187/260
威嚇
「 ちがう。おれたちは、なにもしてない。 ビンにはいってた薬をカナンが移し替えて持ち出したから、《狼男》が返せとせまって、ふたりでケンカしはじめた」
「おれたちは最初から反対した。エボフのいう通り《狼男》も神のつかいだ。化け物みたいに、空まで跳んだり、とんでもない力もあって、かなうわけないんだ」
ふたりのスーフ族が泣きそうな顔で訴えると、上の階で銃声がひびいた。
ロビーに二人をまかせ、ライアンはテリーと階段をかけのぼる。
浴室のドアをひらくと、風がふきあがり、サマンサの祈りの声がきこえた。
「威嚇だけ。 っていうか、狙ってもきっと、よけられたと思う」
アニーがひきつった笑顔でライフルをさげおろした。
「メリッサが窓のそとに男がいるのを見つけたんだけど、 ―― わらって手をふってきたんだよ」
「しかも、いい男」
サマンサの肩を抱いて浴槽にすわるメリッサが眉をあげてみせる。
アニーも同意したのか肩をすくめた。