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非常食
「あれ?それ、教会に押し入るときにワイロで使ったお菓子だよなあ」
ウィルが驚く。
「おまえがそういうのを余分に持ち合わせてるなんて、びっくりだな」
ルイもポケットからつかみだされたその量に驚いた。
ケンは普段から、『余分』な物は持たない主義だと、みんなが知っている。
「ニコルから、雪山にいくなら、みんなでわけられる非常食をもっていけって命令がでた」
さすがニコル!とさけんだザックがいちばんに、ケンの手から菓子を奪いとる。
みんながいやがるケンの頭をなでてチョコ菓子を口に放り込むなか、コルボクだけがこわごわと菓子をながめ、覚悟をきめたように銀紙をむいてかじりつくと、電気がはしったようにたちあがった。
「どうした?うまくてびっくりした?」
ザックがわらうのも相手にせず、菓子を口につめこみながら、雪のドームの外に身をのりだした。
「 ―― 遠吠えだ」
いつの間にか風は弱まり、雪はもう降っていない。
みんなが息をつめるように耳をすますと、かすかにそれがきこえた。