表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/50

第1話 プロローグ

 ――あっ……死ぬ。


 不死川宗介(しなずがわそうすけ)がそう思ったのは、はるか前方に見えた巨大な魔物が、自分に向けて真っ赤な口をぱかりと開いているのを見てしまった、その時だった。


 世界各地にダンジョンが出現して十数年、探索者ライセンスを取得した者であれば、誰でも低位ダンジョンに入ることがダンジョン協会によって許可されている。若者の多くはダンジョン内の様子を動画撮影することで人気を集め、インフルエンサーとして大金を稼ぐことを夢に見ていた。


 不死川宗介も例外ではない。

 いつものように球体型自動撮影カメラ(ドローン)を回しながら、ダンジョン探索を行っていた。

 彼が探索するダンジョンは日本でも有数の低位ダンジョン、そこはすでに多くの探索者(シーカー)によって調べ尽くされたダンジョンであり、通称初心者専用ダンジョンと呼ばれている。


 実際、動画配信者の間では視聴数が稼げないという理由から【墳墓の迷宮】は不人気だった。

 最近はめっきり、ここへ訪れる配信者も少なくなっていた。


 それでも不死川がこのダンジョンに足繁く通うのには理由があった。

 不死川の探索者(シーカー)としてのランクは下から二番目のFランクだったため、彼が入れるダンジョンは限られていた。Fランク探索者が入れて、なおかつ彼の自宅から通える距離にあるダンジョンとなれば、【墳墓の迷宮】以外に存在しない。


 受付の羽川には探索者(シーカー)を辞めるよう助言されていた不死川だったが、彼には辞められない理由があった。

 彼の妹は難病を患っており、医師からは余命1年と宣告を受けていたのだ。

 もしも妹を救える可能性があるとすれば、それはダンジョンで入手可能なレアアイテム、【女神のなみだ】をおいて他にはない。


 生活費と【女神のなみだ】を入手するためにも、不死川宗介は探索者(シーカー)を辞めるわけにはいかなかった。


 その日も、不死川はいつもと同じように迷宮の浅い層で、ひたすらスケルトンやスライムを狩っては、素材やら小さな魔石やらを収集していた。

 それが毎日の日課で、今日もわずかな視聴者に語りかけながらダンジョン内を撮影し、夕方ごろになったら地上に戻り、ダンジョン協会に素材を納めて数日暮らせる程度の賃金をもらう。

 そのつもりだった。


 だというのに、だ。

 そいつは唐突に出現したのだ。


 歩きなれたダンジョンで不死川が迷うことはなかったのだが、その日はなぜか、普段使っている通路に異なる通路が出現していた。


 これが、彼の命運を分けた。


 本来ならば引き返し、ダンジョン協会に報告すべきだった、が――探索されつくされたダンジョンには宝箱がなく、不死川は一度も宝箱を入手した経験がなかった。

 宝箱から発見されるアイテムや魔道具はレアリティが高いものが多い。


 もしかしたら【女神のなみだ】があるかもしれないし、またそうでなくても、ある程度探索してマッピングしておけば一稼ぎすることも可能なのだ。

 代わり映えしない配信のネタにもなるかもしれないと、そんな欲に目がくらみ、不死川は通路に足を踏み入れてしまったのだ。


 結果として、しばらく歩いていったところにあった墓地で、彼は『不死の王冠』なるアイテムを入手することになるのだが、同時に巨大なドラゴンと相対することにもなる。


 ドラゴン。

 それは最高位の魔物であり、一般的にはAクラス以上の探索者(シーカー)が数人がかりでも敵わないとされている化け物である。

 その見た目は様々で、一般的なドラゴンタイプのものから、巨大な殻を背負った蝸牛のような形態のもの、また植物のような見た目をしたものもいる。


 その強さは魔王にも匹敵すると云われており、中にはドラゴンを神と崇める者たちまで現れていた。


 間違っても、不死川のようなFランク探索者(シーカー)が勝てるような相手ではない。

 挑んだところで、ドラゴンに傷をつけることなどできるはずがなかった。


 また、戦いを挑もうという愚か者もいない。

 不死川も同様だ。


 彼は即座に逃げようと、身をひるがえそうとした。


 ――だが。


 相手は神にも等しい化け物。

 不死川は逃げようとしたところで気づいた。

 気づいてしまった。


 ――足が、動かない。


 足だけではない。

 全身が凍りつき、どれだけ動こうとしても、意思に反して身体は従わない。

 あまりにも実力差がある者同士が対峙すると、まれにこのような状態になることがある。

 強大な魔力が迫り、体はその威圧に抗うことなく自由を奪われる。

 これは、まさに恐怖と無力感の極致だった。


 不死川は圧倒的な存在を前に、完全に身動きが取れない状態に陥っていた。

 それを理解したとき、心の底から勘弁してくれと思ったが、そんなことを考えたところでどうにもならない。

 そのときの彼にできたことと言えば、ただただ目の前にいる魔物を見つめながら、どうか殺さないでくださいと祈ることだった。


 しかし、現実は無情である。


 ドラゴンは、王冠を頭に乗せた不死川を確認すると、その口を大きく開き、そして一気に灼熱の炎を吐き出した。


 ――あぁ、俺を殺すきだ。


 最期の瞬間、不死川はのんきにそんなことを考えていた。

 その背後で、宙に浮かぶ配信画面(ライブウィンドウ)には、彼を心配するコメントが飛び交っていた。


 :見惚れてる場合か逃げろ不死みん!

 :おれ、ドラゴンとか初めて見た……

 :ここって初心者ダンジョンだよな?

 :不死みんは【墳墓の迷宮】にしか行かないはずですよ。

 :行かないんじゃなくて、行けないが正解なww

 :最弱にして【墳墓の迷宮】の主だからなw

 :今はそんなことどうだっていいだろ!

 :冥土の土産にすげぇもん見せてくれるじゃん。

 :人が死にかけてるってのにてめぇら不謹慎なこと言ってんじゃねぇよ!

 :近くに探索者(シーカー)いないのか?

 :約1名ガチ信者いるの草。

 :【墳墓の迷宮】なのでたぶん誰もいないと思います。

 :いたってどうにもならんだろ。

 :さすがにグロは見たくないから落ちるわ。

 :薄情過ぎてワロタ

 :笑ってる場合か! ダンジョン協会に通報しろ!

 :今からでは間に合いませんよ。



 妹を救うため、日銭を稼ぎながらダンジョンに潜り続けてきたが、それもここまでだ。

 あっけないものだと苦笑がこみ上げ、同時に思い浮かぶのは、病室で待つ妹・不死川雪菜(しなずがわゆきな)の顔だ。


 早くに両親を失ったふたりには頼れる親戚もない。自分がここで死んでしまえば、妹の入院費を誰が負担するのだろう。余命1年の妹を救う手立ては果たしてあるのか。


「くっ……」


 ――こんな所で死ねるか!


 不死川は恐怖を振り払い、全速力で駆け出した。ドラゴンは遠ざかる彼の背中に向けて灼熱の業火を吐き出した。

 そして、次の瞬間、不死川の体は燃えさかる炎に飲み込まれてしまった。


 死の瞬間か、あるいは死んでからだったのかは定かではないが、意識がなくなる寸前、不死川は頭蓋の奥に奇妙な声を聞いていた。




【アイテム――不死の王冠の効果が発動されました】




 ◆◆◆◆




 それからしばらくして、不思議なことに不死川は目覚めた。


 ドラゴンのブレスをその身に受け、確実に死んだと思われたにも関わらず、彼は目覚めた。


 そして、気がついた。


 ――……なに、これ?


 目覚めた直後、不死川は状況を確認して、カタカタと自らの頬に手を当てた。


 ――硬い?


 頬のやわらかさに自信があった不死川は、木のように硬くなった頬に違和感を覚えていた。


 おそるおそる手を見てみる。


 すると、そこにはかつてあったはずの肉がなくなっていた。当然、皮膚もない。

 そこにあるのは、白くて細い骸骨のみ。


 ――え……。


 そしてそれは手だけに限らず、体全体がそうだった。

 足は、肉も皮膚もなくなり骨がむき出しの状態。

 ふとももも、二の腕も同様だった。

 衣服を捲りあげて腹を確認するが、やはり肉も皮膚も消えている。おまけに内臓もすべてなくなっていた。



 Fランク探索者、不死川宗介はいつの間にか、人間からアンデッドへとクラスチェンジしていたのだ。

==================================

【☆あとがき☆】


まずは読んでくださり誠にありがとうございます!

読者の皆様に、大切なお願いがあります。


少しでも、

「面白そう!」

「続きがきになる!」

「期待できそう!」


そう思っていただけましたら、


ブックマークと評価を入れていただけますと嬉しいです!


モチベーションが上がって最高の応援となります♪

何卒宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ