【短短短編作品】たーくんはしらない
たーくんは、今日も教室にいる。
いつも笑顔で、クラスで人気者のたーくん。
成績優秀で、足がはやくて、何よりおもしろい。
楽しいことを言えば、声を出して笑う。
悲しいことがあれば、悲しいとうつむく。
間違ったことをすれば、あやまることもできる。
でも、ボクは知っている。
たーくんには『何もない』ってことを。
たーくんの瞳には、何も映っていない。
笑い声も、謝る声も、表情も、どれも作られている。
昨日の楽しかった出来事を、今日のたーくんはしらない。
今までの全てが、初めて聞いたかのように、楽しそうに笑う。
先生に褒められたことも、友達と喧嘩したことも、何もなかったみたいに。
だから、たーくんには、わからない。
ボクが、もっともっと深いことを。
たーくんが何を考えているのか知りたくて、ボクがどれだけ胸を痛めているかなんて、絶対にわからない。
たーくんは、同じ毎日を新しく生きている。
毎日が違って、毎日が繋がっていることをしらない。
たーくんは、今日も教室にいる。
そして、今日も『何もない』顔で笑っている。