とりあえず
ジャンが「まずいな」とこぼした。
「 ―― 《狼男がリーダー》の場合でなくても、売り渡し先のダゲッドム族、つまり、サマンサのところへ売り渡されにいく《狼男》は、どうすると思う?」
ザックが首をかしげ、サマンサは《狼男》を狩ってほしくてスーフ族をやとったんだけど、そのスーフ族が直に届けにきて、でも、《狼男》はばか力でわざと連れ去られたかもしれなくて・・・と眉をよせ、結論をだした。
「とりあえず、ヤバそうな気はする」
顔をあげたときには、バートとウィルはもうずっとむこうを歩いていた。
風はやまず、また、雪が大粒になりはじめている。
ジャンが荷物につけた無線機をとりあげて一回ためすが、やはり役にたつわけもない。
そのとき、指をならしたルイが、ものはためしだから、とじぶんの携帯電話をとりだし、ジャンにわたした。
顔をしかめた男はいやそうに番号をおしてみる。
「 ―― あ、ライアン? いや、山小屋にいるんじゃない。スーフ族の一人が死んでるのをみつけた。 毒矢が胸に刺さってた。ああ、理由はどうあれ、サマンサのところに狂暴化した《狼男》が行く可能性があるんで、なるべくいそいで・・・ もうサマンサのところにつく? そっちの天気は? ・・・へえ、青空か・・・ まあ、とにかく、そっちのことは頼んだ。 え?あー、おりかえしこっちに電話もらうのは無理だなあ・・・。なにしろ、魔法使いのきまぐれで一方的につながる携帯電話なもんでさ」
いいながらみあげた空の雲は、まだすこしも動いていなかった。