もう もどらない
ふだん、こういう質問を《する側》なので、こたえるほうにはなれていないのに、なんだかおもってもいないぐらい、自分のくちがよくうごく。
コーヒーを飲み込むのをみとどけたように、ワクナとよばれた女は質問をつづけた。
「 あなたと同じ保安官のロビー・フォスターが、あなたたちのいう《クスリ》をやっていても、あなたはそれに気づかず、いっしょに《クスリ》を摂取したこともないと?」
「ええ。気づいてたらまず殴ってた。持っていたことにさえ気づけなかったんだ・・・休みの日もずっといっしょにいるわけじゃなかったし、あいつが街に遊びにでるのは、若者には普通のことだと思ってた。 ・・・って、警察機構の聞き取りでもおんなじこと話したよ。おれの薬物検査結果、見たいかい?」
首をまげた女が、そのままジョーをみた。
「それなら、あの《クスリ》の『効果』を証言できる人間は、だれもいないというわけ?」
怒ったような声で、手にしたペンの羽部分を元聖父にむけている。
それをうけた元聖父は、ざんねんながら、とライアンに同情する目をむけてきた。
「 ―― あのフォスターはもう、もとにはもどらない」
もどらない?
「ああ、そうだな。・・・たしかにロビーは、中毒症状からもどるのはむずかしいって医者にいわれたが、」
「いや。中毒は関係ない。 もう戻れないんだ。 彼は《魂》を、そのクスリを介して山をさまよう《精霊》と同化させたせいで、半分以上乗っ取られている。 そして、その《魂》から山の精霊をとりのぞくと、・・・彼は残った《魂》だけで、この先をおくらなければならない」