残った先住民族たち
「はじめからずっとだ。 サマンサは、姉みたいな従妹を、『狼男』にとられたとおもってる」
銀のケースからあたらしい葉巻をとりだしながら、エボフはあきれた目をテリーにむけた。
「おまえも、いいかげんサマンサから離れたほうがいい。狩りができるならあの小屋で一人でも暮らせるだろう? サマンサのことは、そこにいる保安官に任せるか、先住民族保存協会に連絡すれば、いい施設を紹介してくれるはずだ」
意外にも現代的で的確な助言をしたスーフ族の男は、葉巻の端をかみきると、マッチをとりだし火をつけながらタタをよび、お前は今からサマンサに電話するのは禁止だ、と言い渡した。
するとスーフ族の男がたちあがり、タタのそばへゆき、腕をつかんで部屋の中にひっぱりいれる。
エボフは葉巻をひとくちすうと、ひどく怒られたこどものように壁際ですわりこんでしまったテリーの名をよび、反応がないのに怒ったような声で、もう一度呼ぶ。
「テレンス・ラッスヒーン・ダガンジュニアよ、おまえのことを呼んでるんだ。 いいか?よくきいておけ。先住民族同士での騙しあいは、大昔に禁止されていらい、もうながいことなくなっていた。争いごとも減った。民族同士で争うよりも、あとからこの地にやってきたやつらと、どうわたりあうかのほうが肝心だったから、力をあわせる道を選んだからだ。 だがな、 ―― 『狼男』にかんしてのこの《教会》のことは、おれたちははじめから反対だったのをサマンサからきいているか?タタよ、おまえなら知っているな? おれたちは神のつかいの《狼》を敬っている。人間に害をくわえる《狼》は、神にも嫌われた狼だ。 だが、・・・《狼男》はちがう」