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ファイル№34 ― 信じたい
ファイル№34 ― 信じたい ―
なんだか、ざりざりしたような感覚を、ライアンはさっきから感じている。
それが、すぐ横のロビーからだとは思いたくはない。
なにしろこの感覚は、森で野犬に会ったときや、山で大型の哺乳類に正面からでくわしてしまったときにうける感覚だ。
―― サマンサの家で、あの、床に倒れたスーフ族の男は、ライアンの足を右手でつかんでひきとめ、わざわざそれを離してから、その指を曲げて見せた。
あれは、苦しくて空をかいたんじゃなくて、 ―― 。
「 ライアン?ぼく、『狼男』を撃ったことで、なにか法にふれますか? ねえ、あの『男』じたい、ぼくらの法の上には存在しないんですよ?先住民とちがって、国のどの戸籍にも登録されてないんだ。それでもぼく、なにかの罪にとわれますか?」
いつもだったら、気が弱い男が心配して発している言葉にしかきこえなかっただろうが、これは、 ―― じぶんが罪を問われないことを確信した男の言葉だと気づく。