困る嘘
「起きてたのかよ、ってか、なにそれずりーな、どのへんで見たんだよ?」
ザックは手にした紙をひろげて地図の載っているところをだし、目撃場所を示すようにうながす。
めをとじたままの男は地図の一か所をさし、「 ―― ガキのときに放りこまれたこの山で遭難しかけたのを、狼に助けられて、どうにか生き延びた」と棒読みのように言う。
「あ・・・・・」
ザックは口を半分あけたまま、聞いてはいけないことを聞いてしまったのを反省するように、ごめん、と小声でつぶやく。
すると、寝たふりの男の椅子と背中合わせの椅子にすわった男のあきれた声が投げられた。
「 ケン、おまえさ、ときどきそうやってザックがこまるような嘘つくのやめなよ」
ボックス席の、高い背もたれごしに顔をだした男は、邪魔そうに金髪の前髪をはらう。
目をあけた男は、騙される方がわりいんだろ、とザックをみて、いつものばかにしたようなわらいをうかべる。
「それって、前に流行った小説のはなしだろう?」
顔をだした背もたれに両腕をのせ、ケンをみおろすウィルがわらい、ザックが怒ったように、むかい席でのばされている脚をたたく。
なにしろせまいボックス席なので、むかいあった相手にすぐにとどく。
笑いがこらえきれないケンにまだザックが手をだそうとしたところで、通路をはさんだ席から、「 ケン 」としずかな声が発せられた。