33/260
傷
「それなら、なんでスーフ族は、ライフルを持ってこの列車にのってるんだろうね」
ウィルが自分のとなりにすわるケンに顔をよせてきく。
「おれ、きいてこよっか?」
「ザック。いい子だから座ってろ」
となりのルイが、こどもをさとすようにほほえむ。
目をあけたケンはいつものにやけ顔をしていない。
ルイがいつものおだやかさで、「どうした?」ときいてやる。
ようやく、しかたなさそうにポケットから左手をだし、みんなにむけた。
「 ―― さっきから、いてえ」
それは、まえに『魔法使い』に試された傷だ。
手のひらに《白いカラス》の羽であけられた《穴》は、ケンが警備官になってはじめて、《失神させる》という事態を引き起こしたもので、いまだにその傷跡は残っているのだが、あのとき直径三センチをこえたはずの穴は、うそのように小さく浅いもになっていたはずだ。
それがまた、大きく深いものへとなっている。




