チョコレート菓子
「でも、乗客はいなくとも、この列車には終点まで運ばれる燃料や家畜、注文された大事な日用品がのっているので、どんな雪の日でも動きますよ」とさらに解説して、カウンターの中で身をかがめると、顔をだすのと同時に何かつかんだ手をザックの前にだした。
「もうすぐその乗り換えの駅になりますから、この食堂車も切り離されます。その前にぞんぶん楽しんでください」
ジュース瓶の横に、赤い銀紙に包まれたナッツ入りチョコレートの菓子が山盛りに置かれた。
その赤い包装はザックが子どものころから変わっておらず、ここで《久しぶりに会えた》という感覚になって、さっきもらって食べたときひどく感激してさわいだので(「やっぱこれおいしいよ!」)、なんだか気をまわされたようで、恥ずかしくなった。
「いいよ、これ、さっきももらったよ」
「だって、お友達がたくさんいるでしょ?」
ザックより年上だと思える女が、なかよくみんなでわけなさいとでもいうようにほほえみかける。
「そうだな」
意外にも同意したケンが、口端をあげ、何を思ったのか、これの残ってるのをぜんぶくれ、といって、ポケットから紙幣をとりだした。
それどうすんの?ときくザックに、「たまにはおれも、ほめられねえとな」などとすましてこたえると、釣りはいいと紙幣を追加して、袋につめてもらったそれをふり、グラスをのみほす。
チョコ菓子をおごったくらいでみんなにほめられるとは思えない、とザックが言おうとしたときに、チリン、とかん高いベルがひびいた。