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光の彼方の音  作者: magnolia
2章 -邂逅-
23/30

23 昔語りの中の一族

視点はトウコに戻って、21の続きです~。

朝食をすませたら、暇になった。

しかし本日も大変素晴らしい食事だった…。

おとと、涎が。


ざっくりした味わいの焼き立てパン。セルマさんお手製、コケモモにも似た果物で作った蕩けるような甘さのジャムをたっぷり塗れば、極上の味わいだった。

お肉と野菜をくたくたになるまで煮込み一日置いた、旨みの濃いポトフのような煮物。

香草が入っているのか、食欲をそそる香りの熱々のスープ。

レバンの卵は、ふっわふわのスフレオムレツ(もどき)になって、登場したっけ。ケチャップはなかったけど、お塩だけで味付けをされた卵がこんなに美味しいとは…!!



(ふっ、美味しければあの外見も些事に過ぎないな。食い意地万歳!)



何につけ、日々の食事を美味しくいただけることは、よく分からない世界でも幸せなことだ。しみじみと思う。死に方を選べるなら飢え死にだけはしたくない自分だから余計に。



しかもセルマさんが今日はおやつに甘いものを作ってあげると言ってくれた。

どんなものかはできてからのお楽しみらしい。



しかしせっかく時間が空いたんだ。自分も情報収集すべく、村を見て回ることにした。トゥイミは手伝いがあるらしいので、ミリアを連れて、案内をお願いしながらのどかな村の中を歩く。手を繋いで歩くには身長差があるから、ミリアは自分の服の裾を遠慮がちにつまんで村のあちこちを案内してくれた。



やっぱり巨大葡萄棚に見える畑とか。

普通に畦に沿って植えられているけどありえないような色合いの作物とか。

水車で回る、粉引き小屋なんかも。


電化製品に囲まれて育った自分にとって、こういうものを身近で拝見することになるとはね。

仕組みに感心しつつ拝見した。



「気持ちいい天気だぁ。ここはいつもこんな感じなの?」


「うん、そう。時々ちょっと寒い日と暑い日が続くときもあるよ。」


「へえ。」



ミリアと他愛もない話をしながら、出会った村の人々に挨拶する。

恐ろしいことに、あのおばさま方への自己紹介で情報はすでに村の端々にまで行き届いていた。


 (…どんなネットワークさ…)


だがおかげで出会った人達ごとに自己紹介をしなくてよかったのは大変有難い。まあ“男に見える女”という点もきっちり伝わっていて、一様に皆に驚かれ、果てには女性の方には身体を触られましたよ…。いや、断りを入れて触ってこられたんで別にいいんですが。触ってもらっても分かって頂けなかったらどうしようかと。



良く言えば親身に、悪く言えば図々しいくらいに接してくるのに、私が誰なのか、どこから来たのかは訊ねてこない村の人達。

自分の境遇を伝え聞いてるからか。

あからさまな気遣いはないけれど暖かい。

それゆえか、触れてくるのもけして嫌ではなかった。


朴訥ぼくとつとしているけど、排他的な空気はない、どこか長閑のどかな人達だ。



 

村には宿はないということだったが、昼食時は畑から戻って食事をするための集会所があるらしい。仕事をしている人に質問するのもあれなので、そこに集まる頃合に話を振ってみよう。そう思い、ミリアに連れて行ってもらう。引っ込み思案と聞いていたので、嫌がるなら無理はさせまいと思ったが、大丈夫のようだ。


着いたそこは、屋根の下に机と椅子の代わりだろう切り株がいくつも置いてあった。


時間が早かったのか、誰もいない。

隅の切り株に二人そろって座る。


何か目新しい情報が手に入ればいいが。

村長のところにいったアルはどうだろう。

自分はついてこなくても大丈夫だからと置いていかれてしまったけど。


せっかくだし、ミリアに今日のおやつは何なのかヒントを貰うべく、こちらの世界のお菓子事情を聞きながら、過ごすことにした。

屋根で陽は遮ってあるが壁がない分、風通しがよく過ごしやすい。

まさに憩いの場所だな。







 ***






日が中天に差し掛かかる頃になると、一旦仕事を切り上げて、昼食をとりにこちらに向かってくる複数の人影が見えた。



「やーれやれ、くたびれたわ。」


「ふぃー…天気がいいのは作物には有難いが、わしらにはちとキツイの。」


「骨身に沁みるわぃ。」


「確かにな…。」


「若いもんは山でたんまり採れてるかのぉ?」


「ふんっ!こっちはわざわざ老骨に鞭打って頑張っとるんじゃ。あやつらもそれに報いてくれんと堪らんわい。」


「息子には穴場を教えといたが。」


「おっ、そうか!お前から聞いて山に入ったなら今回は期待大じゃな。ま、たいして採っておらんかったら、も一回山に放り込んでやるわい!」


「そりゃいいな。」


「おう、絶対じゃ!!」


そこでどっと笑い。

自分の世界だと皆、年金生活をしているお年頃に見えるんだが。なんというか、元気ハツラツゥ!なおじいちゃんズだ。顔が見えるくらいになって、初めてこちらに気付いたようだ。



「おや、先客がおるようじゃの。」


「…どれ、ヴィルトロんとこのミリアじゃの。隣ははて…?」


「おじいちゃんたち、こんにちは。」



はにかむように笑って、挨拶をしているミリア。

親しい人なのかな?

ま、この村だと全員顔見知りか。

私も挨拶しておくか。


「こんにちは、お仕事お疲れ様です。セルマさんのところで昨日からご厄介になっているトウコと言います。」


「おぉ、こりゃご丁寧に。」


「ああ! そういやうちのが話しとった。“男の子に見える女の子”つってな!」


「一言余計じゃ、おまえは。」


「そうか、そうか。旅の方だったか。」


めいめい集会所に入り、自分達の近くに腰掛ける。


「はい、アルヴィンさんと一緒に。」


「ほほ、わしはヘンリク。ヘンリクさんと呼んでくれ。」


恵比須えびす顔で、つるりとした頭のおじいちゃん。


「ユハじゃよ。すまんの失礼なこと言って。」


銀色に近いくらいの立派な白髭をたくわえたおじいちゃん。

言動は一番元気かも。


「若い娘相手に張り切っとるな…ペトリだ。よろしくの。」


最後のおじいさんは、先の二人に呆れた視線を向けての一言だ。

若かりし頃は美しい金色だったのかもしれない髪は今はまだらに白髪が混じっている。

多分、この人が三人の中では一番若い。



「どうだね、この村は?」


「とてもいい所です。セルマさんやトゥイミやミリアもとてもよくして下さって。」


「ね、ミリア。」と横にちょこんと座っているミリアと笑いあう。


「ほ! 珍しい。 ミリア、人見知りはなおったんか?」


「おねえちゃんは、へいきなの。」


「そうかそうか! 昔は家族以外が抱き上げたら村中に聞こえるくらい泣いとったのに。」


「も、もう泣かないよ!」


孫の年くらいのミリアの様子に、おじいさん達は笑い声を上げる。


「―――しっかし、なんだってこんなところに。言っちゃなんだが、なぁーんもない村だ。ああ、あんたの事情はしっとるよ。そこは言わんでええ。カーン様の方じゃ。」


「カーン様が来たほうにたまげたわい。うちの村なぞとっくに地図から消えとると思っとったからの。」


「まったくじゃ。」


「あ…ええとアルヴィンさんは、この近くに住んでいる、とある一族を訪ねに来たそうです。」


おし、取っ掛かりはできたぞ。

おじいさん達なら、昔の話も知っているかもしれない。


「ある一族?」


聞き返されてはたと気付く。

しまった、詳しくは知らない。


「あ…えーと、自分もよく分からないんですが、調律者と関わりのある、幻の一族といわれた人達がいるそうです。北の辺境に集落があるらしいんですが、全然手掛かりが掴めないらしく。場所すら具体的には分からないと。昔話でも噂でもいいから何か情報が手に入らないかと思ってこの辺りを旅してるんだそうです。何かご存知ありませんか?」


「はてさて…そりゃまた…」


「なぞなぞのようじゃのぉ。」


うん、自分でもそう思いました。

“~らしい”と、“~だそう”って伝聞調ばかりではっきりしない事、この上ない。

もう少し突っ込んで聞いておけばよかったよ。


「そうだな…言い伝えならあるにはあるが。」


黙って考え込んでいたペトリさんがぽつりとそう洩らした。


「えっ、どんなものですか?」


「全く関係ないかも知れんが…ここより北に行った所さ。何の変哲もない野っぱらなんだが、誰もが避ける場所がある。」


「「ははぁ、あそこか。」」


残りの二人も思い出したのか、納得顔だ。


「? どうして避けるんです?」


「昔から、そこは避けるよう言われていたからだ。なんせ近くに行くと自然とその場から離れたくなるか、酷い者は具合を悪くする。『ここにいては駄目だ』という気分になる。朝方ならともかく日中でももやがかかっている場所で、大したものも取れん。結局そこより北には、ここいらの村の者は行かなくなった。」


ええええ、怪談ですか。

そんな怪奇現象が起こる場所に進んではいきたくないぞ。

だが続けられたヘンリクさんの話に耳が向いた。


「随分、古くからある言い伝えじゃがなぁ。確かに調律者に関係したものかも知れん。もうおらんが、ばばさまも言っとった。『立ち入れないなら無理に進むな。そこは生まれ持った力が故に、世をしのび、落ち延びた者に通づる場所。近づかねば害は及ばぬ。』と。同じ場所のことじゃろうて。」


ユハさんが自分の髭を撫でながらぽつりと呟いた。


「大きすぎる力は、あがたてまつられもするが、おそいとわれもするもんじゃ。こればっかりはどうしようもないの…。」


その人達が存在を知られたくなくて何かしたのか。

はっきりとは分からない。

しかし、不思議な能力を持つ一族がそれゆえに世間から身を隠したと思うならば辻褄は合う。


「その婆さまという方は…?」


「ん、ああ。先々代長老のことじゃよ。ようまぁ長生きした方じゃ。亡くなる直前までぴんしゃんしとった。」


既に亡くなられていることに、落胆する。

でもこれは手掛かりと言えるんじゃないか。

当たり障りのない場所は既にアルも行った筈だ。

オカルトめいたことは苦手なんだが、そこへ行かないと帰る方法を知ることができないとなれば。


(背に腹は代えられないってか。後でアルに話しておこう。)


近づかねば害は及ばぬってことは、近づいたらどうなるか…。

不吉な予感しかしないが、話してくれたおじいちゃんズに顔を向ける。


「ちなみにこの村からだと、どちらの方向になるんですか?」


「そうさの。糸杉の道が、畑の向こうにある。そこを進んでさらにまっすぐ北に行ったら分かる。距離はあるがな。いつももやがかかっているから、景色がけぶって見える筈じゃよ。」


「ありがとうございます、何かの助けになるかも。アルヴィンさんにも伝えておきます。」


「ほっほ、大した話じゃないがの。」


「しかし、具合が悪くなる場合は無理はしちゃいかんぞ。」


「そうそう。そこから離れたら不思議と症状もぴたりと止むからの。」


「小さい頃は肝試しに使ったもんじゃい。」


「後でこっぴどく叱られたがの。」


ひょっひょっひょっと笑い声で懐かしそうに話す。


(あぁぁやっぱり心霊スポットじゃんかぁ…)


まあ自分自身がここにいるのも、ある意味怪奇現象といえなくはないか。

あきらめもつくさ。






それから後は、セルマさんが届けてくれたお弁当を広げ、おじいちゃん達とミリアとセルマさん皆でお昼にした。彩りもよくおかずがつめられたお弁当とお茶に舌鼓を打ちながら、旅の途中に必要になるかもと色々な事を教えてもらった。他にも旅にはいらない楽しい昔話なんかも。おじいちゃんずは語りが上手く、思わず聞き入ってしまう。お返しに自分の国の昔話の披露をしてあげたいところだが、ボロが出そうなので止めておいた。


おじいちゃんずも仕事に戻らんとという時間になったので、手を振って分かれ、ミリアと一緒にアルヴィンさんのいる村長の村へ向こうことにした。




おじいちゃんずが楽しくて長くなってしまいました…。

やっとこさ手掛かりをつかんで、二人もそろそろ動き出す…かも!?

今回も読んで下さり、ありがとうございます。

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