なにもきいてない
「無事でいてくれてなによりだ。 ―― ほんとうに、なにからなにまで、嘘ばっかりだったのに、おれは、ひとつも気づけなかった。 あのとき・・・魔除けの煙草を、おれがあんなこといわないで、ひとくちでもロビーに吸わせておけば、あそこで正体もあらわして、あのスーフ族たちも助かっていたかもな・・・」
喘息ぎみだなんてあのとき初めてきいたが、相棒のかたをもつのは、あたりまえのことだった。
「いや、吸わなかっただろ。なんだかんだっていいのがれて。 ―― ああいう気質だから、《悪い精霊》にみこまれたって、コルボクも言ってたしな」
「・・・スーフ族にも、おまえらにも、感謝しかないよ。テリーもアニーとメリッサも、こんどの夏に遊びに来てくれって。あの山小屋を一週間おさえてくれるらしい。 ―― それとべつに、エボフがお前たちに、特別に頼みたいことがあるって・・・。このはなし、きいてるか?」
「はあ?だって保存協会との連絡はベインがやるだろ?おれたちになんか頼んでも」
「いや、『大事なはなし』だっていうから、バートの連絡先をおれが教えたんだが」
「・・・あんた勇気あるな。あの男は自分の連絡先を広められるのがなにより腹が立つっていう《つかえない責任者》だ。 おれなんかむかし、ジャスティンっていう警察官にだまされて教えたせいで、三か月こっちからの連絡をブロックされたからな」
「 ―― そうか、なにもきいてないのか」
そういって嬉しそうにわらった保安官は、なら楽しみだな、とジャンの肩をたたき、他の班員たちに別れの挨拶をしに席をたってしまった。
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