表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色をまとうもの  作者: 散咲
紫の光
2/5

1ー2 子の誕生

 甘夏市大病院。分娩室から産声が聞こえる。その声は廊下まで響いてくる。赤子は、花梨(カリン)に抱かれていた。秋桐(アキギリ)も、感極まり、涙する。そして、大きな腕で花梨(カリン)と赤子を抱き締めていた。助産師と看護師も手をパチパチと叩いて、赤子の誕生を祝福している。秋桐(アキギリ)の母である、椿(ツバキ)花梨(カリン)の母である、(ラン)も付き添っていた。初めて誕生した孫を見た瞬間、二人は抱き合って喜んでいた。


「よく頑張ったわ、花梨(カリン)。これから、本当の結婚生活の幕開けよ。辛いこととかあれば、私にいつでも相談して。秋桐(アキギリ)、あんたは、本当バカだけど、絶対に花梨(カリン)を泣かせないようにね。花梨(カリン)秋桐(アキギリ)に幸せにしてもらいなさい。花梨(カリン)は、私の大切な娘でもあるんだから」


花梨(カリン)、よく頑張ったわ。貴方は、次のステージに一歩踏み出すのよ。でも、育児は大変よ。2人は初めで、苛立つこともあるかもしれないわ。でも、そんな時こそしっかりこの子に寄り添ってあげるのよ。秋桐(アキギリ)、どうか花梨(カリン)と、一緒に嫌な事も乗り越えてあげて。それは、貴方にしか出来ないのだから」


椿(ツバキ)(ラン)は、いくつもの困難を何度も乗り越えてきた人生の先輩として、秋桐(アキギリ)花梨(カリン)に、エールを送る。そして、約束をした2人で赤子を幸せにすると。


 一方、分娩室の外では戦いが繰り広げられていた。それは、一刻でも早く孫の顔を見たいと争う祖父達であった。祖父達は、椅子に座り、分娩室の扉が開いた瞬間、立ち上がれるように椅子から少し腰を浮かせていた。


(ヒノキ)さん、わしはこの為に頑張って瞬発力を上げてきた。だから、お前さんよりわしが孫の顔を早く見る」


「なぬっ、なはは、樹節(キブシ)さん。わしに勝てると思うかね。わしは、1秒でも1センチでも腰を椅子から浮かせるように、練習して来た。見せてやるよおおお、孫の愛ってやつをおおおおお」

「なぬうううううう」


他の人に聞こえないくらいの、掠れた声で言い争っていると、2人は後ろから頭を叩かれた。2人は、汗を出しながら後ろを恐る恐る振り返ると。(ヒノキ)の後ろに(ラン)樹節(キブシ)の後ろに椿(ツバキ)が、鬼の形相して佇んでいた。妻には聞こえていたようだ。

 

「病院ではお静かに」「病院ではお静かに」


 (ラン)椿(ツバキ)の声が重なる。妻に怒られ、静かになる(ヒノキ)樹節(キブシ)だった。(ラン)(ヒノキ)は、花梨(カリン)の両親であり、椿(ツバキ)樹節(キブシ)は、秋桐(アキギリ)の両親だ。夫を見張る為、妻は、後ろに立ったまま仁王立ちしていた。


樹節(キブシ)さん、わしは毎日星に願いをかけていたんじゃ。花梨(カリン)に何もないように。と言う事と孫が健康に生まれてきますようにと。だから、お前さんには、わしより早く孫の顔を見る権利はない」


「だからと言ってな、(ヒノキ)さん。わしは遠慮はしないんよ。毎日星への願いをかけたとか全く関係がない。大切なのは、どっちの孫への愛が強いかと言う事じゃ」


樹節(キブシ)」「(ヒノキ)


妻達に同時に呼ばれ、同時に振り返ると、強烈なビンタを食らった。2人の左頬にはビンタの痕が赤く残った。2人は、左頬に手を当て、シュンとまた落ち込んだ。樹節(キブシ)(ヒノキ)の声も重なる。


「痛い」「痛い」


「大人気ない、(ヒノキ)も、樹節(キブシ)さんも」


「少しは静かになさい」


そして、分娩室の扉が開きやっと秋桐(アキギリ)花梨(カリン)が出てくる。助産師に付き添われながら花梨(カリン)は、腕の中に赤子を抱いていた。樹節(キブシ)(ヒノキ)は、我先にと行くから立ち上がる。(ラン)椿(ツバキ)は、ため息をつ吐く。


「わしの孫や、可愛いな...。花梨(カリン)よく、頑張った」


秋桐(アキギリ)花梨(カリン)ちゃん、しっかり子育て頑張るんだぞ」


「ありがとうございます。お父さん、お義父さん」


樹節(キブシ)(ヒノキ)の目はキラキラと輝いていた。その目を浮かべていた。祖父にとっても、祖母にとっても初孫誕生の感動は変わらない。


「と言う事で、花梨(カリン)。わしにその子を抱かせてもらえないかね」


(ヒノキ)花梨(カリン)に両手を差し出す。だが、その両手を樹節(キブシ)は、叩いて引っ込ませる。


「何を言ってるんだね。わしが先に抱かせてもらうよ。わしは、しっかり赤子の抱き方を人形で練習してたんじゃ」


「いやだめじゃ。お前さんより先にわしが、赤子を抱く権利があるんじゃ」


「このくそじじいなに言ってんだか」


「なんやと、くそじじいとはそっちや」


(ヒノキ)樹節(キブシ)は、声量をできるだけ抑え、言い争いをしていた。(ヒノキ)樹節(キブシ)が気がつくと、花梨(カリン)達は既に何処かへ行ってしまった。(ヒノキ)が、先に歩き出す。


「待ってくれえぃ、花梨(カリン)や〜」


「わしを置いてくな、(ヒノキ)さんよぉ」



 花梨(カリン)と赤子が回復室にいる間、秋桐(アキギリ)達は、待合室にいた。秋桐(アキギリ)は、椅子に深く座り込み、背もたれに体を預け、天井を見上げる。


花梨(カリン)大丈夫かな...」


秋桐(アキギリ)は、呟いた。椿(ツバキ)は、秋桐(アキギリ)の隣に座り、秋桐(アキギリ)の肩に手を置く。


「大丈夫。アンタって意外と、馬鹿なとこあるけど心配なのね。花梨(カリン)ちゃんは、強いから大丈夫」


「だよね、母さん」


そして2時間経過した頃の事だ。看護師が秋桐(アキギリ)達の下に来た。看護師が来た事に気が付き、我先にと赤子の元へ行く為に、椅子から腰を浮かせる樹節(キブシ)(ヒノキ)


(ヒノキ)さん、ここでさらばじゃ。わしが先に花梨(カリン)ちゃんと、孫に会いに行く」


「ふっ、このくそじじい。わしが花梨(カリン)と孫をお前さんより先に笑顔にさせる番じゃ」


花梨(カリン)さんのご家族様、お待たせいたしました。母子ともにご健康です。ただいまから、面会を開始させていただきます」


看護師は、ニコニコしながら家族に伝える。花梨(カリン)が健康と聞き、秋桐(アキギリ)は、安堵して肩を下ろす。樹節(キブシ)(ヒノキ)は、椅子から立ち上がり、屈み、右足で跪き、両腕を床に起き、お尻を突き上げる。


「祖父のお二方、気持ちはわかりますが、病院内は走らないでくださいね」


「大丈夫、そっちのくそじじいは走る姿勢だが、歩く姿勢だから」


「どこがや、だがわしはこのくそじじいには負けんぞっ 」


(ラン)椿(ツバキ)は、暴走仕掛けてる夫達に頭を抱える。秋桐(アキギリ)は、そんな親達の光景を見ながら、心が少し軽くなる。


「ごめんなさいね、看護師さん。貴方も疲れてるみたいのに、こんな変な光景見せてしまって申し訳ないわね」


(ラン)は、看護師に頭を下げる。看護師は、笑顔で頭を横に振る。


「い、いえ。そんな事ないです。こんな良いおじいちゃん達に愛されて、お孫さんとっても幸せだと思います。花梨(カリン)さんも、子どもを愛してくれて嬉しいと思いますよ。で、面会の順番ですが、どなたから先に向かわれますか」


「はいっ」「はいっ」


看護師の言葉に、(ヒノキ)樹節(キブシ)の声がまた重なる。2人は元気に右手を挙げた。(ヒノキ)樹節(キブシ)の目は、キラキラと輝いていた。そんな夫に妻は、またもや呆れる。


「いや、秋桐(アキギリ)から行くのが常識ってもんでしょーが。秋桐(アキギリ)から行ってあげるのよ」


椿(ツバキ)から、ツッコミが入る。椿(ツバキ)(ラン)は、樹節(キブシ)(ヒノキ)が暴走しないように、服の襟を掴む。


「は、はい」


秋桐(アキギリ)は、(ラン)椿(ツバキ)の迫力に、圧倒される。静かに椅子を立ち、看護師に案内され、面会へと向かった。

現実の病院では絶対もっと静かになりますし、看護師さんとかから厳しく注意になるとは思いますが、沢桔梗家の祖父母達はギャグ担当(のつもり)と言う事で。この作品上、唯一のギャグ担当一家です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ