吸う人吸わない人
まあ無理強いはしないよ、というジャンは、つまんだ煙草をライアンに振ってみせた。
それを眉をよせてながめてから、うけとったライアンもひとくち吸って、バートへ渡す。
「おれは吸わねえ」
最後に受け取った男はそれを雪に押し付けて消した。
「なんだ、班長は『おまじない』信じない派なのか?」
あきれたようなライアンへ、煙草を吸うと婚約者にキスを断られるからだ、と火の消えた煙草をポケットに回収した『班長』を、みんながわらう。
「これで天気が急によくなったら、『おまじない』のおかげか?」
「山の天候ならそれもあるだろうけど、『おまじない』のおかげじゃないね」
ライアンの茶化すような質問に、ウィルはまじめな顔でこたえた。
「 どっちかっていうと、山の天気はおれたちの味方なんてしねえだろ」
ケンまでがまじめな声でこたえたので、それいじょう茶化すのはやめることにした。
しばらくまっても風はおさまらなかったが、雪だけがやみ、山小屋を目指すことになった。
強い風でまきあがる雪に全身をたたかれながら、雪って上からしかふらないと思ってた、というザックの発言に、みんながすこしわらったのを、ジャンのバッグの紐をつかみ、目もあけられずに突き進んでいた本人は気づかなかった。