もう一人分のコーヒー
「あんたは正面からはいっても平気だ。おれはウィルにさんざんな言われようだったが、ルイも普段着でかまわないと言っていたし、念のためレイにも確認した」
自分のくたびれたシャツをひっぱり、かけていためがねをその裾でふいた。
さっきまでドアのところにいたレストランの男がいつのまにかテーブルの横に立ち、「裏からはいるのは客じゃないからだ」と銀のポットからコーヒーをそそいでいた。
「正式な客はここにみあった『正常』な服装でくるもんだ。 聖父さんもこのさき、もし客としてくるときがあるなら、おぼえておいたほうがいい」
コーヒーをセットしおえた男はワゴンをおしながら去った。
むかいがわの元聖父の右横にも、なぜかコーヒーが置かれている。
まだ、だれか来るのか?
あの無愛想な《警備官》の班長がくるのかもしれないと思いながら、指先で小さなスプーンをつまみ、カップに落とした砂糖をかきまわすジョーをながめていると、あんたも客としてここに来てたのか?と着ている服を眼でさされた。
「いや。 《元妻》が、何度か予約にはチャレンジはしてたよ」
「そうか。 ―― わるいが、いろいろ調べさせてもらったんで、そのへんの事情はわかってるし、ここまでのことを考えると、もうじゅうぶん驚いて、疲れただろう?」
こちらをうかがうように、大きなからだをまるめるようにカップに口をつける男は、同情するようなくちぶりだが、目はわらっていない。