言ってないこと
命じられたスーフ族の男は、おれのほうが目が利く、と前に出る。
「だめだ。 おれのいうことをきくように《ボス》に言われてるのを忘れたか?」
めずらしく筋の通った言葉でひきさがらせると、ルイをみて、「おまえ省略しやがったな?」と目をすがめた。
「 おまえに『だいじなことを伝えるため』に庭師が伝えたことが、まだあるだろ?」
「おれ、なにか言ってないことあったっけ?」
ルイのいつものとぼけたような返事に、ケンがじぶんのライフルケースにさしたスーフ族の矢をしめす。
「こんな、木と骨でつくられた矢を、手で心臓まで刺してんだぜ?おまえの『おはなし』にでてくる『狼男』って怪力だろ? 人を襲わないってほんとか?」
ああ、と思い出したようにわらったルイが、襲うような感じじゃないけど、と雪に埋まるようにして倒れている遺体をみていった。
「 ―― そりゃ、『狼』だから、身体能力は高いだろうし、ああ、そういえば、 ―― 森で切った木を山まで運んでたって言ってたかも」
「その木で、あの山小屋を建てたんじゃないの?」
ウィルがあきれたようにいって、腿のホルダーに大振りのナイフをつけなおしている。