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雪原に響く
ウィルに声をかけようとする前におしのけられ雪に転がされ、悪態をつきながら走り出した貴族の男のむこうに、しっかりと立って骨董品の銃をかまえるロビーと、そのむこうに両手をひろげた《狼男》がみえた。
上着もきていない《狼男》の白いシャツの胸部分が、みるまに赤くなってゆく。
発砲の残響かとおもったのは、《狼男》の横でコルボクがもらしている雄叫びだった。
やばい
ザックもすぐに立ち上がったが、間に合いそうもない。
先に走っているウィルの手がロビーにとどきそうになったとき、また発砲音がして、《狼男》がからだをふるわせたのと、こちらへむかって走るコルボクが跳んだのが同時で、ザックのすぐ横を黒い影がすぎたのもそのときだった。
ザックもすぐにはしりだし、影のようにすぎたケンをおいかける。
一か所に固まった男たちの叫び声や怒声と、からだをぶつけあう音と混乱が雪原にひびきわたり、ザックもケンといっしょに、暴れるコルボクをどうにかおさえこんでロビーからひきはがす。