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光の彼方の音  作者: magnolia
2章 -邂逅-
22/30

22 彼と彼女の関係 -番外-

セルマさん視点での、彼と彼女の様子です。




 (ふん ふ~ん。 今日も良い日だったわぁ)


畑の野菜の育ちは順調だし、山に入ったユアン達もたくさんの実りを手に入れられるはず。


帰ってきたら、保存食を作る準備をしないと。

肉は塩漬けにして。

ああでも、燻製も捨てがたいわ。

果物はとびっきりのお酒をつかって果実酒に。

とろけるようなシロップは子供のお祝いのために。

テビアの実と一緒にじっくり煮込んだジャムも作りたい。

さっぱりしたヴィンに漬け込んでおくのもいいわ。

毛皮が手に入ったら、襟巻きに加工して売りに出そうかしら?



うきうきしながら、家に帰ったら、お父さんがいた。


「めずらしい、どうしたの?」


畑仕事がすんだら、すぐ母と住んでいる家に帰っちゃう愛妻家なのに。


「おお、セルマ。待っとったよ。実は客人が来られとる。よかったらお前のとこで面倒を見てやってくれんか?」


「お客? この村に? 珍しいこともあるわねー。別に構わないけど、怪しい人じゃないの?」


「いやいや、そんなことはない。カーン様じゃから。」


「へーそう…って本当?!」


「うむ、きちんと調律者さんの証を見せてくれたよ。なかなかの御仁のようじゃった。」


「うーわー…うちみたいな鄙びた村にカーン様が来るのっていつぶり?もうすっかり音律堂には忘れられてるんじゃないかって思ってたくらいなのに。」


「いや、巡察というわけではなく、用があって村に立ち寄ったようじゃった。ああ、それとな。連れもおった。」


「同じく、調律者の方?」


「いいや…、あぁでも調律者とも言っておったかの? 賊に襲われたところを救ったと。まだ少年じゃったよ。気の毒に。」


「まあ…!」


とにかく、村の入り口近くで待たせているからとせっつかれて、慌ててそこに向かう。

子供達にはとりあえず呼ぶまでおとなしくしていなさいと言っておいたが。


 (黙って、いい子にできるかしらねぇ…)


ただでさえ娯楽のない村。

そこにやってきた調律者と、賊に襲われ記憶を失ってしまった少年。

お父さんにそこの部分だけは聞くことができたけど。


 (エルサやカルロッタがすぐ食い付きそうなネタよね)


村一番のおしゃべり2人を思い出す。まぁ他の面々もたいして変わらないわね、と溜息をついた。




 ***




アルヴィンさんは、見上げるほどの長身なのに、威圧感を感じさせない人。

私の方が、変に緊張しちゃった。


それと連れていた子。


アルヴィンさんの背に隠れて顔は良く見えなかったけど、すっきりした面差しの男の子だった。

その年頃の男の子にしては線の細い、とても農村なんかにはいない雰囲気の子。


夕闇の中だからなんともいえないけど、ここらでは見かけない髪の色をしていた。


家に連れて行って驚いたのは、人見知りの激しいミリアがすぐ懐いたこと。親戚の子にもなかなか馴染めない子なのにこれには吃驚。さらにさらに吃驚したのが、彼じゃなくて彼女だったってこと!


 (もおぉ! お父さんったら早合点するからっ!)


背格好では分からないのも無理ない気はするけどね。男の子の格好してたし。

それに部屋の明かりの下でも、彼女の顔立ちは男とも、女ともとれるような造りだった。

つやつやとした黒い髪に、内側から光を宿しているような金色の瞳。

とっても珍しい組み合わせ。



心配していたけど、記憶を失ったトウコは、それでもきちんと受け答えをしてくれた。

年は20歳前後くらいと思うけど、こんなにお行儀がいい子って珍しいわよ。

いや、女の子なら普通かしら…?だめね、最初に男の子って思っちゃったから。


手荒れもしてないのに、台所の手伝いを任せてもある程度はこなせちゃう。

小さな子供の相手も嫌がらない。


最初よりもずっと素敵なお客さんだわ、と思ってた。





でも、気付いてしまった。


私達を見て、嬉しそうにそして寂しそうに笑うこと。

会話をしているときは、笑顔を絶やさず、言葉遣いもとっても丁寧。だけど。アルヴィンさんとトゥイミが盛り上がって(まぁ、盛り上がってたのはうちの息子だけだけど)話していて、皆の視線が逸れた僅かの間、彼女は空っぽの目をしていた。まるで置いていかれた子供のように。


本当に一瞬。

見間違いだったの?と思うくらいにそれはすぐ消え失せ、元の表情に戻る。

悟られないようにしているようだった。



気を遣ってる。

それ自体は悪いことじゃないけど、あんな顔を見たのに無理に笑っている様子を見るのは痛々しいし、もどかしい。今までの自分を忘れちゃうって一大事なんだから、遠慮せず頼っていいのに。


見かねて先に休むように言ったら、アルヴィンさんも気付いていたようでさっさと2階に連れて行ってくれた。




後でもっていくお茶は気持ちが落ち着くものがいいわね。

そんな風に考えていたら、アルヴィンさんだけが降りてきた。


「申し訳ない、食事の時に中座をしてしまって。」


「まぁ、気にしないでくださいな。…どうかされました?」


このアルヴィンさんって人、凛々しい顔立ちなんだけどあんまり表情豊かじゃない。眉間に皺寄せてたりするわけじゃないんだけど。それでも先程までは辛うじて上がっていた口元がまっすぐになってるわ。怒ってる…というわけじゃなさそう。ううん、何かしら…あぁ!


「もどかしい、って顔をされてますよ。」


今の表情にぴったりな言葉を言うと、彼は少し驚いていた。


「そのお顔だと、トウコの様子、カーン様に対しても変わらないんですねぇ。」


もしかして助けてくれた彼になら、弱音を吐けるかもしれないと考えたんだけど甘かったみたい。


「…気付いていらっしゃいましたか。」


「なんとなくですけどね。疲れているだろうに気を遣って手伝いまでして。お礼も欠かさないですし。でもねぇ…そんな状態で無理して笑わなくてもいいのに。痛々しいですよ。」


「彼女は…とても前向きで努力を厭わないので誤魔化されそうになります。」


「ええ。自分でできることをやろうって思ってるのは手に取るように分かるんです。でもね、手を差し伸べてあげたくても、尋ねたら『大丈夫です、ありがとうございます』の一点張りですからねぇ。」


今日、少し過ごしただけでも何回耳にしたことやら。


「辛い思いをしただろうに…自分のことも忘れてしまって。まだ人が怖いのかもしれませんね。私達なんか出会ったばかりですし。」


「それを言うなら私も変わりませんよ。」


苦笑交じりの返事だった。


「少しでも元気になってくれたらと思いますよ。やっぱり女の子は笑顔でなくちゃね。 大した助けにはならないでしょけど、出会ったのも何かの縁ですから。明日も元気の出るもの…そうね甘いものでも作ってみましょうね。」


「ありがとうございます。この村を訪れることができたのは僥倖でした。私には聞き辛いこともあるかと思いますので…」


これには笑顔になる。


「嬉しいことを。身の回りのことは任せて下さいな。」


そういうと、ようやく彼の口元も上がった。








 ***









朝ごはんがすんだら、トゥイミは畑の手伝い。私は洗濯と片付け。

アルヴィンさんは、何やら村長に話を聞くからとでかけていった。

トウコが申し出てくれたので、ミリアを任せる。

ミリアには「村の案内をしてね」と話していたけど。


 (どう考えても、案内いらないわよね…)


小さい子に丁寧な物腰で話しかけているトウコは、もしかしたら妹か弟がいたのかも。

こちらが安心して任せてしまうほど、ミリアは懐いてるし。




二人を見送り、水場で洗濯物を踏み洗いする。

 

 (そういえば…アルヴィンさん、今朝何であんなところにいたのかしら?それも走ってたようだったし…?)


水汲み場は家を挟むと、牧場とは逆の場所なのに。

アルヴィンさんと会った時、トウコも少し様子がおかしかったわ。緊張しているというか。昨日の夜、何かあったとか。まさかね。挨拶を済ましたら、そんな空気もなくなってたし。


洗い上げた服を吊るしながら、そんな事を思い出していた。





 ***




お昼、お弁当を作って畑のほうに向かう。


「おとうさーん、少し休憩してー。」


「おお、もうそんな時間か。トゥイミもおいで。」


「そうそう、ミリアとトウコ見なかった?お昼を渡そうと思ってたんだけど…」


「あーお腹減ったぁ。え?なに?」


ばたばた走ってきた息子に手ぬぐいを渡す。


「ミリアとトウコよ。見かけなかった?村を見て回ってるはずなんだけど。」


「えー? ここにも来たけどずいぶん前だよ。多分、集会所に行ったんじゃ…」


「あら、そう? 分かったわ寄ってみる。」


「トウコってのは昨日のお客人かい。」


「そう。調律者の方はアルヴィンさんで…ってお父さん~!トウコのこと、男の子って間違いよ!彼女、れっきとした女の子じゃない!」


「いやぁ、はっはっ。すまんかったな。なんせ男の格好しとるし、背もあったしなぁ。」


「んもう、おかげでトウコに失礼しちゃったわ!」


あの年頃の女の子を男の子に間違えるなんて、大概、失礼よね。

少しはその早合点しちゃうところ、直してほしい。


「まぁまぁ、次は気をつけるさ。彼女にもちゃんと謝っといたぞ。」


手渡した茶を目を細め、啜りながら続ける。


「そういや、カーン様を今朝見かけたんだが、」


「ああ、水汲みしてくれたのよ。」


そうすると何がおかしいのか、お父さんを楽しそうに笑い声を上げた。


「いやいや、水はもう汲み終わった後だったさ。随分血相変えて走っとるなぁと思って声をかけたら、その、トウコだったな。『その子が部屋にいない、見かけなかったか?』とさ。まだ会ってそんなに経ってないようだが、大事にしとるんじゃろうなぁ。あんまり顔には出さんが、中身もええ人のようじゃな。」


 (あぁ、それであんな所を走ってたのか…)


やっと合点がいった。


 (そうよね、助けてからそんなに経ってないもの。かなり人がいいというか親切よね。あ!もしかしてアルヴィンさんったらトウコに一目惚れとか? う~ん、でもそんな甘い雰囲気はないわぁ。年も結構離れてるもの。なんていうか過保護なお兄さんとしっかり者の妹って感じ? いやいや恋愛に年は関係ないわ、あの二人ってどうなのかしらねー?だって二人旅よぅ?? あら、やだ。)


自分の考えに苦笑がもれる。

これじゃおしゃべり好きな彼女たちと変わらないわ。

普通だったら、絶体絶命のところを助けられた女性と助けた男性。

惹かれあって、恋に落ちるってのが王道なんだけど。

そんな雰囲気はまだまだなさそう。



まだ、ね。



二人の関係はどうなっっていくのかしら。

ちょっと楽しみね。


セルマさんもお子さん二人いるんですが、まだまだ気は若いです。恋バナから遠ざかってたぶん、二人の様子を見るのは楽しいのかも。

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