スーツと燕尾服
「トムの車がついに壊れたんで、おれが迎えにいったんだよ」
「ああ、あの農場のトラックか。おまえが新しいの買ってやればいいだろ」
ウィルの高級車の後ろのスペースに車をとめ、ジャンがパーキングメーターをおろす。
「そうするよ。 いままで新しいのはいやだってずっと断られてきたんだけど、『ジョー・ジュニア』をのせてやりたいから新しくていいなんて、急にいいだしてさ」
ひどくいやそうに眉をしかめ、ライアンをみると、こんどは眉をあげてみせた。
「趣味がいいね。 ―― ぼくもときどき、そこで仕立ててもらうよ」
「《元妻》からの贈り物で、値段を知ってるだけに、これだけは処分できなかった」
スーツの襟をつまんでみせ、ウィルの服装をみてとまどう。
「・・・その燕尾服は、やっぱり高級レストランにいくためか?」
肩をすくめた貴族は、慈善パーティーを抜け出してきたんだよ、と前髪をはらい、腹が減った、と歩きだす。
「ここで昼食なんて何か月ぶりかなあ。しかも、きょうはレイがいる」
指をならし、きみはついてるよ、とふりかえった。
「ああ、なるほど。レイってたしか・・・。つまり、バートの恋人がこの辺のレストランに勤めてるのか?」
ライアンの質問に、横をあるくジャンがうなずき、あそこでな、と通りのむこうをあごでしめす。