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山しかない
「スーフ族だぜ?ってことは、はじめっから狼狙いだ。 ―― でもあんたは、狼だと思ってねえんだろ?」
指をさされたライアンは、自分をみつめる若者たちと目をあわせる。
なるほど。考えていたよりも、ちゃんと仕事をしてくれそうだ。
「気持ちはわかるよ。おれたち《警備官》じゃあ、頼りにならないだろうって考えてるだろうし、逆に、あのスーフ族をよんだのはおれたちじゃないのかって思ったんだろうし」
みすかしたようにウィルが前髪をはらいながら、カップに口をつけた。
「 いや、その、」
「なあ、さっきの車じゃみんな乗り切んねえけど、どうすんの?あいつらみたいに、歩いてくとか?」
ザックがコーヒーをすすりながら、ジャンにならんで窓の外をみる。
ここをでたスーフ族の男たちが、木々がしげる道もない方へすすんでゆくのがみえた。
「 ―― あっちはなにがある?」
ドアのちかくに立っているバートがきく。
「・・・『やま』、しかないですよ」
そうだ、ほんとうに、山しかない。