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ファイル№02 ― 食堂車
ファイル№02 ― 食堂車 ―
後ろをついてくるザックをふりかえり、ケンはあきれたように、おまえ全車両往復したんだろ、ときいてくる。
「したけど。 だって、列車にこんなにながいこと乗ってるなんてねえし、こういう長距離なんて乗るの初めてだし、何往復しても楽しいよ」
ザックの祖父の家も同じ州内にあるし、旅行でも、北へむかうこの遠距離移動の列車になんて、いままで乗ったことはなかった。
「 ―― まあ、たしかに長距離は移動するが、目的地は観光地じゃねえしな」
食堂車のバーカウンターで、炭酸水をたのんだケンがいうと、カウンターの中の女が「でも、別荘地があるから休暇時期は混みますよ」と。氷を浮かべたグラスをわたす。
その『別荘地』方面へ向かうためマーノック湖に沿うよう走らされた路線と、もうすぐわかれる。
「この列車にのったほとんどのお客がそちらへ乗り換えるため、これの終点まで乗ってゆくひとはほとんどいませんけどね」
ザックに、本日三度目の同じジュースを渡した女は、二人の若者をみくらべて微笑んだ。