じて手を合わせた。

何かに祈りを捧げているようだなぁ。自分も手を合わせるべきだったか?




しかしそんな間もなく、すぐに低く、凛とした声が上がる。

抑揚をもって紡がれるそれは、異世界の住人の自分にすら、厳かな気持ちを抱かせた。




「――宇宙あまつちのものに充ち溢れしその響き。


 振り分けられし役に沿いて、カーン=アルヴィンが此処にねがう。


 全にして一、一にして全たる、大いなる五音いつおと


 カーシャブーミアーグヴァーユジャーラ


 そをぶ、そをう、そをうたう、そをく、そを呻吟さまよ


 ――調ととのえし者の声に応え、集い給う――」




あのときと同じだ。

空気が変わっていく。

濃密になるというのか、澄み渡るというのか。




「――空漠たる蒼穹に溢れしカーシャ。広漠たる大地おおつちに溢れしブーミ


 響け。響け。響け。響け。


 我はなんじの一部なり。


 鳴り渡りて円環つくれ。

 

 廻れ。廻れ。廻れ。廻れ。


 たいらけくやすらけく、天清浄てんしょうじょう地清浄ちしょうじょうと願い給う――」




鈴の音にも、鐘の音にも似たその音は、大気を統べ、支配域を違えながら、重なり合う。

自分の瞳には、その大気の色も変わって見える。




「――斯くの如く聞こしめせ。


 此の地に成りいでし、もの、こと、ひとが


 犯し給うた種種くさぐさ罪事つみごと穢れを、祓い給い清め給え。


 罪と云う罪はらじと、和し給い響き給え。


 以って、りて、要を結べ!」




最後の裂帛の一声と、ぱぁんと音高く叩かれた拍手に引き戻される。

身動みじろぎし視線を向ければ、光の粒子を纏って輝きを増した守護石があった。



「うわーぉ…!」



たまらず駆け寄る。



「アルヴィンさんっ」



「ああ、トウコ。どうだ…具合は?何か感じたか?」



儀式への余韻がまだ残っていて興奮しているのが自分でも分かる。その勢いのまま話す。



「全然へっちゃらですよぅ! ていうかすごいです!!」



地鎮祭とかなら見たことはあったが、効果を身近に感じたことなんかない。

ところがどっこい、今は目に見えて分かる。ただでさえ澄んでいた空気はまさに洗われたようになってるし、石は光ってるし!



「なんだろうな…アルヴィンさんの声と一緒に鈴…鐘かな?そんな音がたくさん聞こえました。色も違って見えたみたい。空気が光ってるものと透明な緑が溶け合うみたいに石に集まっていくのが分かりました!」




いやぁ瞳の色が変わっちゃって、調律者とか言われたときはどうしようかと思ったけど!

なかなかスゴイぞっ!

手足を振って、この興奮を表したいくらいだ。

ま、そのせいで「落ち着け」と頭を叩かれてしまいましたが。




「調律者は、同じく調律者の力を感じ取れるからな。初めは驚くだろうがじきに慣れてくる。」



「あれ、そしたら調律者の人以外には見えてないんですか、これ?」



そりゃ勿体無い。綺麗なのにな。

そうなると調律者以外の人に話していいもんなんだろか。心配になって尋ねる。



「――いや、守護石の光は分かる。音を聞き取る者も時にはあるが、稀だな。いいさ、危ないからと遠ざけてしまったし、話してやるといい。ミリアもトウコが調律者というのはなんとなく分かっているだろうから。」




これは見られてよかった。

正直、自分にアルと同じことしろって言われても困るが。

徐々に調律ってもんが何なのか分かってきた気がする。

百聞は一見に如かずって本当なのね。




村人のみんなも終わったことが分かったのか、集まってくる。

恐縮しつつも礼を受けるアルを見た後、そこを離れた。

今ここでおじいちゃん達から聞いた話は伝えられそうにないもんな。




ミリアに笑って、「後で詳しく話すね!」と伝えればとっても嬉しそうに笑ってくれた。

ふふ、トゥイミにも話してあげよう。

随分、調律者を尊敬していたから見られなかったことに地団駄踏みそうだけど。




お待たせしましたー。調律者の力の利用法(日常生活編)です。

主人公、興奮してますが自分も同じ力あるんですけどねぇ。

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