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ファイル№32 ― 合図
ファイル№32 ― 合図
声はださなかったが、ザックはモーティ山脈方面にある、とある『場所』を思い出し身震いした。
「ザック、さむいのか?抱っこしてやるぞ」
ジャンが両手をひろげるのに、やだよ、とかえす。
「そうか。腹がへったんだな?」
ルイがきづいたようにわらうのに、いいかえそうとしたとき「おれも減った」と宣言したのは、班長だった。
むかいにすわるケンをみて、「よこせ」と命じる。
「なにを?」とききかえしたのはザックだった。
「いまだせば、頭をなでてほめてやる」
バートがくちもとをゆるめて頭をなでる真似をした。
「じゃあ出さねえ」
ケンは口をまげる。
「そうか。 ―― ここで出さずにザックが死にかけたら、帰ってレイに、おまえのせいだと伝える」
この脅しに、きたねえなあ、と不服そうなことをいいながらも、上着のポケットをさぐると、赤い銀紙につつまれたものをだした。