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通り過ぎて
あの場は酒も入っていたし、かつがれたのか、聞き間違いだったのか、と現在自問しているうちに、ジャンの運転する四輪駆動車が、高級店がならぶ通りにはいったのがわかる。
彼の車だってきれいだし、それなりにいい車ではあるが、この通りに来るには《大型》すぎる。
元妻や、その仲間が乗り回す車高の低い平たい車たちが、そのレストランのそばで速度をおとし、なかをのぞこうとするが、それは無理だ。
入口は、もちろん専用のスロープが店の傍まで続き、庭の噴水をまわりこむと駐車係がやってくる仕組みで、予約していない客はここですべて断られる。
そして、この店の『予約』はとれないことで有名だ。
車はそのままレストランを通りすぎ、つぎの細い角をまがった。
「 なんだよ。やっぱりおれの聞き間違いだったか」
安堵してシャツの首元をゆるめようとしたら、むこうに馬鹿みたいな排気量と加速で名高い高級車がとまっているのがみえた。
それによりかかっているのは《貴族様》で、こちらに気づいて片手をあげる。