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意味をふくめて
「いまからフォロッコにむかってるのか? アペレの山小屋に明るいうちに着けないんじゃないのか?」
ルイが眉をしかめて首をふった。
「・・・よく知ってますね」
どこかのなまりがある、のんびりした口調の男がここの山を知ってるなんて思ってもみなかったライアンはおどろいた。
「こどものころ来た程度ですよ。 ―― いまでも、 あの教会はあるんですか?」
意味深なその聞き方に、ゆっくりうなずきかえす。
「 あそこまで知ってる観光客はあまりいない。―― あなた、こっちに住んでいたんですか?」
つまり、この男はマーノック湖近くの『上流階級』が住む区域で、こどものころをすごしたのだろう。
「言ったでしょう?子供のころはいい暮らしをしてましたが、いまは《警備官》になってからだをはって暮らしています」
「いや、そういう意味では・・・」
いや、そういう意味をふくめてきいたようなものだ。
片手をあげて謝った。
「・・・すみません。元、妻が、『上流階級』の人だったので、その、 ―― あなたたちにもいろいろ偏見をもってます」